宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。
今回で遂に(?)1000000文字を超えたみたいですね


第338話 地区大会編 ⑯ 地獄 地獄

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視点:神の視点

 

「……さ、次は豊音の番だよ」

 

 小瀬川白望が手牌から一枚裏返しに河に置くと、姉帯豊音に向かってそう促す。そう言われた姉帯豊音は全思考力を集中させて小瀬川白望の出した牌は何なのかを考える。しかし、考えれば考えるほど小瀬川白望の術中にハマっているのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまう。もし小瀬川白望がこう考えていたら、そんな『IF』が姉帯豊音の頭の中ではち切れんばかりに増殖していた。そして決断の時が迫っていくにつれ、姉帯豊音の指は牌の上空を彷徨っていた。

 無論、姉帯豊音は最初からこんな切羽詰まっているわけでは無い。始めた頃は姉帯豊音はお気楽程度に考えて打っていたのであるが、何度勝負しても小瀬川白望には一向に勝てなかった。当然、一回一回の勝負では『ナイン』の性質上どんなに負けても引き分けを無しにすれば少なくとも一度は勝てるため、何度か勝ってははいたのだが、肝心の1ゲーム、つまり9回やった後のトータルでは数ゲームやって全て全敗。回を重ねていくごとに姉帯豊音の顔からは笑顔が消え、そして今こうして極地に立たされているという事だ。

 一方の小瀬川白望はかつて赤木しげるがやっていたように『わざと9戦全部引き分けにする』ことはやらずに、敢えて小瀬川白望は勝ちに行った。その裏にはもし全戦引き分けを失敗した時に、その時自分がまだ赤木しげるに届かないという事を痛感させられるからという負けず嫌いな性格と、そもそも赤木しげるが全戦引き分けをした時は思考力など一切使わずに、直感だけでやってのけたので、今回の目的とは関係の無い話だからという二つの理由があったりする。

 

(さっき様子見で{⑦}を出して{⑧}で負けたからー……今度は思い切って{⑨}かなー……?シロが何を考えてるのか、全然分かんないよー……)

 

 そうして迷宮に彷徨っていた姉帯豊音が同じで無ければ全てに勝つことのできる最強の{⑨}を出したのだが、小瀬川白望は確実に負けか引き分けだが、一番被害が少ない最弱の{①}であっさりと躱されてしまう。結局、この後も何十回とこの『ナイン』をするのだが、姉帯豊音は一回も勝てる事がなかった。

 

 

 

 

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【……ツモだ。裏ドラを捲ってくれ】

 

 

 赤木しげるがそう宣言し、熊倉トシにそう促すと熊倉トシは手牌を開き、裏ドラを捲る。裏ドラを見た熊倉トシが「……ドラ2だね」と若干恐怖しながらそう呟くと、赤木しげるは【ククク……3000-6000。跳満……】と驚愕する三人にそう宣告した。

 

 

(私からの満貫の直撃を見送ってツモ和了を選んだ……?)

 

(あ、有り得ない!?)

 

(……Why?)

 

 

 実はこの局、赤木しげるがリーチをかけた一巡後に臼沢塞は赤木しげるの和了牌を切ったのだが、赤木しげるは何も言わずにそれをスルー。結果その直後和了牌をツモってリーヅモタンピンに裏ドラ二つをふくめて跳満とした。

 

(……流石、としか言いようがないわね。あのどうしようもなかった凡手を跳満にまで仕上げるなんて……この師にしてあの弟子あり。だよ)

 

 

 赤木しげるの手として働いた熊倉トシは終始驚かされながら最初の一局を打っていた。最初の配牌こそ、テンパイすらもできるかどうか分からなかった凡庸な手であったが、まるで眠っていた龍が起き上がるように急加速。そして最後は和了拒否によって最大限の点数を叩き出した。その惚れ惚れするような打ち回しに、熊倉トシは半ば戦慄を覚える。

 

【それにしても……熊倉さん、よくアンタあの場面で俺に何も言わなかったな……】

 

 

「塞が和了牌を打った時のことかい?口では何も言わなかったけど、内心本当に驚いていたよ……」

 

 赤木しげるに褒められた熊倉トシが溜息をつきながらそう言うと、赤木しげるはフフフと笑って【まあ……サシ勝負でもないんだ。直撃の満貫よりもツモって跳満の方が良いのは明白だろう……】と熊倉トシに言うが、熊倉トシは呆れたように「普通の人間はツモって跳満なんて思考、あったとしても選ぶ度胸なんてあるわけがないよ……」と呟いた。

 

【さあ……次は俺の親だ。本気で止めてみな】

 

 

 赤木しげるがそう言うと、三人は厳格な表情で熊倉トシ……いや、赤木しげるの事を睨みつけるように見る。地獄はまだ始まったばかりであった。

 

 

 

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「……や、やっと終わった……」

 

 

 赤木しげるとの半荘がようやく終わると、臼沢塞は卓に突っ伏すように倒れかかり、心の中の声を吐露する。鹿倉胡桃も体を震わせながら憔悴したような顔で椅子に凭れかかり、エイスリンに至っては若干目に涙を潤ませていた。というよりもはや啜り泣いていた。流石に手を抜いて打っていたのは放たれる殺気で分かっていたが、それでも彼女達の心を挫くには十分すぎた。

 

「……豊音と白望の方はどうだい?」

 

 そんな三人を尻目で見ながら、少し離れた場所で『ナイン』をやっていた姉帯豊音と小瀬川白望の方に声をかけると、「ぜんっぜん勝てないよー!!」といった姉帯豊音からの悲痛な叫びが返ってきた。その声色を見るに、どうやら小瀬川白望に一度も勝てていないらしい。

 

「……皆疲れているようだから、休憩時間にしようか?……まだまだ元気な人はいるようだけどね」

 

 

 熊倉トシがそう提案すると、姉帯豊音も疲れていたのか、糸がプツリと切れたかのようにばたりと倒れかかる。小瀬川白望はそんな姉帯豊音を見ながら「……ナイン、どうだった」と感想を尋ねると、姉帯豊音は「多分一生分負けたよー……」と返ってきた。

 

 

「私も少し休むとするかね……全く。ただ打つだけなのにここまでハラハラしたり、疲れたりするとは思わなかったよ……」

 

 

 熊倉トシがそう言って椅子に座ったまま仮眠をとると、その場にいる小瀬川白望以外の全員が眠り始めた。小瀬川白望はそんな皆を見て、ふふっと薄く笑うと、自分も疲れているわけでもないのに、皆につられるように目を閉じた。




次回に続きます。

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