宮守の神域   作:銀一色

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第1回戦を書いていたのですが、その前の話が案外長かったので、本格的に麻雀するのは次回からです。
本当に申し訳ございません。


第17話 全国大会 1回戦 ①

 

 

 

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視点:臼沢 塞

 

時は少し遡り、開会式を行った日の夜の事である。

 

その日は色んな事(主にシロの誑し性)が発覚し、シロが胡桃に正座充電地獄の刑を受けたりなど、非常に疲れた1日だった。であるから、私は胡桃とシロよりも先に夢の世界へと旅立った。

 

 

〜〜〜

夢の世界

 

 

夢の世界で、私は卓に座るシロの後ろ姿を見つける。

卓に椅子はなく、シロはあぐらをかいていた。

(シロがあぐらとか…珍しいものでもあるんだな。)

 

私はシロの近くへ行くと、私は驚愕した。

 

「今得た勝ち分を全部乗せ、もう一勝負…倍プッシュだ…!」

 

意外や意外。それはシロではなかった。

ただの白い髪の青年であった。

よく見ると、その青年の横には札束がどっさりと積まれている。

 

(似たような人もいるもんだなぁ…)

いや、髪の色が似てるだけであって、普通に見ると、まず間違えない。シロのアゴは尖っていない。

 

気がつくと、その青年と札束と卓はいなくなっており、代わりにシロが前にいた。正真正銘本物のシロだ。

しかし、どこか様子がおかしい。

その違和感に戸惑っている時、さっきいた青年が出てきた。

「○○くん…!」

シロがその青年らしき名前を呟き、私の方に見向きもせず、その青年に抱きつく。

(え、ええー?)

私が困惑していると、2人は恋人繋ぎをしながら去っていった。

 

私はそこに取り残され、再びシロと会うことはないのでした。

 

 

 

 

〜〜〜

 

「ちょっとまてぇぇぇ!」

私はバッと起き上がった。何だったんだあの変な夢は。

 

(まず、シロに好きな人なんていないでしょうが…)

そりゃそうだ。好きな人がいるんだったらあんな事できるはずもない。

 

(あの夢のせいで、何だかすっごい疲れた…)

部屋にある時計を見ると3時。もう真夜中だ。

ふと辺りを見渡すと、胡桃がベッドで寝ているのが暗い部屋の中でも分かった。どうやら正座充電地獄は終わったらしい。流石に3時まではやらないか。

 

しかし、

(シロが…いない…!)

そう。あのシロが部屋にいないのだ。

どこへ行ったのだろうか。

 

私は取り敢えず髪を整え、ホテル内を探す事にした。またシロの誑しが始まってしまっては遅い。

 

ホテル内を探す事数分、ようやくシロを見つける事に成功した。シロはどこかに行こうとしているのか、右手になにかを握りしめている。

 

それが何なのかはよく分からなかったが、私はシロに気付かれないように後をつける事にした。

 

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(一体どこに行くんだろう…)

シロはエレベーターで1回まで降りていった。私は、それを確認して、階段を駆け下りた。

 

このホテルは、1回に部屋は無く、あるのは受付や休憩所、小規模なゲームセンターとお土産しかない。

 

何が目的なのか、と思った矢先に、シロが休憩所にあるテーブルと椅子があるところへ行き、その椅子に座った。

 

その瞬間頭をよぎったのは誰かと夜のデートという事だったが、どうやら違うらしい。

 

シロが右手に握りしめていたものをテーブルに置く。遠くからでよく見えないが、それは御守りのようなものだった。シロがその御守りから石のような欠片を取り出す。

 

「…ついに、ここまで来たよ。赤木さん…」

と、シロがその欠片に語りかけるように話す。

 

ああ成る程、あれは形見といったところか。

 

しかし、気になる点もある。シロのおじいちゃんなどに、赤木という人はいなかったはずだ。

 

(じゃあ、赤木さんって言うのは…)

 

そう思っていたが、事態は急変する。

 

【フフフ…ここまで来た。というよりかは、ここからが本番だろ…?】

 

何と、その欠片が喋ったのだ。

 

空耳ではない。他の誰かがいたわけじゃない。

 

本当に、欠片が喋っていたのだ。

 

【…にしても、寝なくていいのか?明日からなんだろ?】

欠片がシロに質問する。

 

「…別に明日は午後からだし、それに最近赤木さんと全然喋れてなかったし。」

 

【…お前さんの友達の件か。】

 

きっと私たちの事だ。赤木さんがシロの何なのかは知らないが、ちょっと悪い事をしたなあと思う。

【しっかし、お前さんも凄いな。お前さんに対して恋している奴が今何人いるのか、把握してないだろ?】

 

「…赤木さん、恋って事分かるんだ。」

 

【ククク…あまり俺を馬鹿にするなよ。それくらい分かる。】

【それで、】

 

【お前さん、一体誰を選ぶんだ?】

赤木さんが一気に切り込んでいく。誰もが知りたいシロの本心を、いとも容易く聞きにいった。

 

「誰を選ぶか…ねえ」

シロがしばし考える。まさか、ここで結論を出すというのか。呆気なさすぎる。

 

 

「…」

嘘だ。こんな簡単に進んでしまうのか?こんな簡単に終わってしまうのか?

