宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第318話 高校二年編 ㉞ 充電

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視点:神の視点

 

 

「ようこそ……」

 

 小瀬川白望は玄関のドアを開けて皆に背を向けながらそう呟くと、先ず最初に動いた姉帯豊音は「初めてのシロの家だよー!」と言って小瀬川白望の家の中をキョロキョロと見回す。姉帯豊音は持ち前のミーハー力でテンションが急上昇していたが、他の三人は緊張のあまりか、どこか落ち着かない様子で靴を脱ぐ小瀬川白望の事を見ていた。するとその視線に気付いた小瀬川白望は、顔を見上げて「……上がっていいよ?」と言うと、三人はハッとしてせかせかと靴を脱ぎ、家の中へと上がった。

 

 

「シロの家、結構広いよー」

 

「ウン……オオキイ!」

 

 エイスリンはどうやら小瀬川白望のあの一言によって緊張も解れたのか、姉帯豊音と共に家の中をくまなくチェックしていた。小瀬川白望は「別に面白いものはないと思うけど……」と呟くが、想いを寄せている人の家の中だ。どれも気になってしまうのは当然だろう。そんな二人を小瀬川白望は微笑ましく見ていると、今度は後ろに視線を変えて臼沢塞と鹿倉胡桃の方を見た。どうやら未だにこの二人は緊張しているようだ。

 

 

「……何、そんなカタくなって。何度も来たことあるでしょ」

 

「えっ?いや、まあ……そうだけどさ……」

 

「べ、べつにシロには関係ないでしょ!」

 

 鹿倉胡桃がそう叫ぶように言うと、小瀬川白望は「まあいいけどさ……」と呟き、姉帯豊音とエイスリンの後を追うようにして今の方へと向かって行った。二人は胸を撫で下ろし、一度深く深呼吸してから居間へと入って行った。そして荷物をひとまず部屋の片隅に置くと、ソファーに座ろうとしていた小瀬川白望を鹿倉胡桃が呼んだ。

 

「シロ!」

 

「ん……何」

 

 小瀬川白望がそう言って鹿倉胡桃の方を向くと、鹿倉胡桃は小瀬川白望をソファーに座るように促した。小瀬川白望は促されるがままソファーに座ると、鹿倉胡桃はその上に小瀬川白望をソファー代わりにするようにして座った。これが俗に言う『充電』である。

 

「やっぱりこれをしなきゃやってられないよね!」

 

「そんなに良いものなの……」

 

「私が良いからそれでいいの!」

 

 そう説得する鹿倉胡桃を見て、姉帯豊音は羨望の眼差しで二人のことを見つめる。視線に気付いた鹿倉胡桃が若干驚きながらも「そういえば豊音は『充電』、知らなかったんだっけ?」と聞いた。姉帯豊音は「じゅう……でん?」と首を傾げていたが、臼沢塞が「胡桃がシロの上に座る事を充電って呼んでるのよ」と補足する。それを聞いた姉帯豊音が「いいなー……」と言って鹿倉胡桃の事を見たが、エイスリンがこんな事を言った。

 

「ワタシモ、ヤッテミタイノニ、クルミガダメッテ!」

 

「えー!?ダメなのー?」

 

「シロは私の専用充電器なんだよっ!ここだけは譲れないよ!」

 

 鹿倉胡桃が誇らしげにそう言う。臼沢塞が若干申し訳なさそうに姉帯豊音とエイスリンに「小学の頃からやってるんだけど……一回も他の人には譲ろうとはしないのよ……」と言った。しかしそれでも姉帯豊音は(うーん……でも、私も充電したいよー)と言った風に諦めきれてはいなかった。思考を巡らせる姉帯豊音であったが、ここで妙案が思い浮かんだ。姉帯豊音は「じゃ、じゃあ。私がシロの充電器になるよー!」と宣言する。鹿倉胡桃も流石に予想していなかったのか、「なっ、その手が!?」と驚く。

 

「胡桃もそれなら文句ないでしょー?」

 

「ぐぬぬ……し、仕方ないよ!」

 

