最近休載続きで申し訳ありませんでした……
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視点:神の視点
「……はあ」
「まーた溜息かい。全体の士気にも関わるじゃけえ。いい加減腹を決めんかい。というか、あんたは初めてじゃないやろ」
「そうは行ってもね……慣れないものよ」
竹井久はそう言って再び溜息をつく。竹井久がここまで溜息をつくにはある理由があった。簡単に言って仕舞えば全国大会、インターハイに対する緊張感、そして何よりも勝ち上がれば小瀬川白望のいる宮守女子と当たる事になる。小学の頃一度全国大会に出ているとはいえ、小学生と高校生ではまた感じるものは違う。そして高校一年、二年とずっと夢見ていた舞台。その緊張感は計り知れないものなのであったのだが、それを聞いた染谷まこは呆れたように「まあ、時間はまだあるからの。じっくり悩むんじゃ」と言って原村和と片岡優希の元へと向かって行った。竹井久はそれを見て再度溜息をつくと、隣に染谷まこではなく、宮永咲が座っているのに気づいた。
「部長、緊張してるんですか」
「ははは……一つ下のまこだけに留まらず、二つ下の後輩にまで心配されちゃ部長の面目丸潰れね……」
竹井久が自虐的にそう笑って言うと、宮永咲が「い、いや。部長は頼り甲斐ありますよ?」とフォローを入れると、竹井久は「そう言ってくれると嬉しいわ……咲、あなたは私の数少ない味方よ……」と言って宮永咲のことを抱き締めた。宮永咲は若干たじろぎながらも、そんな竹井久を優しく介抱した。
「……私も、実は不安で胸がいっぱいなんです」
「あら、咲も?そんな風には見えないけど」
「実は抽選会の前、お姉ちゃんよりも気迫のあった、物凄い人と出会っちゃって……寒気がしたんです。あの人の目を見ると、心を潰されるような……そんな感じがして……忘れようとしても、忘れられないんです……本当に凄い不安で……」
竹井久は宮永咲の弱気な発言を真摯に聞きながら、心の中で(……多分白望かしら。本人も威圧するつもりはなかったんでしょうけど……)と呟きながらも、宮永咲の頭を撫でながら「大丈夫よ。仮にどんな敵が現れたとしても、あなたはあなたの麻雀をするだけ。100パーセントの力でぶつかれば、怖いものなんてないわ」と宮永咲を鼓舞するようなことを言った。そうして部長である竹井久から背中を押された宮永咲はごく僅かながらも流していた涙を右手で拭うと、笑顔を見せてこう言った。
「ありがとうございます、部長。そうですよね……私らしく、全力でぶつかっていきます」
(『私らしく』……ね。確かに咲ほどの雀士がそれをできれば敵はいないも同然だけど……唯一のイレギュラー、白望さんに通じるかどうかは分からない……それは私が一番よく分かってる……だけど、信じているわよ、咲)
そして竹井久は宮永咲に対して期待も言葉を心の中で投げ掛けるが、決してそれは表には出さず、心に留めて視線を宮守女子の試合へと向けた。
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「たっだいまー!」
「胡桃、お帰りだよー!お疲れ様ー!」
「クルミ、ドウダッタ?」
「思ったより重圧は凄かったけど、大丈夫だったよ!」
一方の宮守女子はたった今中堅の鹿倉胡桃が依然首位をキープした状態で控え室へと戻ってきた。団体戦では姉帯豊音とエイスリンによって中堅戦まで出番が回って来ず、個人戦にも出場していなかった鹿倉胡桃としては今回のインターハイ一回戦が初試合となったが、問題なく自分の役目を果たせたようだ。そんな鹿倉胡桃が戻ってきたのを見た臼沢塞は椅子から腰を持ち上げるようにして立ち上がると、宮守メンバーに向かって「じゃ、行ってくるわね」と言うと、皆から声援を受けながら控え室を出て行った。そして対局室へ向かう途中、臼沢塞は頭の中で熊倉トシとのミーティングを思い出していた。
(私が注意すべき相手は真嘉比の銘苅……去年の個人戦では六位の実力者……ニライカナイがどうとか言ってたけど……幸い私には相性は良い……)
そう、相手が如何に強いオカルトを持っていたとしても、臼沢塞の前には全て無に帰す。あの多種多様で強力なオカルト、『六曜』を持った姉帯豊音でさえも、臼沢塞曰く『結構しんどい』ながらも好成績を残せるほどである。姉帯豊音、エイスリンの攻撃的布陣から一転、鹿倉胡桃と臼沢塞の防御的な布陣で点棒を守り、そして最後に宮守の最終兵器である小瀬川白望に託す。臼沢塞は、この必勝パターンのセットアッパー的役割を担う最適の能力を有しているのだ。無論、そう簡単に打ち崩せるものではない。例えそれが、個人戦で六位という強敵であっても、変わる事は無かった。
「……ロン、3900。……ありがとうございました」
そして結局真嘉比高校の銘苅を一回も和了らせない完璧と言っても良いほど封じ込めた臼沢塞は、後半戦に回す事なく前半戦南三局で最下位校を飛ばして宮守女子高校の一位通過を決めた。インターハイでの初戦を勝利で飾った臼沢塞が宮守女子の控え室に戻ってくると、皆が一斉に臼沢塞を歓声で迎えた。
「塞、ちょーカッコよかったよー!」
「カッコイイ!」
「ははは。ありがとう。どれもこれも、豊音とエイスリンが稼いで、胡桃が完璧に守ってきてくれたお陰だよ」
「それを踏まえても、あの真嘉比高校の銘苅をゼロ和了で抑えるなんて、正直、私の想像以上の成績よ。まあ、そのせいで塞も二回戦以降はしっかりと対策されそうだけどね」
熊倉トシが賞賛の言葉を臼沢塞へと述べる。後半部分は若干警告じみていたが、それほど臼沢塞の活躍は大きかった事の裏返しなのだろう。結局出番のなかった小瀬川白望も「塞、おめでとう。っていうか……お疲れ様。次からはもっとキツくなるけど、頑張ってね」と臼沢塞の事を褒め称えると、臼沢塞は若干ほど頰を赤くさせながら「……任せなさい!」と意気込んだ。
次回に続きます。