 

「まだ決めない。」

と、シロがきっぱり言う。断言する。

その答えに、私はどこか嬉しくあり、悲しくもあった。

 

【ククク…そうかい。でも、お前さんは何れ決めなきゃならない。…それを忘れるなよ。】

 

「分かった。」

 

 

 

 

私はその後の会話も聞いたが、さっきの話で全く頭に入ってこなかった。

 

これ以上聞いても無駄だと思った私は部屋に戻り、そのまま倒れるようにベッドで寝た。

 

 

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視点:臼沢塞

 

今、私は昼食を食べ終わり、シロが仮眠を取りたいと言ったので仮眠室で寝ている。私はその隣でシロの寝顔を眺めていた。もちろん胡桃もいる。

 

(昨日夜更かししてたから…)

そう思い、シロの頭を撫でてやる。

一体、昨日のは何だったんだろう。赤木さんとは何者なんだろうか。そんな事を考えていると、シロが目を覚まし、

「ん…塞、胡桃。おはよう…」

と呟く。

「何言ってんの、今はもう昼よ。昼ご飯食べたじゃない。」

「ほら、寝ぼけない!シャキっとして!」

と、2人でシロを起こす。

「今何時…」

シロが時間を聞く。私は腕時計を見て、

「13時半。もう直ぐ時間よ。」

と報告する。

「そろそろかぁ…じゃあ、待機室に行ってくる。塞達は観戦室に行ってて。」

と、シロが仮眠室を出ようとする。

が、私はその腕を掴む。

「?」

シロは頭の上にハテナマークを浮かべる。胡桃も、私を疑問そうに見る。

「一つ。質問させて」

そう言うと、シロは

「いいよ。」

と、許可する。

 

私は言った。

 

 

 

「赤木さんって、誰?」

 

 

 

「っ…?え…!?」

シロが驚愕する。恐らく初めて見ただろう。

胡桃は全く知らない人の名前と、それに驚くシロに困惑している。

 

「…ど、どこで、知ったの?」

シロが慌てる。

「昨日…夜の3時くらいに…」

 

シロが冷静を取り戻し、深く息を吐いて、

「…この際、2人に教えてあげる。」

と、昨日欠片が入っていた御守りを取り出す。

胡桃は話の展開についていけない。

 

「…私の師匠。赤木しげるさん。」

【ハハハ…よろしく、嬢ちゃん達。】

昨日見たように欠片が喋る。やはり本当だ。

 

この後、赤木さんとシロの関係を話してもらった。

本当かどうか信じれないほどのびっくりする話だが、本当なのだろう。

 

「そうか…それで、シロがあんなに強く…」

胡桃はさっきまで話の展開についていけなかったが、大体の話の流れは分かったようだ。

 

「今まで黙っててごめん。」

と、シロが深く頭をさげる。

「いや、別にいいよ。」

「そうそう、第一、こんなの普通は信じられないもん!」

私と胡桃がシロを許す。いや、許す以前の問題である。

 

と、そこに赤木さんが口を挟み、

【…昨日の会話が聞かれたって事は、あの話も聞いたんだよな?】

と私達に言う。

 

「あの話…?あっ!」

私が思い出して、顔を真っ赤に染める。

無論シロも、顔が真っ赤だ。

「…待機室行ってくる。」

とシロが言い残し、超スピードで部屋から出て行った。

「…あの話?塞、どういう事?」

胡桃が私に聞いてくる。

「…後で話す。」

と、返した。

「…じゃあ、私たちも観戦室に行こうか。」

と、部屋を出ようとした時、ふと思い出す。

シロが出て行った時、確か赤木さんの欠片は持っていかなかったはずだ。

 

そして振り返ると、そこには御守りと欠片があった。

 

【流石に、ちと寂しいな…】

気まずくなった私と胡桃は取り敢えず赤木さんに謝る事にした。

 

 

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視点:辻垣内 智葉

 

 

聞いてしまった。シロ達が話していたのを全て聞いてしまった。

 

シロが部屋から出た時は、シロは気付かなかったが、私はずっとここで話を聞いていた。

 

そろそろシロの試合だと思い、シロをしらみつぶしに探していたところで、つい聞いてしまったのだ。

 

