宮守の神域   作:銀一色

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第363話 二回戦A編 ⑥ 射る

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視点:神の視点

東一局 親:柏山学院 ドラ{二}

新道寺   80400

白糸台  152000

柏山学院  79800

苅安賀   87800

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お疲れ様です。宮永先輩、流石でしたね」

 

 先鋒戦を終え、対局室から次鋒の弘世菫と入れ替わるように控え室に戻ってきた宮永照を、まず亦野誠子が迎え入れる。亦野誠子の言葉に対しては「……でも、もっと点差をつけられた。『アレ』を使っていれば」と、先ほどまでの自分の結果にはあまり満足していない様子であった。そんな宮永照を気遣って渋谷尭深が淹れたばかりの茶を宮永照に「粗茶ですけど、どうぞ。先輩」と言って差し出す。宮永照と渋谷尭深が最初に出会った頃の険悪な関係など、もはや微塵も面影がなく、今はしっかりとした先輩後輩の関係を築けているようにも思えるが、あくまでも小瀬川白望に関しては未だ敵対状態は解かれる事はなく、表でそう言った話が出ない(実際は弘世菫が配慮して小瀬川白望に関する会話をしないようにしている)ので、そう言った微笑ましい関係が見られるのであり、小瀬川白望が関わってくるや否や、先ほどまでの関係はどこへやら。一気にギスギスとした関係に変貌する。その裏の事情を知っている亦野誠子からしてみれば宮永照と渋谷尭深の今の会話にも若干の違和感と、いつ一触即発の状況にもなり得るかもしれないという緊張感を感じながら、冷や汗を流して聞いていた。

 一方の大星淡はというと、そんな関係を知っているのか知らないのかは分からないが、渋谷尭深と宮永照の間に割って入るようにして「たかみー、私もお茶欲しーい!」と渋谷尭深に要望する。亦野誠子はこの時『頼むから二人の事は放っておいてやってくれ』といった願いを大星淡へと心の中でぶつけながら、胃を痛くしていた。

 

「じゃあちょっと待っててね淡ちゃん。すぐに淹れてくるから」

 

 が、そんな亦野誠子の不安を他所に渋谷尭深は笑みを浮かべながら大星淡の要望に応える。亦野誠子はそれを聞いてホッとしたが、ふと自分は何もしていないのにどうしてこんなにも気を張り、疲れなくてはいけないのだろうという懐疑心が芽生える。もともと、こうやって気遣いをするのは弘世菫の役目であるのだ。一個上の部長がこれほどまでの苦労を毎日味わっているのだと考えると、賞賛よりも前に心配が募り始める。

 

(……後で菫先輩を労おう。だけど、いち早く帰ってきてほしい……私にはこの状況は耐えられない……!)

 

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南二局 親:新道寺 ドラ{①}

新道寺   83200

白糸台  157600

柏山学院  77200

苅安賀   82000

 

 

 

(新道寺の次鋒……安河内とか言ったか。何ともつかみ所がないやつだ。どういった打ち方をするのか、未だ謎のままだ……)

 

 一方、後輩からそんな願いをされているなど知る由も無い弘世菫は、上家に座る安河内美子の事を見ながら心の中でそう呟く。弘世菫はこの時点で既に5600のプラスと、先ほどの宮永照と比べるとかなり見劣りするが、しっかりと一位を堅持する活躍はしているのだが、未だに安河内美子が一体どういう雀士なのか、それが全くといっていいほど分からなかった。急に攻めに転じるわけでもなければ、守備一辺倒というわけでもない。ある種弘世菫にとって弱点となりそうな相手だが、弘世菫はその不気味な謎に対して、臆さず弓を構える。

 

(……親は新道寺。ここで下手に動かれると、厄介な事になる可能性も否定は断じてできない……射っておくか)

 

 

弘世菫:八巡目

{一三四五六②②⑥⑦⑧⑨南南南}

打{⑨}

 

 

 弘世菫は{二}の嵌張待ちで安河内美子に狙いを定める。十分不可能というわけでもない。準備は万端かのようにも思えた。が、

 

 

(なっ……苅安賀のやつ……!?)

 

苅安賀

打{二}

 

 安河内美子にツモ番が回ってくるその前に、苅安賀が{二}を放ってしまう。これはいけない。この一打のおかげで、弘世菫が安河内美子を射る事はほぼほぼ不可能となってしまった。ここ和了らず、見逃して例え安河内美子が打ったとしてもフリテンであるから和了れはしないし、何よりそれ以降となると、二巡続けて{二}を切るのは考えられないから安河内美子を射る、ということは待ちを新たに変えないと不可能であるのだ。八巡という微妙な頃ではあるが、無理をするメリットが弘世菫の自己満足以外あまり無いのも事実だ。元より新道寺の親を蹴る。これが弘世菫の目標であり、安河内美子を射るというのはあくまでもオマケの話だといことを忘れてはならない。

 しかしそれでも納得がいかなかったのか、弘世菫は不服そうに手牌を倒して宣言する。そしてそれと同時に、弘世菫は安河内美子の事を睨みつけながら(安河内……覚えておけよ。次は必ず射る)と心の中で決心をしながら点棒を受け取った。

 


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