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視点:神の視点
「……じゃあ、プロには戻らないのかい?」
「ええ、当面は……」
朝早くから出て行った小瀬川白望達が、東京の街からそろそろホテルへ帰ってきそうなそんな時間帯、阿知賀女子の顧問である赤土晴絵と、宮守女子の顧問の熊倉トシは居酒屋にて会談を行っていた。ジョッキを持った熊倉トシが赤土晴絵の言葉に対して残念そうな表情で「そうかい……あんたが来れば更に面白くなるだろうに」と言うと、赤土晴絵は少し笑って「とんでもないですよ。私なんかがいなくても、今年の高校生達は超豊作じゃないですか」と返した。
「……まあ、確かにこれ以上のハイレベルなインターハイは歴代でも無いだろうね。あんたや小鍛冶の時に比べても、確実にね」
「そうですね……特にそちらの大将さんや、チャンピオンに辻垣内、愛宕の姉の方……ここの四人は突出して強い。全く……敵ながら天晴れですよ」
「そういうあんたらのところだって、強豪の晩成を下したじゃないか。白望との元対戦相手も先鋒にいたというのに」
「ああ……道理であの先鋒はあんなに……まあ、あの先鋒のおかげで色々私らも成長しましたからね」
「そうかい。そりゃあ明日の初戦が楽しみだね。……だけど。その次は千里山と当たる事になる。あの白糸台に次ぐ超強豪校。勝つ見込みはあるのかい?」
「……一発勝負で勝てるかと言われれば、もちろん厳しい話です。ですけど、仮に千里山に負けても二位なら、まだ準決勝に望みが掴めます。……しかし、それだと千里山以外にも強豪校を相手しないといけない。……優勝を狙う以上、私らは常に背水の陣ですよ。……本人達に背水の陣だという意識があるのかは分からないですけどね」
赤土晴絵がそう言ってジョッキをテーブルに置くと、あまり量の減ってないように見える熊倉トシのジョッキを見て「……今日はあんまり飲まないんですね?」と聞くと、熊倉トシはハハハと笑って「この前一気に飲んだら大変な事になったからね……歳をとるとどうしてもダメだ」と返した。
「あのトシさんでも、歳には勝てなかったですか……」
「私を何だと思ってるんだい。いいかい、衰えに勝つってことは、寿命という概念をぶっ飛ばすってことさ。そんなこと、私にはできるわけがないよ」
「まあ、それもそうですね……いや、初めてお会いした時は本当は人間じゃないんじゃないかと思ったもので……」
「ははは。そういう人外のレッテルは、私よりもっとふさわしい人がいるよ」
熊倉トシがそう言うと、ジョッキを一気に飲み干した。そんな光景を見た赤土晴絵は心の中で(って言っときながら飲むし……本当に人間なのかこの人……)と呆然とした表情で呟いた。
「まあ、トシさんのところは大丈夫だとは思いますが、Bブロック。頑張って下さいね」
「私は頑張らないよ。あくまで彼女らのサポート。まあ、それも白望がサポートの大半をしてるけど。頑張るのは私じゃなくあの子達。あんたもそこのところをしっかり理解しなさい。あくまで主人公は子供達さ。気を吐きすぎるのもよくないよ」
「そうですね、分かりました」
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「……シロ?阿知賀にも知り合いいるんでしょ?もうすぐ始まるよ?」
「……ちょっと待って」
「試合は待ってくれないよ!ほら、起きる!」
鹿倉胡桃によって半ば強引に起こされた小瀬川白望が目をしょぼしょぼさせながらテレビの前の椅子に座ると、阿知賀女子の一回戦の試合を見始める。部屋に戻ってきた熊倉トシも「危ない危ない。遅れるところだったよ」と言って小瀬川白望の隣の椅子に座った。
「熊倉先生も阿知賀、知ってる人いるんですか?」
「阿知賀の顧問が私の知り合いだね。昨日夜話してたのもその人さ」
「そうなんだ……顧問って赤土さんだっけか」
小瀬川白望がそう言うと、熊倉トシはコクリと頷いた。そうして阿知賀の先鋒戦を見ていた小瀬川白望であったが、姉帯豊音が何やらウズウズしているのが分かった。
「……豊音、どうしたの?」
「あ、別になんでもー……ただ、試合を見てるとウズウズしちゃって……今から待てないよー!」
「……じゃあ、今から私と打とうか?」
「ちょ……ちょっとそれは後の方がいいかなー……とかとか」
「トヨネ、トラウマ?」
「そうだねー……おかげで成長したと思うけどー……荒治療だよー……」
姉帯豊音がそう言うと、小瀬川白望は微笑して再び視線を阿知賀の試合に向けた。松実玄の麻雀を見ていた小瀬川白望は、阿知賀が何らかによって成長しているという事を看破した。
(……やえに特訓してもらったのかな。明らかに前よりは成長してるけど……これが千里山や白糸台、新道寺に通用するかどうか……厳しい闘いだね)
そんな事を心の中で呟きながら、阿知賀女子が着々と一回戦の勝利を決めようとしているのを黙ったままじっくりとテレビを見つめていた。
次回に続きます。