宮守の神域   作:銀一色

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前回に続きます。


第347話 インターハイ開会編 ⑥ 衣装

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視点:神の視点

 

 

「お、おお……これはすごい……」

 

「だろ?私の自信作だからな」

 

 開会式が終わり、有珠山高校の麻雀部員達がホテルに戻ってきた頃にはすっかり夜となってしまったが、そんな中で有珠山高校の麻雀部員達は副将の真屋由暉子専用の、獅子原爽と岩館揺杏曰く『打倒はやりんコスチューム』の試着を行なっていた。岩館揺杏が立体裁縫によって作ったそのコスチュームを着た真屋由暉子が澄ました顔で「……そもそも、こんな衣装が本当に打倒はやりんに繋がるんですかね」と獅子原爽達に向かって聞くと、獅子原爽は「大丈夫だ。インハイで知名度は上がるし、活躍すれば顔くらいは覚えてもらえるはずだしな」と答えた。

 

「本当は試合に着せたかったんだけどな……流石に無理そうだった」

 

「当たり前でしょ……ファッションショーじゃあるまいし……」

 

「でもそういうのも素敵だと思います……」

 

 桧森誓子の仮定の言葉に意外にも本内成香が同調するが、獅子原爽はその話をひとまず置いておく事にして、真屋由暉子の衣装姿を見ながら、横目で岩館揺杏に向かって小さな声でこう聞いた。

 

「……それで、揺杏。例の"アレ"は?」

 

「ああ。いつでも準備はできてる。……ってか、今日行くのか?」

 

「勿論。思い立ったが吉日って言うくらいだしな、早い方がいい。……まあ、計画はずっと前からなんだけど」

 

「そうか……じゃ、これ」

 

 岩館揺杏がそう言うと、綺麗に折りたたまれた小瀬川白望専用の衣装を獅子原爽に手渡す。獅子原爽はニヤッと笑って「すまないな。私の我儘につき合わせちまって」と言うと、岩館揺杏はハーッと呆れたように息を吐いて「毎度のことさ。もう慣れてるよ」と言い、それに続けるようにして本内成香が「頑張って下さい……!」と言う。

 

「ま、頑張るのは私じゃないけどな。じゃ、ちょっくら行ってくるわ」

 

 獅子原爽がそう言い、ホテルのベランダから身を乗り出す。思わず獅子原爽の事を是が非でも止めたくなってしまうような行動だが、有珠山高校のメンバーはそれを見ても動じなかった。そうして獅子原爽が完全にベランダから飛び降りると、何やら雲のようなものに乗っかってそのまま何処かへと向かって行った。そんな獅子原爽を見送った桧森誓子は「……思ったけど。こんな夜中にあんなの着せるって相当酷な話だよね……」と言うと、岩館揺杏はこう返した。

 

「多分、なんだかんだ言って着るだろ。あの人は」

 

「……一体どういう痴女なんですか、全く」

 

「……いや、お前も大概だぞ。ユキ」

 

 

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「……ん、爽から」

 

 そして一方の小瀬川白望は、先ほどやってきた獅子原爽からのメールを受信し、メールの内容を確認する。姉帯豊音に「シロ、どうかしたのー?」と聞かれたが、小瀬川白望も何が何だか分からないような表情で「いや……爽が下に降りてきてって……」と返した。

 

(怪しい……こんな夜に外に呼び出すなんて……)

 

 臼沢塞はそんな二人の会話を聞きながらそんな事を考えていると、鹿倉胡桃が「こんな夜中に用なんて、絶対怪しいよ!」と小瀬川白望に向かって忠告した。が、小瀬川白望は聞く耳を持たずに「いや……でも待たせるのも悪いし……何よりそういう事する人じゃないから、大丈夫だよ。勘だけど」と言うと、鹿倉胡桃も臼沢塞も「うっ……」と言って言葉に詰まってしまった。

 

「まあ、行ってくるよ。あとで熊倉先生が来たら外出中って伝えといて……」

 

「リョーカイ!シロ!」

 

「行ってらっしゃーい」

 

 そう言って小瀬川白望は一体獅子原爽は何の用があって自分のところに訪ねて来たのか頭の中で色々と予測を立てながら、ホテルの出口に向かって歩いて行った。

 

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「……ん、爽」

 

 

