宮守の神域   作:銀一色

296 / 473
前日はまた私用によって書けませんでした……すみません。
今回は高校一年編ラストです。


第284話 高校一年編最終回 孤独

-------------------------------

視点:神の視点

 

 

「……それじゃあ。またいつか」

 

 

 あれから数時間が経ち、小瀬川白望は竹井久の家の玄関の前で竹井久に向かってそう言うと、竹井久は少しほど涙目になりながらも小瀬川白望に抱きつき、「また……いつでも来なさいよ?」とか細い声で言う。あれだけ理性をギリギリのところもあったが、なんとか保ててきた竹井久が別れの時を迎えてとうとう理性という堤防が決壊し、結果このように若干泣きながら別れを悲しんでいたのだ。無理もない。高校に入って大会に出る事もできず、ほとんどずっと一人で麻雀を続けてきたのだ。藤田靖子にように知り合いはいたものの、同年代や同じ高校生で麻雀をやるという者はいなかったのである。そんな彼女が久々に、尚且つ意中の人である小瀬川白望と会えたのだ。本来なら会った時点で泣き崩れてもおかしくないほど、彼女の精神は崩れかけていたのだ。別れの今、涙の一つや二つ、何らおかしいものではなかった。

 

(……そうだよね。私には塞や胡桃、赤木さんがいるけど……久の身近な人で麻雀をする人は誰もいない)

 

 そして小瀬川白望はそんな竹井久の思いを汲み取る。確かに自分も大会に出れるという事はできないが、小瀬川白望には臼沢塞、鹿倉胡桃、赤木しげるといった人物がいた。そのおかげで部活でも十分に活動できるのだが、竹井久は違う。たまに上級生が来る程度で、基本は一人。同級生は一人もおらず、ただ孤独にこの8ヶ月程度もの期間を過ごしていたのだ。自分よりも悲惨な現状にいる竹井久の気持ちを汲み取った小瀬川白望は竹井久の事を抱擁し、こう言った。

 

「分かった……寂しくなったらいつでも言って。直ぐに久のとこに行くから……」

 

 そう言って一層抱き締める力を強めると、また竹井久も強く小瀬川白望の胴体を抱き締める。二人がようやく体を離したかと思うと、竹井久はそのままの勢いで小瀬川白望と口付けをしようとするが、すんでのところで我に返って顔を離し、顔を赤く染める。

 結局小瀬川白望と口付けを交わす事はできずに終わったものの、それ以上に小瀬川白望が竹井久の心の支えになったという事は言うまでもなく、最終的にはいつものような笑顔を小瀬川白望に見せ、元気よく小瀬川白望を送り出した。

 

 

「じゃあね、白望さん。そっちこそちゃんとメール送りなさいよ!」

 

「うん……ばいばい。久」

 

 そうして小瀬川白望が玄関の扉を開け、外に出て行く。その間に外の寒い空気が竹井久の家に入ってきたが、竹井久の熱いハートは冷める事を知らなかった。

 

 

 

-------------------------------

 

 

『……っていう事があったのよ、おかしいわよね〜』

 

 

「うん……そうだね」

 

 あれから時間が経ち、以前以上に電話の回数が増えた小瀬川白望と竹井久。長野と岩手という決して短くはない二つの県の距離だが、竹井久の思いはしっかりと岩手にまで届いていた。無論、竹井久の全ての思いが小瀬川白望に届いているかと言われればそれは微妙な話であるが、繋がりそのものが竹井久にとっての精神的主柱であった。

 

「またシロ電話してる!」

 

「また竹井さん!?最近回数多くない!?」

 

 そして放課後、教室で電話をする小瀬川白望をクラスメートの大半が廊下から隠れて眺めていた。無論その中には臼沢塞と鹿倉胡桃が混じっていた。

 臼沢塞と鹿倉胡桃は誰と電話をしているかを知っているため、まだ何が起こっているのかは分かっているのだが、それを知らない大多数のクラスメートは電話の向こうにいる人物に向かって恨めしい視線を送りながら、小瀬川白望の事を眺めていた。

 

「誰……そいつは一体誰なの小瀬川さん……私の小瀬川さんが汚される……今直ぐそいつの首を落とさなきゃ……」

 

 中でも一際怨念を飛ばしていた宇夫方葵は輝きを失った瞳で物騒な事を呟きながら、廊下の壁に爪を立て、カリカリと音を立てる。流石にそれは鹿倉胡桃に注意されたが、それでも尚呪文のように宇夫方葵は何かを呟いていた。

 そうして流石に長いと思った鹿倉胡桃がとうとう痺れを切らしたのか、大きめに咳払いをすると、小瀬川白望はそこでようやく気付いたようで「あー……胡桃に呼ばれたからそろそろ切るね?」と言って少し会話を挟んでから、小瀬川白望は電話を切って鹿倉胡桃と臼沢塞、そしてその他大勢のクラスメートの元に向かった。

 

「また電話してたの?シロ」

 

「え、まあ……なんでみんなこんなに集まってるの」

 

 小瀬川白望が疑問そうに辺りを見回すが、臼沢塞と鹿倉胡桃は呆れたような表情でため息をつくと、「ほら行くよ!シロ!」と言って歩き出した。小瀬川白望が二人を追いかけようと歩き始めると、背後から宇夫方葵が飛び出してきて叫びながら小瀬川白望に抱きつこうとした。

 

「小瀬川さん!携帯なんかじゃなく、直接私と繋がりましょう!」

 

 そう叫び、小瀬川白望の背中に向かって飛びついたが、すんでのところで鹿倉胡桃に強引に止められる。気を失ってしまった宇夫方葵であったが、小瀬川白望が心配して変に気を回す前に、鹿倉胡桃と臼沢塞は小瀬川白望の手をとって、ダッシュで部室へと向かっていった。

 

 

-------------------------------

 

 

「赤木さん、シロの心を射止めるにはどうしたら良いですか?」

 

 そして同日、小瀬川白望がお小水に行ってる間に鹿倉胡桃と臼沢塞は緊急会議を開いて赤木しげるにそう迫ったが、流石の赤木しげるといえども小瀬川白望をどうやったら射止めることができるのかというのは分からないようで、【フフフ……さあな……それこそ幼馴染のお前らが一番詳しいんだろうが……今までの有り様を見りゃあそういう事でもないらしいな】と返した。

 

「そうなんですよ……」

 

「相手は落とすのに、自分だけ落ちないってズルいよシロ……」

 

(【……あいつもいつかは決めると思うがな。相手から来れば、あいつは受け入れるだろうし……どんな形であれ、俺が唯一得ることができなかった家族ってもんを、あいつは得れるだろうな……】)

 

(【まあ誰も選ばないって事もないわけじゃねえが……そうなったらあいつの言うダルい事になるってのは確実だな……ククク。人気者は大変だな……】)




これでも30話弱あったんですね……
次回から高校二年生編に突入になる予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。