宮守の神域   作:銀一色

311 / 473
今回から千里山編です。


第299話 高校二年編 ⑮ 加速

-------------------------------

視点:神の視点

 

 

「なありゅーか」

 

「どしたん?怜」

 

 小瀬川白望が愛宕家を離れた頃とほぼ同時刻、千里山女子高校の麻雀部の部室内では園城寺怜が清水谷竜華に膝枕されていた。園城寺怜はそんな状態で自信に極上(園城寺怜曰く)の太ももを提供している清水谷竜華に声をかける。無論清水谷竜華は優しく園城寺怜に聞き返した。

 

「今日イケメンさん……来るんやろ?」

 

「そうやでー。久々やなー」

 

 園城寺怜の言う『イケメンさん』とは勿論の事小瀬川白望の事であり、清水谷竜華はそれを理解してそう返した。それを近くで聞いていた江口セーラは自分の想い人が来るという事を事前に小瀬川白望本人から知らされていたというのにも関わらず、改めてその話をされて体をビクッと跳ねらせていた。

 

「先輩、その『イケメンさん』さんって言うのはもしかしなくても……」

 

 その反応に興味を示した船久保浩子が、もしやと思ったのか清水谷竜華に『イケメンさん』について質問すると、「お、浩子。知っとるんか?シロさんの事」と逆に小瀬川白望の事を知っているのかと船久保浩子に質問する。

 

「『シロ』ってやっぱり、小瀬川白望の事ですか」

 

「っ!」

 

(セーラ……どんだけ緊張しとんの)

 

 小瀬川白望に関する単語を出すだけで身体を跳ねる江口セーラに若干ほど園城寺怜は引いていたが、清水谷竜華はそれに気づいていないのか、無視して「せやね、小瀬川白望や」と答えた。

 

「オバさん……じゃなくて監督や絹ちゃんとかから色々噂は聞いてますんで……なんでも先輩方の何倍も強いとかなんとか」

 

「ま、まあそうやな……シロの腕は半端ないわ。多分っていうか実際チャンピオンより強いしな」

 

「そうですか……あのチャンピオンよりも……」

 

(それ以外にも相当な誑しだとか色々聞いてたけど……察するに江口先輩と園城寺先輩は既に落とされとるな……)

 

 清水谷竜華はどうなのかは船久保浩子でも判別はできなかったが、とりあえず園城寺怜と江口セーラは既に小瀬川白望の虜となっているのを知れただけで良しとしようと船久保浩子は満足していた。

 そしてそんな中、監督である愛宕雅枝が部室に到着する。清水谷竜華達は監督に向かって「おはようございます、監督」と挨拶すると、愛宕雅枝は声を上げて皆にこう指令する。

 

「ここにいる四人は知っとるな、小瀬川白望が今日ここで来る事を」

 

「まあ……っていうかてっきり監督と一緒に来るもんかと思っとりましたよ、昨日から小瀬川さんが監督の家にいるって聞いてから、そのまま一緒に来るもんかと……」

 

「そ、そうなんか?浩子」

 

 船久保浩子から唐突に新情報を公開され、驚いた江口セーラは船久保浩子にそう聞くが、船久保浩子は澄ましたような表情で「はい。絹ちゃんから一昨日あたり自慢されたんで、知っとりましたよ」と答える。それを聞いた江口セーラは少ししょんぼりしたような表情で「そっか……まあシロの事やしな……」と呟く。

 

(あ、江口先輩が乙女モードに……カメラ持って来ればよかったな……)

 

(あんの貧乳と巨乳の姉妹……やっぱイケメンさんを狙っとったんかあいつら……)

 

 そして園城寺怜は膝枕されている状態で嫉妬心を燃やしていたのだが、あまりに感情を昂ぶらせてしまったのか、園城寺怜は咳き込む。清水谷竜華は咳き込んだ園城寺怜に「大丈夫か?」と声をかけると、園城寺怜は「大丈夫や大丈夫。ちょっと咳き込んだだけや」と答え、すっと立ち上がった。

 園城寺怜は清水谷竜華に対してああ答えたものの、実際は大丈夫とは言い難いものであり、それどころかその真逆の容態であった。小さい頃から病弱である園城寺怜にずっと纏わり付いていた、自身を蝕む何か。それが最近だんだんと激しさを増してきたのであった。無論、病弱故に自分の健康状態には常に気を遣い、ちょっとの身体の乱れが直ぐに分かることができるようになっていた彼女にとってその異常はすぐに察知できた。

 

(あー……ちょっとヤバいかもなあ)

 

 自分の健康状態が悪化している事に対して意外にも真摯に受け止める園城寺怜であったが、不思議と恐怖は感じてはいなかった。直ぐに良くなるであろうという前向きな捉え方などでは全然無く、着々と自分の身体が蝕まれているという事を理解し、その上で恐怖を感じていなかった。

 

(……なんでなんやろな。イケメンさんが来るからなんかなあ?このままいけばマジでぶっ倒れるかもしれへんけど……イケメンさんの腕の中で倒れるんならそれもアリかもなあ……?)

 

「怜?とーき?」

 

「んっ?あ、ああ。りゅーか。どないしたん」

 

 園城寺怜は清水谷竜華に呼ばれて返事をするが、そこで園城寺怜は異様な光景を見た。急に自分以外の空間が加速したような幻覚が園城寺怜の目の前で展開される。

 

(あれ、なんで皆……そんな険しい表情して……?)

 

 そして加速した時間の中で、清水谷竜華含む部室内にいた全員が険しい表情で、何かに焦っていたような感じで高速行動していた。愛宕雅枝は見たことのないような表情で携帯電話で誰かと話をし、清水谷竜華は涙を流していた。清水谷竜華の後ろには江口セーラと船久保浩子が驚愕した表情を見せる。園城寺怜はそれらを見て一体なんの幻覚かと顔を顰めるが、加速した時間は元には戻らず、どんどん先へと進んでいく。どこまで行くのかというと、小瀬川白望がこの部室に来るまでであった。

 

(……は?イケメンさん?)

 

 そうして小瀬川白望が部屋に来るまで時間が加速したと思いきや、今度はそこで時は止まる。静止した空間で園城寺怜はマネキンドッキリの何かかと思っていたが、視線を下に移した園城寺怜は絶句した。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(え……なんで……ウチ……?)

 

 

(倒れ……て……)

 

 

 園城寺怜の思考はそこまで達すると、止まっていた世界が逆行するように巻き戻る。加速していた時間の数倍の速さで、時間が巻き戻っていく。そしてようやく元の時間に戻っていた時には、園城寺怜の意識は失われ、身体の重心は既に傾いていた。

 

 

 




次回に続きます。
怜の運命やいかに……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。