宮守の神域   作:銀一色

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第359話 二回戦A編 ② 捨て駒

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視点:神の視点

 

(……これが、かの有名なチャンピオンの威圧ですか……同じ人間なのか、それすらも怪しくなってくるほど……流石です。すばらです)

 

 対局が始まるまであと僅かといったところ、花田煌は目の前にいる宮永照をチラと見据えながら心の中で感じたことを率直に言う。この時点で花田煌は宮永照に気圧されてはいたものの、その目には依然として闘志があった。無論、花田煌自身たとえ150%の力を出したとしても、宮永照を地につける事などできやしないだろう。勝つのではない。一矢報いるのではない。彼女に示された使命ーー飛ばないこと。そしてその上で、出来ることならば失点をできるだけ減らす。これが花田煌に密かに命じられた事である。エースの白水哩をぶつけたとしても、宮永照に勝つとなれば厳しい話である。故の、捨て駒。今まで一度たりとも……小瀬川白望を相手にしても飛ぶことのなかった最弱ながらも大きな力を持つ『力』。これを持つ花田煌が選ばれたのである。

 そのことを聞いてしまった花田煌自身、悔しいと思わなかったわけではない。しかし、それも全て自分の非力さが故の事である。それを自他共に承知し、それでも尚自分が必要とされている。それならば、彼女の使命はただ一つ。自分の使命を全うすること。これ以外になかった。

 

(……元より私は捨て駒。いかにチャンピオンを攻略するかよりも、いかにして失点を減らすか……無理に強打してチャンピオンに振る……それが一番すばらくない……)

 

 無理はしなくても良い。無理をしたときのリスクを考慮すれば、黙って見ておいた方が一番現実的である。極論、常時ベタオリでも良いわけだ。それが一番賢く、一番現実的。勿論、余裕があれば狙いに行く事だって花田煌は考えている。だが、その余裕があれば、の話であるが。

 

 

(一回戦の牌譜は見たけど……なにかがあるっていうわけでもなさそう。それか温存か……白水さんをもってこないあたり、余程の秘密兵器か捨て駒のどっちかって事は間違いなさそう……)

 

 宮永照も花田煌を見ながら、自分なりに何故新道寺の先鋒に選ばれたのかを考察する 。実際問題、一局さえ経ってしまえば照魔鏡が全てを見抜くわけで、あまり考察に意味は持たないかもしれないのだが。

 

(まあ秘密兵器にしろ、捨て駒にしろ私には関係ない……ただ全力を持って叩き潰す。()()()()使()()かはさておき……そちらがその気なら……本気で行くよ)

 

 花田煌を睨みつけるような表情で見ていた宮永照は、そんな事を心の中で呟きながら、対局が始まるのを待っていた。その目は明らかにこれから勝負をする者の目ではなく、まるで狩猟をする猛獣のような目であった。

 

 

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東一局 親:宮永照 ドラ{2}

 

白糸台  100000

柏山学院 100000

新道寺  100000

苅安賀  100000

 

 

 

 

(親がチャンピオンとは……なかなかすばらですね。攻めるとしたらこの局になりますかね……)

 

 対局が始まり、起家は宮永照。通常ならば恐ろしい事態であるが、ことこの状況下に限り、絶望から一転、唯一と言ってもいいほどの安堵の時間と化す。

 宮永照の『照魔鏡』。これが発動される最初の局のみ、宮永照は決して動かない。和了もしなければ、鳴きなどの一切の行動を取らない。ただツモを取って牌を切る事しかしないのだ。例え親番であったとしても。

 つまり、宮永照が起家となった瞬間、自動的に宮永照の親が一回減るのだ。鬼門となる宮永照の親が本来ならば4回あるところ、それが3回になるのだ。他者からしてみれば有難い事この上ない。

 そして宮永照以外が相手となれば、花田煌も十分チャンスが巡ってくる。最初にして最後となってしまうかもしれないが、今が数少ない攻め時なのだ。

 

花田煌:配牌

{一二四五②③⑥⑧38西北白}

 

(こ、これはすばらくない……!)

 

 が……駄目。一局勝負のこの局面、スピードもなければ火力もないイマイチパッとしない配牌。せいぜい平和手にまとまれば上々、よくてタンピンが限界といった、期待の望めぬ配牌であった。

 

「ああ……花田んやつ……」

 

「仕方なか。こればっかりは時の運やね……」

 

 控室にいた鶴田姫子と安河内美子が残念そうに花田煌の配牌を見つめる。腕を組んで見ていた白水哩も、一見冷静そうなそぶりを見せていたが、もしかしたらと期待していたのか、どこか歯噛みしているようにも見えた。

 

(いくらあの配牌でも、この局面じゃ、攻めか守りか判断が厳しか……花田、ここはお前に任せる……どがん結果になっても仕方なしやけど……無茶だけはすんな……)

 

 白水哩は祈るようにしてモニター越しに花田煌の事を見つめる。本来なら、自分があの場所で闘っているはずだったのを、飛ばないから。その理由だけでチャンピオンに対しての捨て駒としてしまった。自分では宮永照には勝てないという悔しさと、どんな形であれ後輩に大一番を任せてしまったという申し訳なさを滲ませながら、真剣な表情で対局に視線を注ぐ。

 

 

 

 

 

(……大変危険な橋渡りですが、あの方に比べればまだ生温いですね……あの方はこれ以上の緊張感でやっているのでしょうか)

 

花田煌:9巡目

{二二四四五七七②⑥⑧238}

ツモ{2}

 

(ここでドラ2……ですか)

 

 9巡目、そろそろ全員の手牌も整理されて来た頃で、花田煌は思わぬ形でドラである{2}を対子にする。これで四対子。七対子に行くにしても、通常通りに手を進めていくにしろどちらにせよここは取り敢えず前巡の{③}に続く{②}を切る形の手となったが、ここで花田煌の脳裏に一筋の光が与えられる。ただの思いつきではあるが、花田煌にとっては何者かからの神託。そのように感じられた。

 

 

(危険は承知ですが……ここで賭けなきゃ花田煌の名が廃るというものですよ……!)

 

 

 

 

 

「……ふむ。かなり思い切った大胆な手だな……」

 

 同じく新道寺とは別の控室で対局を見ていた弘世菫は、この後当たる事になる対戦相手の牌譜を片手に、横目で花田煌の下した決断を見てそう呟いた。横でじっくり見ていた亦野誠子も「そうですね……仮に私が能力持ちじゃなければ絶対に取らない選択肢です」と呟く。

 

「ん?なになに〜?テルーが何かした?」

 

「違うよ。新道寺の先鋒の子」

 

 渋谷尭深に言われてモニターを見た大星淡は、花田煌の手牌を見て「ふーん……七対子を狙いに行くとしても、浮いた{②}を無視してドラ絡みの順子を捨てた{3}切り?思い切ってるけど、それが本気のテルーを前にしてもできるかな?」と何処か得意げにして言う。そんな大星淡に、弘世菫は溜息混じりにこう呟いた。

 

「……お前は照のコーチか何かか」

 

 

 

 

 


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