宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第273話 高校一年編 ⑰ 負け気

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視点:神の視点

 

「……そういえば、ネリーは再来年智葉やメグみたいに臨海に入るの?」

 

 小瀬川白望は辻垣内智葉とアレクサンドラ・ヴィントハイムが来るのを待ちながら、部屋でメガン・ダヴァンと雀明華と話をしていた。小瀬川白望は何も気にしてはいないのだが、現在雀明華は小瀬川白望の腕を抱いて寄りかかっており、さながら新婚さんのような状態になっていた。きっとこれを辻垣内智葉が目撃したら大変なことになると思いながら、とりあえずメガン・ダヴァンは小瀬川白望の話を聞いていた。

 が、しかし。雀明華が愛をもって小瀬川白望に擦り寄っている。そんな中でネリーの名前を出す小瀬川白望。雀明華は小瀬川白望には分からないようにうまく繕っていたが、メガン・ダヴァンは雀明華が少し嫉妬……というより憎悪に近いどす黒い感情が芽生え始めているという事に気付いていた。だからこそ小瀬川白望の質問もさっさと終わらせようと、メガン・ダヴァンは考えるよりも先に口を動かした。

 

「サア……多分そうなるかもシレマセンネ。ネリーも色々な大会にデテルらしいデスシ……カントクがスカウトするカト」

 

 小瀬川白望はそれを聞いて「ふうん……そうなんだ」と言うと、メガン・ダヴァンは内心で乗り切った!といった安堵の表情を浮かべる。雀明華もその質問が終わったことで機嫌が直ったようで、鼻歌を歌いながら小瀬川白望の腕をより一層抱き締めていた。

 

「待たせたな……って!?」

 

 しかし、メガン・ダヴァンの安堵はそう続くものではない。やっとのことで乗り切ったと思ったら、今度は第二波である辻垣内智葉がやってきた。辻垣内智葉は雀明華と小瀬川白望の今の状態を見ると、驚愕して思わず隠し持っていた刀を抜刀してしまう。それには流石のメガン・ダヴァンも「ヒィィ!」と言って手を挙げる。

 

「貴様……何のつもりだ」

 

 辻垣内智葉はドスを効かせた声で雀明華に向かってそう聞く。抜刀した日本刀を雀明華に向けたままであったが、雀明華は一歩も退く気配はなく、平然とした表情でこう言った。

 

「あら、もしかして貴女もですか?」

 

「何が貴女も……だ。調子に乗ってくれるなよ小娘。国へ帰りたいか?……骨だけでな」

 

 辻垣内智葉はいつになく怒ったような表情で雀明華のことを睨みつける。メガン・ダヴァンは何度か小瀬川白望の事で辻垣内智葉が怒っていたり、脅しをかけているところは見た事がある……というかメガン・ダヴァン本人もそれに巻き込まれた事があるのだが、今回の辻垣内智葉はどこかおかしかった。何というか、今の彼女なら本気で雀明華を殺しかねない。そんな感じがしてならなかった。

 

「殺されるのは嫌ですけど……情熱に逆らっては人間やっていけませんよ?」

 

 しかし、そんな殺されてもおかしくないはずの立ち位置にいるはずの雀明華は未だ余裕そうな表情で辻垣内智葉に挑発をかます。辻垣内智葉はその言葉を聞いてフッと笑うと、雀明華にこう言った。

 

 

「残念だよ。未来の臨海を支えるであろう有望株をここで失うことになるなんてな。……監督にどやされそうだ」

 

 そして辻垣内智葉が重心を退く構えたところで、小瀬川白望がスッと辻垣内智葉と雀明華の間に立って、辻垣内智葉に向かってこう言った。

 

「智葉……どうしたの。らしくない」

 

 小瀬川白望がそう言うと、辻垣内智葉は右手で持っていた日本刀を納刀すると、小瀬川白望に向かってこう告げて部屋から出て行った。

 

「……抜刀までした私にそんな言葉をかけてくれるのはやはりシロ、お前だけだよ」

 

 そうして辻垣内智葉がいなくなると、小瀬川白望はメガン・ダヴァンに向かって「メグ。智葉の様子を見てきて」と言った。

 

