宮守の神域   作:銀一色

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第364話 二回戦A編 ⑦ 苛立ち

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視点:神の視点

次鋒戦前半終了時

新道寺   82900

白糸台  161000

柏山学院  76200

苅安賀   79000

 

 

「菫先輩、なんかすっごいイライラしてなかった?テルー」

 

 次鋒戦の前半戦が終わり、先ほどまでじっと黙っていた大星淡が先ほどまでモニターから見た弘世菫が無性にイライラしているのに気づき、宮永照にそんな事を呟く。大星淡のこの指摘は的を得ており、新道寺の安河内美子からなかなか直撃が奪えずに弘世菫は歯痒い思いをしていた。無論、一回も直撃が奪えなかったというわけではなく、何度か直撃を取ったのだが、弘世菫自身でしっくりくるような直撃は全くと言っていいほど取れなかった。結果的にプラス収支で前半戦を終えたとしても、結果的に差を広げたとしても、狙い撃ちを自分の売り、武器としている弘世菫にとってこの結果は屈と感じるのは当然だ。それが大星淡にも分かるほどであったのだから、彼女が抱えていた屈辱感は相当なものだったのだろう。

 

「うん……あの安河内って人。なかなか上手く立ち回ってたし、菫も菫で焦って上手くいかなかったんだと思う。そのせいで悪循環に陥ってるのかも……」

 

 宮永照も大星淡の指摘に同調する。今の弘世菫の状態を精彩を欠いていた、と表現して仕舞えばそれで終わりなのだが、インターハイという何が起こるか分からないこの大一番で、万が一ということも有り得ないというわけではない。そこで今の弘世菫をそのままにしておくのは危険だ考えた宮永照は、大星淡に「……ちょっと行ってくる」と言って控室を飛び出すようにして出て行った。

 

 

「あ、ちょ。テルー!?私もい……っ!?」

 

「気持ちは分かるが、宮永先輩だけで行かせてやれ。な?淡」

 

 大星淡が宮永照について行きそうになったところを、亦野誠子が大星淡の腕を掴んで止めに入る。大星淡は腕を掴まれたまま、不服そうに「えー、なんでさ!私だって菫先輩を元気付けたい!」と言って不貞腐れる。大星淡の弁解を聞いた亦野誠子と渋谷尭深は同時に『散々部活でしごかれた弘世菫が悩んでる姿を見たいだけだな』と大星淡の心の内を看破しながらも「後輩に元気づけられるなんてそれこそプライドの高い弘世先輩なら屈辱ものだろ」と言って大星淡を説得する。大星淡は仕方ないと言った感じでソファーに座ると「ちぇ……せっかく菫先輩の困ってる姿が見れると思ったのにな……」と本音を漏らした。

 

(はは……まあ淡に厳しいってのもあると思うけどな……弘世先輩。まあそれは宮永先輩も同じようなものか……)

 

 

 

 

 

 

 

「美子。前半戦弘世ば相手に良か成績やね」

 

「ありがと。まあ後半戦もしっかり役目を果たすばい」

 

 一方の新道寺の控室では、多少点差は離されたものの弘世菫相手に上手く立ち回った安河内美子をメンバーが迎え入れる。白水哩と安河内美子の会話を聞いていた花田煌が申し訳なさそうに「私がもっと失点を抑えておけばもっと楽にできたはずなのに……申し訳ありません」と謝るが、江崎仁美が肩を叩いて「何言っとるばい。チャンピオン相手にあそこまでできたのは上々やろ」と励ます。すると白水哩が花田煌にこんな事を聞いた。

 

「花田ん失点は19600やったか」

 

「はい……チャンピオンには5万点以上稼がれましたが……」

 

 それを聞いた白水哩が澄ました顔で「24200ばい」と花田煌に向かって言う。花田煌は白水哩の言っていることが分からず困惑していたが、安河内美子が小さな声で「春の大会でチャンピオンと当たった時の哩の失点やね」と呟くと、白水哩は小さく溜息をつく。あまり思い出したく無い過去の成績だったのだろう。

 

「まあ、そういう事ばい。私はあのチャンピオン相手に悔しか成績しか残せんかった。そう考えっと花田ん成績は十分誇れるばい」

 

「そうですか……」

 

 花田煌がそう呟くと、白水哩が安河内美子に向かって「ま、後半戦でん期待しとるよ」と言うと、「……了解ばい」と言って対局室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

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 所変わって対局室へと続く廊下。そこで壁に手を当てながら考え事をしていた弘世菫に向かって走ってきた宮永照が声を掛ける。

 

「菫」

 

「照……」

 

 弘世菫が宮永照の存在を認識すると、先ほどまで険しい表情をしていた弘世菫の顔が綻んだ。どうやらかなり精神的に追い詰められていたらしい。

 

「……すまないな。まさかお前に精神面で心配されるなんて」

 

「む、何それ。私が精神面に難ありみたいな物言いは。そんなに私って精神的に弱かった覚えは無いんだけど」

 

 宮永照がジトッと弘世菫の事を睨むようにして言うと、弘世菫は「……結局妹と仲直りできずに三年の夏を迎え、挙げ句の果てに一度突っ撥ねた奴に心配されるなんてなって意味だ」と呟く。それを聞いた宮永照は一瞬ムッとしたが、すぐに表情を戻して「……そこまで口が達者になったってことは、大丈夫だった事で良いよね?」と聞く。

 

「ああ、どうやらそのようだ……何処ぞの誰かさんのおかげでな」

 

 弘世菫はそう言うと、深く深呼吸して「じゃあ、行ってくる。ありがとうな」と言い、対局室へと歩き始める。しかし、数歩歩いたところで弘世菫が振り返ると、「……それと。結局のところどうなんだ。仲直りできそうか?」と質問する。

 

「……分からない。でも、もしその時が来たら、ちゃんと仲直りするよ」

 

「そうか……さっきは引き合いに出してすまなかったな」

 

「ううん。元はといえば私が悪い話だし……それに、白望さんにも何度も言われた事だから」

 

 そう言うと、弘世菫は「……頑張れよ。他人の家の事情だから深くは言わんが、応援してるからな」と言い残すと、今度こそ対局室に向かって行った。


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