今回はあの方達。
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視点:神の視点
「……まだ久との約束の時間までには時間があるか」
小瀬川白望は携帯電話で現在時刻を確認しながら、ギラギラと照ついているはずなのに完璧な見掛け倒しの冬の太陽をバックにそう呟く。今冬、小瀬川白望は実に一年ぶり竹井久に会う為に長野県へやってきていた。どうやら竹井久も小瀬川白望同様麻雀部に所属はしているらしいのだが、いかんせん小瀬川白望達と同じ人数不足という理由から大会には出る事ができずにいた。個人戦もどうやら出る気は無いらしい。そんな実情をつい最近知った小瀬川白望は、麻雀は赤木しげるがいた時代と違い、かなりポピュラーな競技となってしまったが、自分たちのことを見ると世界全てに根付いているわけでは無いようだ、そう考えていた。
「ちょ、ちょっと……!離してください!」
「ん……」
そんな事を考えながら歩いていると、小瀬川白望の耳に嫌悪感が含まれた叫び声が届いた。小瀬川白望がその声の方向を向くと、今いる地点から数十歩離れた場所で何やら騒動が起きていた。ピンク髪の少女が、なにやらガラの悪い小瀬川白望と同年代か、それ以上の男に掴まれていたのである。とはいってもそこには当事者しかいないようで、騒動と呼ぶには些か相応しくはないように思える。
(……はあ)
目の前で起こっている事件や、困っている人を放っておく事など許されないとする正義心を内に秘めている小瀬川白望にとって、現状は見過ごすことのできない事態であった。彼女はため息まじりに、スタスタと平然にそのピンク髪の少女とガラの悪い男の間に割って入った。
「すみません、ちょっとこの娘貸してもらいますよ」
「え、ええ?」
突然割って入るようにやってきた小瀬川白望に対し、ガラの悪い男はもちろん、被害者らしきピンク髪の少女も困惑していた。しかしガラの悪い男はすぐに小瀬川白望に脅しをかけるが、小瀬川白望は怯むわけもなく、ガラの悪い男の腕をグッと掴む。男は割って入ってきたのが女であるとしって油断していたのか、想定外の力で腕を掴まれてしまい必死に解こうとする。が、小瀬川白望が畳み掛けるように胸ぐらをグイッと引っ張って男の眼前でこう言い放つ。
「うるさいんだよ……お前」
これがただの女子高校生であればたいした脅しにもならない、可愛いものであったが、小瀬川白望の脅しは違かった。まるで何人も人を殺したことのあるような冷徹な目、声色。見てる方が怖くなってくるほど冷静な表情の裏に隠された憎悪、本気で殺されるかもしれないと思ってしまうほどの恐怖。全てにおいて小瀬川白望は突出していた。
すると男も耐えられなかったのか、小瀬川白望の腕を強引に振りほどいてうめき声をあげながら反対方向へと駆けて行った。撤退した、というよりは自分の命の安全が脅かされた時の一歩でも離れようという疾走に近かった。
「……大丈夫?」
「は、はい……」
そうして事が済んだ小瀬川白望は、絡まれていたピンク髪の少女に声をかける。少女は小瀬川白望の豹変ぶりに驚いていたが、優しい声をかけられて少しほど安心した。
(……すごい大きい。絡まれても仕方ないかなこれは……)
そして一方の小瀬川白望はというと、誰の影響かまず真っ先に目がいったのはその少女の胸部であった。小瀬川白望よりも確実に大きいであろう少女の実った果実がゆさゆさ揺れているのを見て、小瀬川白望は思わず先ほどの男に同情してしまっていた。
(……私より、年下だよね……)
「……!?ど、どこ見てるんですか!?」
「あっ、ごめん……」
するとピンク髪の少女は小瀬川白望の目線がどこに向いているのかを理解した途端、顔を赤くして胸を隠すようにして小瀬川白望に向かってそういった。小瀬川白望はとりあえず謝ったが、心の中で(……多分、見ない人はいないんじゃないかなあ)と心の中で弁解をしていた。
「和さん!大丈夫でしょうか!?」
「あ……花田先輩……」
そして小瀬川白望の弁解を断ち切るように新たな人物が登場してきた。クワガタのような髪の形をした少女がダッシュでやってくると、和と呼ばれるピンク髪の少女はその先輩の元へと駆け寄った。
「ありがとうございます……花田先輩。でも、なんで分かったんです?私が何かトラブルに巻き込まれてるって……」
「いやあ……後輩が危ない目にあったら、すぐに駆けつけるのが先輩というものですよ。とにかく、すばらくない事にならなくて実にすばらです」
クワガタの髪の少女はそういうと、今度は小瀬川白望の方を向いて「申し遅れました!私、高遠原中学の麻雀部を務めております、花田煌と申します!こちらにいる原村和さんを助けてもらい、どうもありがとうございました!」と簡単に自己紹介と感謝の意を伝えた。
「別に……この子が困ってたから、私は私の意志を通しただけ。感謝される筋合いはない」
「まあまあそう言わず!どういう理由であれ、困った人を助けるその心意気、実にすばらです!!」
花田煌はそう言って小瀬川白望の手を握り、笑顔で握手をする。一方の小瀬川白望は(……面倒ごとにならなきゃいいけど……)と思いながら、ハイテンションな花田煌のことを見ていた。
明日の祝日……実にすばらです……
次回に続きます。