宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続き麻雀回。


第261話 高校一年編 ⑤ 連続和了

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視点:神の視点

 

東一局一本場 親:小瀬川白望 ドラ{二}

小瀬川白望 29800

宮永照   25000

弘世菫   25000

戒能良子  20200

 

 

(なるほど……そういう事か)

 

 前局の東一局を様子見、そしてつい先程『照魔鏡』を使用した宮永照は、インターハイの時から気になっていた戒能良子の能力の正体を突き止めることができて納得したような表情をする。インターハイで宮永照が唯一敗北した相手である戒能良子、宮永照からしてみれば因縁の相手と言っても過言ではなかった。『照魔鏡』を通しても何も見ることが不可能だった、そういった意味ではある意味小瀬川白望と同じ位不気味であった戒能良子。その戒能良子相手には、宮永照は手がかりを何もつかめることができず、点数的に見れば接戦だったものの、内容的には完敗に近いものであった。戒能良子が次々に繰り出してくる攻めに対応することができず、結局高火力同士での削り合いとなってしまった。

 しかし、今回は違う。宮永照は戒能良子の能力、その全てを看破した。何故あの時見ることができなかったのか、そしてどんな攻撃を繰り出してくるのか、今の宮永照なら迷う素振りもなく、確信を持って答えることができるであろう。宮永照の『照魔鏡』は複雑かつ多彩な能力にこそ真の力を発揮するのだ。そういった意味でも、戒能良子は見ることさえできればかなり相性の良い相手であるといえよう。

 

 

(バッド……焦りがミスを生んでしまいましたね……)

 

 戒能良子は唇を噛み締めながら、小瀬川白望の捨て牌をよく見る。あの捨て牌だけでも、戒能良子の{5}を狙っていたことが分かるのだが、よく注意して観察したとしても振り込むことを避けることができたかと言われれば肯定することはできない。それほど小瀬川白望が捨て牌で織り成す迷彩は恐ろしいほどの効果を発揮しているのであった。本来、捨て牌というものは自分の手牌で使えなくなった牌の事であり。言うなれば用無しの牌なのだが、小瀬川白望はそんな捨て牌ですらも攻撃として利用している。もはや小瀬川白望にとって、卓上全てが武器のようなものであった。

 そして戒能良子にとって更に痛いのが宮永照に能力を看破されてしまったことだ。戒能良子は何かに偏ることがなく、その場その場で使用する能力を変えていくことで一貫しないのに、どれもが一級品に強いというのをウリとしてきた雀士だ。それが全て暴かれてしまった今、まともに宮永照と闘えば勝てるかどうかは怪しいものだ。何よりこの卓には小瀬川白望がいる。それは宮永照にとってもマイナスだが、戒能良子にとってもマイナスであるという事には変わりなかった。

 

 

(……さて、そろそろ()()()()()……白望)

 

 宮永照は配牌をとると、手牌を見るよりも先に小瀬川白望の方を見る。小学生のあの時、宮永照は己の持つ異能の力『加算麻雀』で小瀬川白望を一時的には追い詰めたものの、最終的に封殺され、そのまま逆転された。確かに、この『加算麻雀』は強い事には変わりないであろう。しかし、小瀬川白望を討つ槍とはならないのであった。それを宮永照は一番良く知っていた。だからこそ、麻雀を再び始めるにあたって宮永照は模索した。確かにインターハイに勝つのも大事なことであろう。しかしそこに王座はない。本物の王座の目の前には、小瀬川白望が立っている。宮永照は小瀬川白望を捩伏せるために、ある打ち方を開発した。

 

(白望はインハイ見てたと思うから直ぐに気付くと思うけど……私は白望に届いているのだろうか。……いや、総合的なものだったら私は追いつかない。一生かかっても無理。……だけど、勝敗はまた別の話……)

 

 確かに、小瀬川白望のスピードは尋常ならざる速度である。しかし宮永照も負けてはいないほど、素の運というものは大きい。ならば、その速度を最初は速度重視で、そこから段々と速度から火力に切り替えいていけばいいという、後の宮永照の代名詞、『連続和了』を披露する時がやってきた。

 

 

宮永照:配牌

{一四五六②③⑦⑦8999東}

 

 宮永照の『連続和了』を発動して最初の局で引いたのはこの配牌。面子が二つあり、搭子もあるといったまさに高速配牌である。無論、速度に運を全振りしたとはいえ、それで小瀬川白望に勝てるというほど甘くはない。この卓には戒能良子も、弘世菫もいる。油断すれば一気に点棒が吹き飛ぶであろうこの卓で、宮永照の『花』は見事に咲き誇る事となる。

 勝負が決まったのは宮永照が最初のツモを終えてわずか3巡後、全体で4巡目の事であった。弘世菫や戒能良子はまだ字牌整理に勤しんでいるというのにもかかわらず、宮永照は己が手牌を前へと倒して宣告する。

 

「ツモ。500、800」

 

宮永照:和了形

{一一四五六②③⑦⑦⑦999}

 

 ここまでに無駄ツモはわずか1回。好調とも言える宮永照であったが、内心宮永照は冷や汗をかいていた。

 

(……白望の捨て牌。まさか)

 

 その原因は小瀬川白望の捨て牌である。その捨て牌の、3巡目に捨てられたドラの{二}であった。結果的に宮永照は浮き気味の{一}をくっつけて{8}を切ったのだが、もしかしたら、小瀬川白望は宮永照から{一か8}のどちらかが溢れると予測していたのかもしれない。{一}が溢れる方に賭けたが、速度で追いつけず失敗……といった感じであろう。そう思うと宮永照は少しだけゾッとした。もし自分の手が後一歩遅かったら、もし{一}がくっつかなかったら。そんな『もし』だらけの話であるが、小瀬川白望は『もし』を可能にしてきてもおかしくない雀士だ最大の注意を払うのは当然である。

 

 

(まずいな……次は宮永の親か)

 

(……宮永サンの親をストップさせるためには、白望サンよりも宮永サンを狙った方がベターですかね)

 

 そして一方、和了られた弘世菫と戒能良子は宮永照の親に対して警戒を高める。戒能良子は宮永照にあれだけ言っていたが、弘世菫と同じく本来、小瀬川白望がターゲットである。しかしそんな彼女らでもここは宮永照を止めなければというのは重々承知していた。インターハイを共に歩んできた弘世菫は勿論の事、一度勝ったことのある戒能良子も十分理解していることであった。

 

(……なるほど、それが噂の……ね)

 

 そして親を四巡で流された小瀬川白望は、()()(){()()}()()()()()()手牌を自分の方へ倒した。宮永照は速度で勝ったと思っていたが、小瀬川白望は速度も譲ってはいなかったのである。

 

(面白い……『加算麻雀』との複合はどうだか分からないけど、新しい打ち方はかなり面白い……だからこそ勝負する甲斐があるというもの……)

 

 それに、と小瀬川白望は付け加えて弘世菫と戒能良子の事を見る。弘世菫は未知数だし、戒能良子の能力も一端をみただけである。この未知との闘い、小瀬川白望の期待を高くさせるには十分な面子であった。

 




次回も麻雀編です。

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