宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。
そして今回はあの方も登場。


第309話 高校二年編 ㉕ 説教

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視点:神の視点

 

 

「……んっ」

 

 自分は一体いつから寝ていたのか、そもそも自分は眠っていたのか。それすらも分からないほど記憶が抜け落ちている小瀬川白望は欠伸をしながら目を開ける。確かに起きはしたのだが、とても良い目覚めとは言い難く、頭痛はする、気怠さはいつも以上に増して酷いと、良い目覚めというよりは寧ろその正反対、最悪の目覚めとなった小瀬川白望だが、むろんその原因である飲酒など記憶が無い小瀬川白望が覚えているわけもなく、そのおかげで小瀬川白望は更に気分が悪くなった。

 

(お風呂の時から私、何してたっけ……思い出せないし、今何時なんだろう……)

 

 そして身体を起こした小瀬川白望はようやく今まで自分が家の寝室らしきところで寝かされていたという事に気付く。布団が自分が寝ていたところの両端にも敷かれているところを見るに、園城寺怜と江口セーラはまだ起きているのだろう。時間感覚がめちゃくちゃになっている小瀬川白望が現在の時刻など分かるわけがなく、寝室内にどこに時計があるのかも知らない小瀬川白望は取り敢えず園城寺怜と江口セーラがいるであろう居間へと向かわんとして立ち上がる。立ち上がる時にやけに頭が重く感じたが、気にせず居間へと直行する。

 

(頭痛もするし、いつもよりもダルい……風邪でも引いたかな)

 

 小瀬川白望は自分の容態に対して首を傾げたが、結局答えは出ないまま居間へと辿り着く。そんな小瀬川白望が居間に入ってまず視界に入ったのは、園城寺怜が仁王立ちしてる江口セーラに対して土下座をしている光景であった。

 

「……他に、何か弁解はあるか?怜」

 

「いや……ホンマすんませんでした」

 

「反省は?」

 

「もうちょっとスムーズにやれば「あ?」……何でもないです」

 

 

 江口セーラは顔に青筋を立てながら園城寺怜を見下ろす。園城寺怜は当然弁解の余地などあるわけもなく、ただただ失言という名の本心を語ってはその都度謝罪する。これしか出来なかった。そんな状況の中、小瀬川白望が「怜……何かしたの?」と言って二人の元へふらふらとやって来た。その声を聞いた途端、園城寺怜と江口セーラは同時に小瀬川白望の方を見る。園城寺怜は申し訳なさそうに、江口セーラは先ほどまでの表情とは打って変わって顔を赤らめ、小瀬川白望に押し倒されたあの一件を思い出し、それを恥じらうように小瀬川白望の事を見ていた。

 

「い、イケメンさん……」

 

「怜……」

 

 園城寺怜はゆっくりと小瀬川白望に抱きつき、「さっきはごめんな……?」と小瀬川白望に謝罪する。もちろんさっきの事など覚えていない小瀬川白望は首を傾げて「……何が?」と聞くが、園城寺怜は首を横に振って「覚えてなくても別にええんや。ウチが謝りたいって思ったんやから、謝らせてくれや」と言う。

 

「お、覚えてないんか?シロ」

 

「うん……」

 

「そ、そか。せやったか」

 

 江口セーラは顔を赤くしながらどこか安堵したような表情で頷く。小瀬川白望はそれを(……変なセーラ)といった風に見ていたが、取り敢えず小瀬川白望は現在時刻を確認した。どうやら小瀬川白望が入浴を終えた時間から一時間少ししか経っていなかった。逆に言えば、一時間以上も記憶が飛んでいるというわけであったが。

 

(……起きたばっかりなのに、まだ眠いなあ)

 

 居間での目的を達成した途端に小瀬川白望は猛烈に睡魔に襲われ、再び欠伸をする。それを見た江口セーラは「シロ、大丈夫か?」と聞くと目を擦りながら小瀬川白望は「少しダルい……」と答えた。すると江口セーラは「まあ言うても寝てたんは一時間くらいやしな……時間もええとこやし、寝るか?怜」と言う。

 

「せやな……ウチもまだ頭がぼんやりするし……」

 

「そうなんだ……大丈夫?」

 

「いや、大丈夫や……ははは」

 

 まさかこの気怠さを作った原因が園城寺怜にあるなどとは夢にも思っていない小瀬川白望は園城寺怜に心配を掛けるが、園城寺怜はその心配が逆に自分の良心を抉ることとなり、罪悪感に駆られてながらも笑って誤魔化す。先ほどは『もっとスムーズにやれば気付かれる前に完遂できた』という内容の本音をうっかり江口セーラに口走っていた園城寺怜であったが、それとこれとはまた話は別である。園城寺怜はいつもなら小瀬川白望に支えられる側の人間であったが、居間から寝室まで行くこの時だけは小瀬川白望を支えるようにして寝室へと連れて行った。

 

 

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「おやすみ……」

 

「おやすみや」

 

「おやすみなー」

 

 

 三種三様の挨拶を交わして、園城寺怜は寝室の明かりを消す。勿論小瀬川白望が真ん中に位置し、その両端に江口セーラと園城寺怜が位置するといった形であり、小瀬川白望が挟まれる事となる。そして暗闇によって包み込まれ、静寂が訪れた寝室で江口セーラは一人想いを馳せていた。

 

(……シロ)

 

 江口セーラは暗闇の中でもしっかりと小瀬川白望の姿を捉え、心の中で名前を呼ぶ。確かに先ほどは小瀬川白望に非合法に迫っていた園城寺怜の事をきつく叱っていたものの、やはり小瀬川白望に触れたい、迫りたいという気持ちは強いことには間違い無かった。

 

(ウチだって……キスとかしたいんや……)

 

 どれだけ大きな声で、何度小瀬川白望に叫ぼうとも、小瀬川白望には届く事はない。それを分かった上で尚、江口セーラは心の中でそう呟き、眠りについている小瀬川白望へと近づき、彼女の右腕を抱く。力一杯に、そして離さないといった気持ちを存分に表現する。

 

(シロ……)

 

 そして江口セーラは、小瀬川白望の事を意識が無くなる最後の最後まで想い続けながら、夢の世界へと旅立つのであった。

 

 

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「じゃあ、またな。シロ、怜」

 

「またいつでも来るんやで、二人とも!」

 

 翌日の朝、小瀬川白望と江口セーラは園城寺怜の家を出る直前に三人で別れの挨拶を交わした。小瀬川白望と江口セーラの進行方向は逆のため、ここで三人は同時に別れを告げる事となっていた。

 小瀬川白望はそんな二人に対して「うん……ありがとう。怜、セーラ。千里山の人達にも宜しく伝えてね」と言い、別れを告げると、江口セーラの行く先とは反対の方に歩を進めた。

 

(……さて、ここからどうしようかな)

 

 二人と別れた小瀬川白望が、行くあてもなくただ道路を練り歩く。そこら辺で見つけた雀荘にでも入ろうかと楽観的に考えていた小瀬川白望は、目の前にある人物を見つけた。

 

(ん……確かあれは)

 

 見覚えのある顔を見つけた小瀬川白望は「ねえ、ちょっといいかな」と声をかける。見覚えのある人物と言っても、小瀬川白望が直接関わった人間ではない。その人物は何故かは分からないがナース服を着ていたが、そんな事は小瀬川白望にとってはどうでも良いことであった。小瀬川白望の記憶が確かならば、今小瀬川白望が声をかけた人物は今年のインターハイ個人戦で、宮永照に次ぐ二位となった荒川憩であった。

 

「なんですか?私に何か用ですかーぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 




次回に続きます。

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