「シロサンが行かなくてイインデスカ?」

 

「いや……私が行ったら多分ダルいことになると思うから……お願い」

 

「……了解デス」

 

 そう言って出て行くメガン・ダヴァンを見送ると、小瀬川白望は今度は雀明華の方を見て雀明華に向かってこう言った。

 

「……明華も。将来チームメイトになる人なんだから、仲良くしなきゃ……」

 

「……すみませんでした。私もついムッとなって……」

 

「何が?」

 

「え、いや……ちょっと……」

 

(まさか白望さんと辻垣内さんを含む昔から続く色んな人との関係が羨ましいなんて言えないし……)

 

 心の中で雀明華がそう呟くと、先ほどのようにわざとらしくは近寄らずに、適度な距離を保っていた。

 

 

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「……サトハ?」

 

 メガン・ダヴァンが辻垣内智葉の事を追いかけると、辻垣内智葉は足を止めた。メガン・ダヴァンは辻垣内智葉の事を呼ぶと、「シロに言われたのか?」と辻垣内智葉は問いた。

 

「え、マア……」

 

 それを聞いた辻垣内智葉は「やっぱりな」と言うと、どこか嬉しげな表情をして縁側に腰をかける。メガン・ダヴァンもそれに続くように腰をかけると、早速辻垣内智葉にメガン・ダヴァンはこう聞いた。

 

「どうしたんデスカ……サッキはあんなにオコッテ……」

 

「単なる嫉妬さ。いや……ちょっと違うかもな」

 

「ドウイウコトデスカ?」

 

「最近……シロの事をよく知らずして奴に好意を抱いている者全体に言えるだろうが……そいつらはシロの事をなにも分かっていないのに、どうして私と同じ位置に立てるのか……ってな。酷く醜い嫉妬だろう?」

 

「ソレハ……」

 

「なんであいつらはシロの事をなにも知らない、理解していないのにシロに近づこうとするのか……って最近思ってな。あいつらは何も悪くなはいのにな……でも……シロの事を知っている、古い付き合いの私と一緒の扱いをされるのが……辛くてたまらないんだ」

 

「いつかシロがぽっと出の奴を選んで、結ばれるっていう未来を何度も想像してきた……シロが遠くに行ってしまう。そう思うと悲しくてな……」

 

 辻垣内智葉がそう言うと、メガン・ダヴァンは立ち上がって「……サトハらしくもないデスネ」と言い放った。

 

「……なんだと?」

 

「正直、闘わずシテ負けてイルサトハは見たくナカッタデス……いつものサトハなら、そんなコトは言わナイデショウ?」

 

「……」

 

「ダカラ、戻ってキテクダサイヨ。ツジガイトサトハ。今のサトハはサトハじゃないデスヨ。何事にもアタックしているサトハが、私が見たい一番のサトハデスヨ」

 

「……ふっ」

 

 辻垣内智葉はそう笑って日本刀を抜刀し、庭に突き刺す。そうして改めてメガン・ダヴァンに向かって「すまなかったな。弱気を見せてしまった」と言う。

 

「モウ、大丈夫デスネ?」

 

「ああ、シロは誰にも渡さないさ。最後に勝つのは私だ……シロはなんたって……私が唯一この身を預けてもいいって思った奴だからな」

 

「……ファイトデス。サトハ」

 

 そう言うと、辻垣内智葉とメガン・ダヴァンは元来た道を戻り、小瀬川白望と雀明華がいる部屋に戻った。そうして小瀬川白望と雀明華に謝ると、小瀬川白望は「気にしてないよ。智葉が大丈夫そうならそれでいい」と言い、雀明華は「私もすみませんでした……」と言って握手する。

 

「だけど、私は退く気はないですからね」

 

「なんだ。気が会うじゃないか……どうやら明華とは仲良くできそうだな」

 

 そう言って辻垣内智葉と雀明華は嫉妬や憎悪といった負の感情は一切入れずに互いにふふっと笑うと、それぞれ小瀬川白望の両側に座った。そんな二人を見て、メガン・ダヴァンは(ココにネリーが来たら、ドウナるんデショウ……)と二年後の事を考えると、今から胃が痛くなってしまった。




次回で臨海は終了予定です。

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