今日から高校二年編なのよー
第285話 高校二年編 ① "シロちゃん"
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視点:神の視点
「〜♪」
「……なんや、なんかええ事でもあったんか?洋榎」
「ご機嫌なのよー」
夏休みを目前とした大阪県姫松高校の麻雀部の部活終わりの部室。そこにはご機嫌に鼻歌を歌う愛宕洋榎がいた。いつも機嫌がいいからそんなに珍しい事でもないのだが、今日の機嫌の良さは類い稀なるものであった。まさか夏休みになって機嫌良くなっているわけでもないだろうと、それを見た同学年の末原恭子と真瀬由子は愛宕洋榎に向かってそう問いかける。
「大正解や。実は明日からシロちゃんが来るねん!」
「「シロちゃん……?」」
末原恭子と真瀬由子は疑問そうに聞き返すと、愛宕洋榎はハッとして「そっか……恭子とゆーこは知らんかったか」と言った。それを聞いた末原恭子と真瀬由子は愛宕洋榎から距離をとってヒソヒソ話を始めた。
「シロちゃんって何なんやろ……犬の名前か?」
「そうだとしたら洋榎ちゃんの意外な一面なのよー」
「でも、犬が来るってことなかなかないと思うのよー」
「まあ、せやけどな……」
そうして結局二人の議論も平行線を辿っていたが、ここで愛宕洋榎の妹である愛宕絹恵に聞き出そうとした。が、しかし。
「はあ……///」
「……ゆーこ。絹ちゃんって彼氏とかできてたんか?あんな恥じらう姿、尋常やないで」
「華の高校生なのよー」
何故か愛宕絹恵は顔を真っ赤にして何かを恥じらう表情を浮かべていたのだ。姉の愛宕洋榎に引き続き、こちらも何があったのかは分からないが、いつもとは違う一面を見せていた。末原恭子は「まあ絹ちゃん可愛ええしな……元々サッカーやっとったし、サッカー仲間とでも付き合っててもおかしくあらへんな……」と言いながら、勝手に解釈を進める。
結局のところ謎が解決するどころか、謎が深まることとなってしまった二人であったが、末原恭子はまだ気づいてはいなかった。愛宕姉妹をいつもとは違う様子にさせている原因の人間が、よもや自分が数年前に出会い、一目惚れした相手であることに。
(一体誰なんやシロちゃんって……そして絹ちゃんには何があったんや……)
そんな答えに辿り着きそうにもない感じの末原恭子であったが、ここで末原恭子の携帯電話が着信音を鳴らす。末原恭子は真瀬由子に「ちょっとすまん」と一言断ってから携帯電話を取り出して中身を確認すると、一通のメールが末原恭子宛に届いていた。
(……誰やろ。オカン?)
そう思いながら末原恭子がメールを開くと、そこには小瀬川白望からのメッセージが画面に映し出されていた。
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From:小瀬川白望
件名:明日から
明日から大阪行くけど、末原さんが良ければ末原さんのところ寄っていい?
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(ま、まさか……"シロ"ちゃんって……)
末原恭子は手を震わせながら携帯電話の画面を見つめる。隣にいた真瀬由子が「どうかしたのよー?」と問うが、末原恭子にはその言葉は聞こえておらず、謎の答えに気づいてただただ驚愕していた。
(小瀬川白望の"白"やったんかーーー!?)
小瀬川白望。末原恭子が中学一年生の頃にばったり出会い、そのままの流れでメールアドレスを交換すると同時に、密かに末原恭子が思いを寄せていた人物。まさかその人物が、愛宕洋榎と知り合いであったという事に驚きを隠せていなかった。
(……ちゅうことは、絹ちゃんのあの表情ももしや……)
一つ鎖が解けたと思えば、末原恭子は次々と鎖を外していく。そして末原恭子は一つの答えを絞り出した。
(よう考えてみたら、彼氏とかだったらあんなため息交じりの表情せんしな……ってことはやっぱりウチと同じやないか!?)
そう、末原恭子の推理通り愛宕絹恵も小瀬川白望に対して恋心を抱いていたのだ。愛宕洋榎はどうなのかは分からないものの、愛宕絹恵に関しては、末原恭子自身、自分もそうであるからそうであると確信できたのだった。
(か……勝てるわけないやん)
そして思わず末原恭子はそんな事を心の中で呟く。末原恭子もかなりの美貌を誇っているのだが、愛宕絹恵に対してはルックスでは勝てないと感じていた。あの愛宕洋榎の妹だからなのか、自分にはない豊満なバストがあるからなのかは分からなかったが、ともかく外見では劣る、そう思っていた。が、
(……いや、違うやろ末原恭子。凡人が最初から負ける気でいてどないするねん。凡人なら凡人らしく、最後まで闘うんや!)
末原恭子は気持ちを一新して、小瀬川白望から来たメールを返す。真瀬由子は未だに何が起こっているのかは分かっていなかったが、直後の末原恭子の愛宕絹恵を見る目が変わったことから、そんな二人を見て心の中でこんな事を呟いていた。
(青春特有の修羅場なのよー……)
そんな事をやっていると、末原恭子達の後輩であり、愛宕絹恵と同い年である上重漫が末原恭子に向かって「末原先輩、顔赤くなってますよ?」と言うが、それを聞いた末原恭子は上重漫の肩を掴んで「漫ちゃん……ちょっとその胸を貸してくれんか……」と詰め寄った。上重漫は少し怯えたような表情で「な、何言ってるんですか末原先輩……!?」と返した。一層混沌とした部室であったが、真瀬由子は微笑ましくその光景を見ながら心の中で再び呟く。
(……でも、面白いから十分アリなのよー)
姫松高校編です。
さてどうなるのか……