宮守の神域   作:銀一色

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明華回です。
案の定……


第271話 高校一年編 ⑮ 風神

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視点:神の視点

 

 

「さっき浮いてたよね?」

 

 小瀬川白望は、まず雀明華に聞きたかった疑問を彼女にぶつける。彼女が明らかに地球の重力を無視してゆっくりと飛び降りたというよりは下降していた事についてだ。その問いに対して雀明華はニコリとした表情で「これでも一応、風神が二つ名ですので……」と答えた。小瀬川白望含む後ろの辻垣内智葉とメガン・ダヴァンも答えになっていない答えに若干納得はしていないような表情をしたが、アレクサンドラ・ヴィントハイムは「私が聞いても教えてくれないんだよ」と小瀬川白望達に言う。

 

「マジシャンは手品のタネは明かさない……それと同じですよ」

 

「まあ、この際どうでもいいや……アレクサンドラさん、この子と打てる?」

 

 結局真相は聞き出せないと悟った小瀬川白望は早速アレクサンドラ・ヴィントハイムに聞くが、彼女は首を横に振る。小瀬川白望がどうしてと理由を問う前に、彼女は小瀬川白望にこう答えた。

 

「一応まだ彼女も最後の欧州選手権が控えているからな。今日は顔合わせだけなんだ」

 

「ふーん……そっか」

 

「今日はダメですけど、もしそちらの都合が宜しかったらいつでも相手になりますよ?」

 

 雀明華は少し申し訳なさと本人も打てなくて悔しさが入りまじったような表情で小瀬川白望にこう提案するが、辻垣内智葉は「いや……シロは岩手県に住んでるから、そんなしょっちゅう来れるわけではないんだ……」と言う。

 

「そうなんですか……」

 

 雀明華は残念そうな表情をしたが、ならばといった風に小瀬川白望の手をとってアレクサンドラ・ヴィントハイムに向かって「ちょっと私の能力を見せるだけなら対局してないから違反ではない。そうですね?」と聞く。彼女は少し驚いた表情で「ま、まあ……」と返す。

 

「……なにするの」

 

「ちょっと私の能力で遊びましょう。白望さん」

 

 そういって小瀬川白望の手を握る手とは反対の手を自分の胸に当て、思いっきり息を吸う。何が始まるのだろうとその場全員が彼女に注目する。

 

「L A A A A A〜♪」

 

 すると雀明華は、大きな声で歌声を放つ。おとしやかな彼女の風貌からは想像できないほどその歌は力強く、強大な歌声であった。それを横で見ていたアレクサンドラ・ヴィントハイムはそんな雀明華を興味深く見つめていた。彼女自身、雀明華が歌っているところは何度も見たが、その音声は初めて聞いたのであった。

 

(これが風神(ヴァントール)……映像だけで見たから分からなかったけど、こんな歌なのね……)

 

 そうして彼女が歌い終わると、小瀬川白望の手を改めて強く握ると「ちゃんと掴んでて下さいね」と言うと、何やら集中力を高めるように精神統一した。そうして小瀬川白望が雀明華の手をギュッと掴んだ時には風が何やら不規則な動きをしていた。その動きの変化は、小瀬川白望だけでなくその場全員が感じていた。それほど風の動きというものを明確に支配しているということである。

 

「行きますよ」

 

 雀明華がそう言うと、彼女は少しほど強めに大地を蹴る。それと同時に彼女を押し出すように風が強く、自然の法則に逆らって吹いた。小瀬川白望は風に押し出されて体勢を崩しそうになるが、雀明華の手を握っていたおかげで振り落とされることもなく、宙に浮きながらさきほど雀明華が降りてきた木の周りを何周かしてから、その木の太い枝に再び乗った。

 

「……どうでしたか?短い風の旅は」

 

「びっくりしたけど……凄いね。唯一無二の能力だよ」

 

「それはありがとうございま……!?」

 

 そう雀明華が言いかけたが、雀明華は事もあろうか乗っていた木の枝から足を踏み外してしまう。雀明華の体が落ちそうになったが、小瀬川白望は驚くべき反射神経で彼女の腕を掴んだ。しかしいくら小瀬川白望でも両足とも地についていない彼女は持ち上げる事ができなかったようで、宙吊りになってしまったが、雀明華は冷静を取り戻すと、直ぐに風を操って再び木の枝の上に乗った。彼女は少し顔を赤くしながら、小瀬川白望に謝罪する。

 

「す、すみません……注意していた私が一番危なかったですね。そしてありがとうございます。多分あのままだったら操る前に落ちてました」

 

「別にいいよ……怪我とかしてない?」

 

 そういって小瀬川白望は雀明華の体を触るが、いきなり触られた雀明華は驚いて「だ、大丈夫です!さ、さあ。下に降りましょう」と言って降りようとするが、雀明華は小瀬川白望の手を握ることを少し躊躇った。が、小瀬川白望から握られてしまい頭の中が真っ白になりつつも、慎重に地面に降りた雀明華であった。

 

 

「スゴかったデスネ!シロサン、どうでしたカ?」

 

 地面に降りてきた小瀬川白望に、メガン・ダヴァンが目を輝かせながらそう質問する。「うん……凄かったよ。多分後にも先にも同じ体験は無いと思う……」と答えると、メガン・ダヴァンは「それはヨカッタですネ……」と羨ましそうに言う。

 

「……どうかしたか?明華」

 

「……」

 

「明華?何かあったのか?」

 

「え、いえ!何でもないです……」

 

「……?そうか」

 

 そして戻ってきた雀明華の様子の異変を察知したアレクサンドラは雀明華にそう聞くが、彼女は心ここに在らずといった感じで、アレクサンドラの声もまともに届いていなかった。

 

(……まさか)

 

「……監督。少し話が」

 

 そんな雀明華を見て、辻垣内智葉はまさかと思ってアレクサンドラ・ヴィントハイムの事を呼ぶ。アレクサンドラと辻垣内智葉は彼女たちから少し離れた場所で耳打ちを始めようとする。

 

「……あの、白望さん」

 

「何?明華さん」

 

「携帯番号とか……教えてもらっても良いですか?こっちに来たら私も携帯電話を買うので……」

 

 そして一方では雀明華が小瀬川白望の携帯番号を聞き出そうとしていた。メガン・ダヴァンはその光景を見てようやく気付いたようで、溜息を吐きながら心の中でこう呟く。

 

(ナゼ臨海にはこんなにも白望サンラブの方ガ多いのでショウカ……ネリーもイズレ来るってハナシですシ……)

 

 




次回に続きます。
麻雀回は無いんや……すまないです……

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