宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第295話 高校二年編 ⑪ 枕

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視点:神の視点

 

 

「……次の人どうぞ」

 

「「「っ!」」」

 

 小瀬川白望の着替えタイムを覗き見しようという愛宕洋榎の提案が実行されてから二十数分が経ち、小瀬川白望に想いを寄せている末原恭子を始めとした三人は未だ小瀬川白望の身体の余韻とでもいうのだろうか、それが頭から離れなくなり二十数分間ずっと悶々と小瀬川白望の帰りを待っている、いわゆる生殺しの状態でいたのだ。

 そんな三人は小瀬川白望のいつ通りの振る舞いをしているのを見て、自分達がさきほど彼女に対して覗きという最低な事をやっていたのにも関わらず、本人は全くもって気付いていない。そういって罪悪感に駆られていたのだが、その罪悪感も次第に先ほど裸体を見てしまった故か更に扇情的に見えてしまう小瀬川白望の容姿によって背徳感へと変わっていき、三人の心がどんどんと欲望に忠実になっていくのを、愛宕洋榎は三人の顔を見ただけで察した。

 

(まあ……多少強引に行ってもシロちゃんなら大丈夫やろ。シロちゃんに誰か好きなヤツがおるわけじゃないし……何よりシロちゃんは優しいからな。迫られて断れるほど酷いヤツやないし、後はあいつらの度胸次第やなー)

 

(ま、ライバルが居てる状況では動けへんやろなあ。流石にウチもそんな度胸はないわ)

 

 

 そしてそんな事を心の中で考え、それと同時に三人にエールを送った愛宕洋榎は、小瀬川白望の事を体育座り、関西では三角座りと呼ばれる座り方で座っていながら、顔を隠すようにしてジッと見ていた末原恭子に向かって「ほら末原、次行ってこいや」と言って入浴を促す。末原恭子は我に返ったかのようにして「あ、ああ……せやな……」と立ち上がり、小瀬川白望と入れ替わるようにして廊下に出て行った。

 

 

 

(はあ〜……危ないわ……白望の次で良かったわホンマ……)

 

 そうして浴室へと向かっている末原恭子は道中で胸を撫で下ろして露骨に安堵する。ただでさえあの1分もなかった短時間で小瀬川白望に見入ってしまい、我を忘れて妄想を働らかせていたのだ。あそこからまた二十数分、もしかしたらそれ以上の時間を小瀬川白望のいる空間で時を過ごすには、今の末原恭子の状態では不可能に等しかった。

 

(この状態であんなとこおったら何しでかすか自分でも分かったことやない。兎に角気持ちをリセットや、リセット)

 

(まあそう言った意味で絹ちゃんと漫ちゃんには悪い事したかもな……ウチだったら耐えられる気せえへんもん……)

 

 本来ならば末原恭子の敵である愛宕絹恵と上重漫に対して同情し、罪悪感すら抱いていた。それは彼女もまた優しい人間故の感情なのだろう。

 そんな事を考えていると、末原恭子は既に洗面所へと繋ぐドアの目の前まで来ていた。末原恭子は今度は覗くわけではないと心の中で理解はしているものの、そっとドアをスライドさせて洗面所に入る。

 

(……ホンマに分からへんもんなんか?)

 

 と、ここで末原恭子が疑問に思った事を確認するためにドアを二十数分前に開けた隙間と同じくらいの感覚を残して閉める。そうしてさきほど小瀬川白望が立っていた位置から着替えを始める。が、末原恭子が開いているのを知っていたからなのかは分からないが、どう考えてもドアに違和感を感じてしまうのだ。ドアに背を向けたとしても窓から反射して見えるし、横を向いたとしてもどうしても視界に入ってきてしまうのだ。

 

(どんだけ鈍感やねん……覗きもしてたんがウチらだったからまだええけど、盗撮とかされたらって考えると心配でしゃあないわ)

 

 そんな心配を小瀬川白望に対して抱きつつ、末原恭子はドアを完全に閉めてから衣服を脱ぐのを再開した。そしてその後は小瀬川白望に対する自分の欲望や邪な考え諸共洗い流すようにシャワーを浴び、体を洗い始めるのであった。

 

 

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「ふー、戻ったで」

 

 

