宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続き高遠原中学編です。


第277話 高校一年編 ㉑ サイコロ

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視点:小瀬川白望

 

 

 

 

「……」

 

「ん、どうしたんだじぇ?お姉さん?」

 

 対局が始まってすぐ、親の小瀬川白望は少しほど考えているような仕草をとった。親の配牌は確かに重要ではあるが、最初に捨てる牌に悩むほどではない。故に片岡優希は小瀬川白望に向かってどうしたと聞くが、小瀬川白望は問いには答えずに雀卓から点棒を出すと、点棒を投げ入れて牌を横に曲げた。

 

「リーチ」

 

「すばらっ!?」

 

「ダ、ダブリーですか!?」

 

 小瀬川白望の親のダブリーに対して三人は驚く。その中でも一番驚き、自分の自信を失いかけていたのは片岡優希であった。

 なぜかと言えば、それは彼女のいわゆるオカルトに答えはある。彼女は南場で失速してしまう代わりに、東場で物凄いスピードと火力を得るというオカルトであった。言うなれば、片岡優希にとって東場はまさに彼女の庭、支配下なのだ。しかし、そんな庭に小瀬川白望は悠々と足を踏み入れたのだ。それも、片岡優希よりも早く。故に彼女は驚いていたのだ。まさか東場で自分よりスピードが速いとは思ってもいなかったのであろう。

 

(このおねーさん……たまたまかじぇ?)

 

 片岡優希は息を飲んで小瀬川白望の事を見る。しかし、いくら見つめたところで小瀬川白望からその答えは帰ってはこない。むしろ、小瀬川白望を見れば見るほど正解から遠ざかる。そんな感じがしてならなかった。

 

「……それがさっき言ったオカルトよりも恐ろしいもの、ですか?」

 

 一方の原村和は最初は驚いていたが、すぐに冷静を取り戻して小瀬川白望に質問する。肝心の小瀬川白望は答えをはぐらかすように「さあ……どうだろう」と答えた。

 

(もしこれだけだとしたら……ただの運が良かったって事ですけど……)

 

「……ダブリー一発ツモ、裏無し。3900オール」

 

小瀬川白望:和了形

{一二三三四五⑤⑥⑦2777}

ツモ{2}

 

「なっ……!?」

 

「に、二巡で終わったじぇ!?」

 

 原村和の疑問を断ち切るかのように、小瀬川白望は当然のごとく一発ツモをする。原村和は驚愕して思わず立ち上がる。小瀬川白望はそんな原村和に「どうしたの……オカルトは使ってないよ?」と言うと、原村和は小瀬川白望にこう返した。

 

「……なんで、三面待ちにしなかったんですか?」

 

 彼女は小瀬川白望が最初の一巡目に曲げたリーチ宣言牌、{6}を見てそう言った。そう、あの時小瀬川白望は三面待ちをあえて捨てて、わざと{2}待ちで待ったのだ。

 

「じゃあ逆に、なんで二索で待ったと思う?」

 

「……質問を質問で返さず、答えて下さい」

 

「ふふ……簡単な話、三面待ちよりもこっち(二索)の方が和了れそうだったからだよ」

 

 それを聞いた原村和は反射的に「そ、そんな理由で……!?」と再び驚くが、小瀬川白望は真剣な表情で「理由はそれだけ。そんな理由でも、人を動かすには十分な動機。動機になってしまえば、それ以上もそれ以下もない」と答える。

 

「……さあ、そんなとこで一本場。行こうか」

 

 

 

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「……ロン」

 

「は、速すぎるじぇ!?」

 

 次局の一本場では、小瀬川白望が原村和から直撃を奪った。直前に切った{四}の筋、{一}が小瀬川白望の待ちで、原村和はそれにまんまとかかってしまった。しかもまた単騎待ちであり、どう考えても最善手ではない待ちであった。

 

「また不可解な待ち……!」

 

 原村和は歯噛みしてそう言うが、小瀬川白望は原村和を睨むような目で見つめ、こう口を開く。

 

「不可解なんてそんな……私はただ原村さんがこう考えるだろうなって思ったから打っただけ……そしてあなたは私の予想したように動いた……全然不可解じゃないと思うよ」

 

「だから、どうしてあなたはそう考えた上に、そう動けるんですか!?そんなの、本当にオカルトでも使わない限り……」

 

 そう原村和が言った言葉を聞いて小瀬川白望は(あ、オカルトの事認めちゃった……やっぱりただ認めるのが怖かっただけだったんだね……)と一応原村和のオカルトに対する問題は一応は解決したのだが、小瀬川白望はそのまま言葉を続ける。

 

 

「……例えばさ。サイコロを振って偶数か奇数が出るかどっちかに賭けろって言われたら、あなたはどうする?」

 

「ど、どうするって……そんなの50%の確率、偏りなんてないじゃないですか!そんなの、賭けようが……」

 

「そう。あなたの言う通り、どっちか出るかなんて分からないし、どっちが出そうなんて事もない……これはさっきの事にも言えること。あなたがどう考えて、どう動こうなんてあなたが動くまで正解は分からない。そんな先の見えない賭けを私はしただけ……ただ、あなたができるだけそう動くように誘導はしてるけどね」

 

 そう小瀬川白望は言うと、原村和は黙りこくってしまった。小瀬川白望はそんな原村和を見て、こう言った。

 

「何度も言うようだけど、私はオカルトなんてものは一切使ってない。ただ自分の感じとったものに身を任せているだけ。未来なんて見えてないし、正解が分かっているわけでもない。合理的じゃなくても、私にとってはそれが全て。一番合理的な考え方」

 

 

「……変わってるじぇ、おねーさん」

 

 片岡優希がそう呟くと、小瀬川白望は微笑みながら片岡優希にこう返す。

 

「それが私の強み。……そして、私の誇り」

 

「さ、続けようか……二本場」

 

 




次回に続きます。

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