宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第355話 一回戦編 ⑦ ヒーロー

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視点:神の視点

 

 

「……凄いですね。宮守女子。あの真嘉比高校を相手に、大将まで回さずに飛び終了ですか」

 

「ふふふ。甘いなハオ。お前には分からんか」

 

 宮守女子が二回戦進出を決めた瞬間を見ていた郝慧宇がそう呟くと、小さく笑って辻垣内智葉が得意げそうにそう言う。郝慧宇がどういうことだと言わんばかりに辻垣内智葉の事を見ると、辻垣内智葉は「あの試合、終わらせようとすれば中堅……いや、次鋒戦で終わらせることが可能だった。あの留学生の火力をもってすれば、本気で行けば中堅に回ることなく終わっていただろう」と答える。横にいたメガン・ダヴァンが若干呆れたように「何自分のチームみたいに自慢してるんデスカ……」と言われるが、辻垣内智葉はそれを視線だけで制すと、「まあ、十中八九調整だろうな。シロはともかく、中堅副将は地方大会で一度も出ていない。それが理由だろうな」と述べた後、真剣な表情で郝慧宇に向かってこう言った。

 

 

「……だから。今の試合での次鋒の留学生の対局は全くアテにならん。見るとすれば、地方大会の牌譜と次の二回戦か。ともかく、今の試合の奴らだけでは計り知れない、そういうことだ」

 

「そして何よりもあいつら以上に恐ろしいのが大将、小瀬川白望……お前は見た事がないから分からんだろうが、とにかくあいつの麻雀は惚れ惚れさせられる。地区大会の個人戦の牌譜もあるだろうから、一度目を通した方がいい。対局で当たるとか当たらないとか関係無しに、な」

 

「は、はあ……成る程。承知しました……」

 

 辻垣内智葉にそう言われた郝慧宇は若干驚きながらもそう返事をする。郝慧宇が驚いている事にはある理由があり、まあその理由は簡単に言って仕舞えばいつもはクールで冷静な辻垣内智葉があそこまで熱心に宮守女子高校について……というか小瀬川白望について目に血を走らせるような勢いで語るのをみて、郝慧宇は少しばかり引いていた。そうして辻垣内智葉から解放された郝慧宇が雀明華の元へと近寄ると、雀明華に向かってこう質問した。

 

「サトハさんって、宮守の話になるといつもああなんですか?」

 

「そうですね……少なくとも、私はサトハさんの気持ち、分かりますよ?」

 

「……?それはどういう?」

 

「それは勿論……恋、というものですよ。ハオもいつか分かります」

 

 そう言って傘を持って歌い出した雀明華を見て、少し不気味そうに見つめていた郝慧宇の肩をポンとメガン・ダヴァンが叩いた。郝慧宇が後ろを振り返ると、そこには首を横に振って諦めていたメガン・ダヴァンの姿があった。郝慧宇がそれを見て諦めの溜息をつくと、更に畳み掛けるかのようにメガン・ダヴァンがネリー・ヴィルサラーゼの方を指差すと、そこにはネリー・ヴィルサラーゼが何やら呟いていた。

 

「ネリーがシロに借りたお金は40万ラリ……今払えるのが10万ラリ。元々残ってた20万ラリをそのまま返すとして、ネリーが今払えるのはせいぜい30万ちょっと。……まだ足りない。やっぱり、勝つしかない」

 

 

「……その方は金融屋か何かなんですか?」

 

「……イヤ、シロサンがネリーの借金を返しただけ、それをネリーがいつかシロサンに借りた金額をそのまま返す、という約束らしいデス。……モットモ、シロサンは受け取る気は無いらしいですケド……」

 

 

「……一体何者なんですか。20万ラリとか40万ラリとか、並みの金額じゃないですよね?」

 

 郝慧宇がメガン・ダヴァンに向かってそう質問すると、メガン・ダヴァンは少しほど困ったような表情をしながら「そうですネ……ヒーロー、とでも言うんでショウカ。サトハや明華のように熱狂的なファンが多くてお騒がせなヒーローですガ」と答えた。

 

 

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「おー!ウズウズするなあ!はよ来いへんかな!?」

 

「少し黙っててください主将。いくら宮守の試合を見たからっていっても、そこまで張り切らんでもええでしょう」

 

 末原恭子が隣でやる気に満ち溢れていた愛宕洋榎に向かってそう言うと、愛宕洋榎は少しムッとして「なんや。シロちゃんが出てこうへんからといって、クールに構えてそう言うんか?シロちゃんを見た瞬間固まるくせに!」と言い返すと、末原恭子は顔を赤くしながら「そんな事ないわ!」と反論した。

 

「ほー?そうかそうか、恭子はシロちゃんを見ても何とも思わんと?」

 

「それとこれとは話が違うやろ、アホか!?」

 

「まあまあ先輩方、少し落ち着いて下さい!」

 

 そんな二人を止めるべく出てきた上重漫であったが、瞬間的に末原恭子に肩を掴まれ、殺気のようなものを発した末原恭子に若干怯むが、それだけに留まらず、「漫ちゃん……先鋒戦、しっかり頼むでえ……?」と笑っていない目でそう言うと、上重漫は恐怖し、「は、はいっ!?」と驚きながらそう返事をした。

 

「お……と言ってる間に」

 

 そしてそんな二人をさっきから無視していた愛宕洋榎がテレビの方を見ながらそう呟く。それに合わせて皆が視線をテレビへと移すと、そこには清澄高校の竹井久が一回戦突破を決めていた瞬間であった。愛宕洋榎はそれを見ながら、メンバーに向かってそう言う。

 

「……なんや。宮守に清澄。まあ宮守は例外かも知らんけど、このダークホース達が頑張っとんのに、常連のウチらが頑張らんっていうのはおかしい話やな、そうやろ?」

 

「……初戦は一校だけが勝ちあがれる。格下相手でも全力で勝ちに行くで!」

 

 そう言うと同時に姫松メンバーが「オー!」と声を上げると、姫松高校の控え室へと向かっていった。そして愛宕洋榎は先ほどの竹井久のことを頭の中で思い浮かべながら(……順調そうに見えるけど、そんな腑抜けた麻雀じゃウチには敵わんで……しっかりと喝を入れんとな)と呟き、(ま、兎に角初戦で負けたら話にならんけどな)と心を一回戦へと入れ替え、控え室へ向かっていった。

 




次回に続きます。

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