 あれから何事もなく全員に入浴の順番が周り、最後に入った愛宕洋榎が戻ってきた。愛宕洋榎が戻ってきた頃には既に時刻は23時を過ぎようとしており、もういつでも寝られるように二段ベッドの他に追加で四人分の布団が床に敷かれていた。

 

「さあ、誰が何処で寝るか決めよか」

 

 そして愛宕洋榎が戻ってきたのを確認すると、末原恭子は皆に向かってそう言うが、愛宕洋榎と真瀬由子は澄ました顔で「もう決まってるやろ?恭子」と末原恭子に向かって言う。末原恭子は「は、はあ?聞いてへんでそんな話」と返すが、愛宕洋榎は末原恭子にこう言った。

 

 

「聞いてないもなにも……四人が布団で寝るんやろ?なら恭子、漫、絹恵、シロちゃんの四人で寝るに決まっとるやろ」

 

「異論は認めないのよー」

 

 真瀬由子が愛宕洋榎の意見に同調していると、末原恭子は「そんな身勝手……白望、どう思う!?」と顔が赤くなっていることに気付いているのかどうかは定かではなかったが、小瀬川白望に意見を求めるが、小瀬川白望は「洋榎がそう言うなら……いいんじゃない?私はベッドと布団でどっちが寝たいのとかないし……」といった返答が返ってきた。

 

「よし、じゃあ決まりやな。ほな、そういうことで」

 

 そうして半ば強引に寝る場所を決めた愛宕洋榎であったが、ヤケになったのかそのまま寝ようとした末原恭子を止めて皆に向かってこう問い掛ける。

 

「……自分ら。こんなもうあるかどうかすら分かれへんこのイベント。易々と寝て次の日に時間を進めてええと思うか?」

 

「なんやいきなり……」

 

 そう前置きした愛宕洋榎は文句がありそうな末原恭子を置いといて、真剣な表情をして皆にこう提案した。

 

「せっかくこんだけ枕があるんや。いっちょここらで枕投げでもしようや」

 

「はあ?」

 

「枕投げですか……?」

 

「ちょっとそれはないのよー」

 

 先ほどのように提案はしたが、まさかの真瀬由子からも反対されてしまい、全員から反対意見を言われるという残念な結果に終わってしまった愛宕洋榎の枕投げの提案に、ここぞとばかりに皆が一気に畳み掛けるようにして意見を言う。

 

 

「そんな枕投げなんて今時の男子もやらんよ……なあ?漫ちゃん、絹ちゃん」

 

「まあ……」

 

「そんなんやりませんて……まずやろうとしても怒られますよ……」

 

 そう言ってはははと笑う上重漫を見て、愛宕洋榎は「なんや……まさかゆーこにまで裏切られるとは思わなかったで……」といってイジけた。そんな愛宕洋榎を見て小瀬川白望は「三年前とかだったらやってたかもね……」とフォローを入れる。それを聞いた愛宕洋榎は「そんな事言ってくれるのはシロちゃんだけやでホンマ……」といってわざとらしく小瀬川白望の胸に飛び込む。

 

(なっ……まさか洋榎、ああやってウチらに対して優越感に浸りたいからあんなアホな提案を……)

 

(そんな先読みしてたなんて……ズルいわお姉ちゃん!)

 

 愛宕洋榎を剥がそうにも引き剥がせないもどかしさに歯痒い感触を覚える三人であったが、実は愛宕洋榎はそれ以外にも他の事を狙ってこの提案をしていたのだ。

 

(……ウチがここまでやったら積極的にならざるを得ないやろ。御三方、火薬は積んだから後は着火任せたでー)

 

(……まあ、枕投げしたかったのは事実なんやけどな……反対されるとは思っとったけど、まさかここまで酷評とはな……ま、セーラなら受けてくれるやろ。いつかボコボコにしたる)

 

 実は既に小瀬川白望に誑し込まれている人物の一人であった江口セーラには負けないといった心構えをして、二段ベッドの上段に上がったのであった。

 

「ほな、じゃあ改めて電気消すで」

 

 

 そしてそう言って末原恭子は部屋の電気を消す。それこそさっき愛宕洋榎が言った通り後はもう寝て時間を進めるだけなのだが、その当の愛宕洋榎と真瀬由子は暗闇ながらも微かに慣れてきた目で小瀬川白望たち四人の状態をじっくりと観察していた。




次回に続きます。

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