 小瀬川白望がホテルから出て来て、まず獅子原爽の姿が目に入った。小瀬川白望が獅子原爽の名前を呼ぶと、獅子原爽も手を振って「よっ、シロ。元気そうで何よりだ」と言った。

 

 

「それで、どうしたの。こんな夜中に呼び出して一体……」

 

 そして小瀬川白望は獅子原爽に自分のことを呼び出した理由を聞き出そうとすると、獅子原爽は小瀬川白望の腕を掴み、「話は後で。ちょっと付き合ってもらうよ」と言い、小瀬川白望の腕を掴んだ反対の手の指をパチンと鳴らす。その瞬間、小瀬川白望と獅子原爽の身体が浮き上がった。いや、浮き上がったのではない。いきなり出現した雲のようなものが、二人の身体を持ち上げたのである。

 

「っ……!?」

 

「これは『雲』。昔言ったカムイとはまた違った代物だよ」

 

 獅子原爽が少しほど驚いていた小瀬川白望に向かってそう簡単に説明すると、「ああ、そういや言ってなかったな。何で呼び出したかを」と思い出したかのようにそう言う。小瀬川白望は獅子原爽の言うことを黙って聞いていると、獅子原爽に服のようなものを手渡された。小瀬川白望は「……これ、何?」と聞くと、獅子原爽は顔を赤くして「……私が揺杏に頼んで作ってもらった特製の服だ。……ぜ、ぜひ着てくれ……」と言った。

 

「着てくれって……ここで?」

 

「そのためのこの『雲』だよ。大丈夫、着替えシーンは見ないからさ」

 

「ま、まあ……良いけど……」

 

 小瀬川白望は獅子原爽の願いを了承すると、自分が着ていた制服を脱ぎ始める。この時から、獅子原爽は小瀬川白望とは反対の、東京の夜景の方を見ていたのだが、獅子原爽には東京の夜景など全然心に響いてなかった。むしろ、先ほど何故着替えシーンを見ないと言ってしまったのか、それが後悔でしかたなかった。

 そして小瀬川白望の「……爽、着たよ」という言葉によって、獅子原爽はグルリと小瀬川白望の事を見る。露出の高い服を着ても何の嫌悪感も示さない真屋由暉子が「着たくない」とまで言わしめた衣装を着た小瀬川白望は、言うまでもなく官能的で、獅子原爽の欲情を大いに刺激した。

 

「……これ、すごい露出が高いと思うんだけど」

 

「そ、そうか?そんなもんだろ、多分!」

 

 恥じらう小瀬川白望の疑問に対して、獅子原爽が適当な事を言って誤魔化していると、どこからか急に強い風が吹いた。獅子原爽は小瀬川白望の腕を掴んで「……大丈夫か?」と声をかける。先ほどの風、自然が生んだ風ではないということを瞬時に察知した獅子原爽が辺りを見渡すと、傘を差した空に浮かぶ少女がいた。小瀬川白望はその少女を見て「……明華?」と呟いた。

 

「……見つけましたよ」

 

 雀明華は小瀬川白望と獅子原爽の事を見つけると、宙に浮いたまま二人の元へと近づいた。獅子原爽は小瀬川白望を背後にし、腕を伸ばして小瀬川白望の事を守る姿勢に入る。

 

「空に変なものが浮遊してると思ったら、まさかこんなところで女狐に出会すとは……抜け駆けは感心しませんね」

 

 傘を閉じて、どんどんと近づいてくる雀明華に対し、獅子原爽はいつでもカムイで応戦できるように準備をした。すると後ろにいたはずの小瀬川白望が前に出て、「何やってんの、明華」と言った。先ほどまで小瀬川白望の顔しか見れていなかった雀明華は今初めて見えた小瀬川白望の服の驚くべき露出度に対して目を丸くしながら「な、なんてハレンチな……!?」と言い、顔を真っ赤にしていた。

 

「やっぱりそう見えるのか……」

 

「と、とにかく!その格好をどうにかしてください!」

 

 雀明華がそう言うと、獅子原爽は少し残念そうな表情で「……だってさ。もう着替えても良いよ」と言って、小瀬川白望から先ほど受け取った制服を返し、雀明華と共に地上へと降り立った。

 

 

 

 

 




次回に続きます。
シロの衣装は想像にお任せします……

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