宮守の神域   作:銀一色

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第360話 二回戦A編 ③ 見劣り

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視点:神の視点

東一局 親:宮永照 ドラ{2}

 

白糸台  100000

柏山学院 100000

新道寺  100000

苅安賀  100000

 

 

 

「ポン!」

 

 

花田煌:手牌

{四四五七七②⑥⑧228} {二二横二}

 

打{8}

 

 

 花田煌が苅安賀の先鋒から{二}を鳴き、今度は素直に浮いていた{8}を切る。前巡での{3}切りこそその場の思いつきでしか過ぎなかったが、今のところはなんとか裏目を出さずに奮闘している。

 

(これで後はどうにかシャボ待ちにしてチャンピオンから和了れればいいのですが……)

 

 花田煌は自分が見えているビジョン……ドラの{2}を含めたシャボ待ちで宮永照から直撃を奪うという最高の未来を見据えながら、宮永照の捨て牌を見る。いくらあの宮永照とはいえ、絶対に相手に振らないというわけではない。ただ宮永照が『攻』の部分で圧倒的すぎるから攻めは最大の守りという言葉通り、相対的に『守』の場面が少ないだけで、『攻』に比べれば『守』は完璧とは言い難いものだ。無論、あくまでも相対的評価であるが故に、絶対的な評価ではないのが問題だが、確かに付け入るスキは存在するのだ。

 

 

「……それ、ポンです!」

 

花田煌:手牌

{四四五②⑥⑧22} {七横七七} {二二横二}

打{②}

 

 そして今花田煌が考えていたのが、萬子の染手に見せかけたシャボでのドラ待ちというトラップなのであった。文面だけ見ればただ裏をかこうとしているようにしかみえないのだが、ここで先ほどの{3}切りがただのトラップとは一味違った迷彩となって効いてくるのだ。

 通常ならば、例え染手に向かっていくとはいえ別色の搭子は他の牌よりも優先的に残しておきたくなる、万が一の時のための保険をかけたくなるのが人間の性である。故に、前に切った牌よりも、後に切った牌の方が重要であると考えるのは自明の理だろう。ましてや、ドラ側の{3}を{②や8}よりも優先的に切るなど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。その当然の思考を逆手にとった、まさに博徒のような花田煌の策略。謀略。これなら宮永照を出し抜く事も出来ないわけでもない。

 

(すばら……!)

 

 

花田煌:12巡目

{四四五⑥⑧22} {七横七七} {二二横二}

ツモ{⑦}

 

打{五}

 

 

(まあ、本当ならば対々和まで持って行きたかったんですが……欲張って自滅はすばらくない。何事も見極めが大事です……!)

 

 そして局も終盤となった12巡目、花田煌がようやく聴牌となると、{五}を切る。これでチャンピオン狩りの準備は万端。後は仕留めるだけ。少なくとも花田煌はそう思っていた。

 

 

(思い切りは凄いけど……粗い。ちょうど思いついたから実行したのが見え見え……)

 

 

 しかし、チャンピオンたる宮永照はそれを既に察知していた。宮永照が気付いたのは花田煌が2回目に鳴いた後の{②}切り。ここで宮永照は疑問が生まれていた。そう、花田煌は転換点となった{3}切りを選択する前に切ったのは{③}。それまでにツモの入れ替えが無かったということは、少なくとも{3}切りをする前までは{②③}の搭子落としをしようとしていたわけだ。それが、{③}を切った後、何を思ったか花田煌が捨てたのは{3}。明らかに{③}切りからの{②}切りまでのこの空白の時間。この時間の中のどれかに何かしらの意味があることは容易に想像できるだろう。そしてその中で一番怪しいとすれば、ドラ側の{3}。これしかないのだ。そういった意味では、花田煌は自分で怪しいところを示していたのであった。

 

(……というか。私はベタオリなんだからドラを切るわけ無いでしょ……)

 

 そう、宮永照は和了らないと決めているのだから、避けるべきことは相手に振り込むこと。これだけである。ベタオリ同然の状態で、いくら迷彩を張ったとしても、当人が歩こうとしなければ折角張った地雷も意味がないのだ。これが、小瀬川白望のような百戦錬磨の強者だったら話はまた違ってくる。むしろわざと怪しいと示すことで、本来無意味な打ちまわしに意味を持たせてきた……だとか。手牌全てを危険牌の状態にして死のルーレットをだせたり……だとか。そういった二重の策があってもおかしくはないのだが、花田煌の策はそれと比較すれば随分とお粗末なものであった。

 

(これが白望を知らない人だったら十分騙せてただろうね……私も白望っていう雀士を知らなければ騙されていたのかも。……だけど、白望を知ってる私にとっては所詮一本の矢……ソレと比べたらどうしても劣って見える……)

 

 宮永照の言う通り、迷彩は上手く張れていた事には間違いない。しかし、それ以上のものを知っている宮永照にとって見ればすぐに看破されただけで、現に次巡、柏山学院の先鋒がまんまと{2}を切り出した。

 

(……むっ。柏山学院が出しましたか……本来ならチャンピオンに当てたかったところですが。まあ和了れただけ良しとしましょう。恐らくあの感じだとバレていたようですし)

 

「ロン、断么ドラ3!7700です!」

 

 花田煌が手牌を倒して申告する。本人も宮永照の事を騙せていなかったと薄々気付いてはいたが、そんな事でめげる花田煌ではない。そもそも、そんな事で挫けるような者がこの捨て駒が務まるとは到底思えない。いくら捨て駒とはいえ、自分の役目にしっかりと責任と誇りを持っているのであった。

 

 

(……そして。来ますか……チャンピオン!)

 

(……全力で、倒す)

 

 誰かが宮永照の『照魔鏡』を使う準備となる最初の一局を『嵐の前の静けさ』と表現したが、これ以上に的確な言葉はないだろう。文字通り、この対局には雷鳴を轟かせる嵐がやってくるのであった。


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