 そう言って鹿倉胡桃は立ち上がると、小瀬川白望もつられて立ち上がる。この時小瀬川白望は(挟まれる側の人の意見はいいんだ……)と内心思いながらも、(ま……二人がそれでいいならいいんだけど)と了承し、先に座ってドキドキと胸を高鳴らせている姉帯豊音の上に乗る。

 

「……重くない?」

 

「大丈夫だよー。むしろ軽い方だよー」

 

「ならいいけど……さ、胡桃。おいで」

 

 小瀬川白望は手を広げて鹿倉胡桃が入るスペースを示す。鹿倉胡桃はそんな小瀬川白望に対して若干顔を赤くしながらも、素直に小瀬川白望の上へと座り、これで姉帯豊音⇒小瀬川白望⇒鹿倉胡桃という三連結の『充電』が展開されることとなった。当人たちは(小瀬川白望を除いて)幸せそうな表情をしていたが、横にいた臼沢塞とエイスリンはぐぬぬと言った表情で姉帯豊音と鹿倉胡桃の事を睨むようにして見つめていた。エイスリンはともかく、臼沢塞もああは言っていたものの、やはり羨ましいという気持ちはあったのだろう。

 

「……シロ!」

 

「ん……?」

 

 そんなエイスリンは高速でホワイトボードに絵を描くと、小瀬川白望の事を呼んでホワイトボードを見せた。ホワイトボードを見た小瀬川白望は少しほど考えたが、「……胡桃と豊音がズルい、かな」とエイスリンに答えを求めると、半ば怒ったような口調で「ウン!」と答えた。それを聞いた小瀬川白望は「うーん……胡桃、これはもうおしまい」と言って、鹿倉胡桃を下ろすと、自らも姉帯豊音の上から下りた。

 そしてエイスリンが姉帯豊音と鹿倉胡桃のサンドイッチから解放されたばかりの小瀬川白望の元へ寄ると、いきなり小瀬川白望に抱きついた。鹿倉胡桃と臼沢塞は思わず口から噴き出しそうになり、また姉帯豊音は顔を手で隠すようにして二人のことを見つめていた。

 

「「っ!?」」

 

「なっ……ど、どうしたの」

 

 小瀬川白望が戸惑いながらもエイスリンに尋ねると、エイスリンはニッコリとした笑顔を見せて「ハグ、ニュージーランドノアイサツ!」と言った。それを聞いた小瀬川白望は「そうなんだ……」と納得するが、臼沢塞がそれに意を唱えるように「いやいや!今挨拶するってどう考えてもおかしいでしょ!?」と小瀬川白望に言う。ハグを終えた小瀬川白望はそれを聞くと、臼沢塞にこう返した。

 

「……塞もやりたいの?」

 

「んなっ!?」

 

「いや……そんな感じがしたから……違った?」

 

 小瀬川白望は澄ました顔で臼沢塞に質問すると、臼沢塞は顔から血を吹き出してもおかしくないほど紅潮させながら「……いや、そうだけど……い、いいの……?」と聞いた。

 

「塞がいいなら……別にいいけど……」

 

 そう言われた臼沢塞は、周りからの圧力を感じ取ったものの、心の中で(べ、別に皆同じようなことしてたし……私だけダメってわけはないわよね……)と弁解するように呟き、小瀬川白望の目の前まで歩み寄った。そして何か言葉を交わすと言うこともなく、二人は静かに抱き合った。

 

「……満足した?」

 

 小瀬川白望が臼沢塞に向かって感想を求めるが、臼沢塞からの返事は返ってこなかった。小瀬川白望が首を傾げていると、鹿倉胡桃が臼沢塞のことを指差して「し、シロ!塞、気絶してる!」と叫んだ。

 

「あ……ほんとだ」

 

 小瀬川白望はそう言ってあまりの嬉しさのためか失神する臼沢塞を抱きかかえると、「ソファーに寝かせておこう……」と言ってお嬢様抱っこの状態で臼沢塞をソファーまで運んだ。そんな紳士的な行動をする小瀬川白望に、姉帯豊音とエイスリンは心を釘付けにされていた。

 

(シロ、完全に王子様だよー)

 

(プリンス……!)

 

 

 

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次回に続きます。
進行度など私には関係ありません。

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