(赤木…しげる…)

話に聞いた事はある。伝説の男。神域。100回やって100回勝つ男。転ばずの赤木等、数々の異名を持った天才ギャンブラー…

かつての私の憧れの存在だった。

 

彼についての伝説は幾つもある。

彼が麻雀を初めて打った日に裏プロを倒し、その数日後には当時最強とまで呼ばれた裏プロをも倒したとか、70,000点差を僅か2局で逆転したとか、吸血麻雀で今でいう60億と1人の命を奪い会社を潰したとか、人生で負けたのはたったの二度だけとか…

彼のエピソードはまるで下手な作家が考えた最強のギャンブラーみたいな話ばかりだった。

 

そもそも今では実在するのかどうかも怪しい人物だった。

 

(それが、本当に実在してて…霊となっている…)

馬鹿げた話である。しかし、その話は全て真実である。

 

「ちょっといいか。」

私はドアを開け、恋敵共に尋ねる。

「む!シロはいないよ!」

ちっこいのがそう言うが、今はそれどころじゃない。

「…赤木、しげるさんか?」

私は欠片にそう問う。

【そうだが…】

「…お前ら、赤木さんの欠片を持って私について来い。」

 

 

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特別観戦室

視点:臼沢塞

 

恋敵である智葉について行くと、警備員が道を遮るように立ち往生していた。

しかし、

「辻垣内智葉だ。通せ。」

と智葉が言うと警備員は敬礼し、私たちを見て質問する。

「後ろの方々は?」

すると智葉が

「…私のツレだ。気にするな。」

と、若干言い渋ったがまあいいだろう。

 

そこから少し歩くと、今度は黒服がドアの傍に立っている。

黒服が私たちを確認すると、お辞儀をして、ドアを開ける。

 

そこは所謂VIPの観戦室だった。

ソファーとテーブルがあり、大きなスクリーンが映し出されていた。そのスクリーンには、シロが出る前の第5試合目が行われていた。

 

「ちょっと、どういうつもり?」

胡桃が智葉に質問する。

「…赤木さんに、教えて欲しくてな。」

智葉が真剣そうな眼差しで私たちを見る。

「私にっ、シロが好きな事を教えてくれぇ!」

と、深く頭を下げ、言う。

 

【あらら。】

と赤木さんが笑う。

 

 

「…」

胡桃がプルプル震え、叫ぶ。

 

「抜け駆けしようとするなー!」

 

 

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視点:小瀬川白望

 

さっきの恥ずかしさがおさまり、私は今待機室で文字通り待機している。

 

部屋に置いてあるテレビを見て、第5試合目が終わるのを確認してから、私は待機室を出て、試合室へ向かう。

 

 

試合室へ辿り着くと、私より早く来ていた人がいた。

 

「こんにちは。」

取り敢えず挨拶をする。

その人が私に気付き、

「こんにちは。私の名前は上埜久。久でいいわよ。」

と自己紹介する。

「小瀬川白望…どう呼んでもいいよ。」

私も自己紹介をする。

そこに、また新しく人が来る。

「もう人がいたか。ウチの名前は白水哩。今日はよろしくばい。」

「…確か佐賀県の人だっけ?」

私は白水さんに質問する。恐らく方言のせいで変な日本語になっているんだろう。

「ああ、ウチは佐賀県出身ばい。変な方言だばってん勘弁してね。」

どうやら的を射ていたようだ。

 

…後は1人か。

そう思った矢先、その最後の1人が現れる。

「ふふふ…王者は遅れてやってくる…」

確か小走さんだったっけ?

「よろしくばい王者さん。」

と、白水さんが皮肉を交え言う。

「佐賀県の白水だったか。方言でしか喋れんとはニワカめ…」

と、王者さんも返す。

なんだこのピリピリした空気は。

「あ、私西家。」

上埜さんはすでに場決めを始めていた。

マイペースか。

 

私もそれに続いて牌を取る。それは{東}。仮東か。

 

他の2人も牌を取り、場決めが終わる。

そして、ブザーが鳴る。

 

 

 

 

 

(…始まる。)

 

 

 

1回戦第6試合目 開始。

 

 

 

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視点:臼沢塞

 

 

胡桃と智葉の睨み合いも終わり、私達は特別観戦室でシロを見守る。

 

一応赤木さんが解説役として一緒に観戦する。

 

 

(頑張れ…!)

 

 

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視点:小瀬川白望

全国大会 1回戦

東1局 親:小瀬川 ドラ{五萬}

 

小瀬川 25000

小走 25000

上埜 25000

白水 25000

 

 

 

 

 

 

 

 




次回に続きます。流石に次回は麻雀します。
この話だけで5000文字なんだ。許して下さい。何でもしますから!

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