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視点:神の視点
「……ロン、中チャンタ。2600。……ありがとうございました」
弘世菫:和了形
{七八九①①99中中中} {横三一二}
柏山学院
打{①}
次鋒戦終了時点
新道寺 93200
白糸台 168300
柏山学院 66600
苅安賀 70900
次鋒戦後半戦、結果的に首位をキープしたまま中堅戦へ託す事ができた弘世菫は、安堵のため息をつきながら控室へと戻ろうとする。そして自身より先に対局室から出て行こうとした安河内美子の姿を見ながら、後半戦の自分のプレーを振り返っていた。
(……やはり、あまり安河内を意識しない方が上手くいったな。前半戦の時は安河内を意識するあまり自分が見えていなかったが……固執さえしなければそれほど驚異的な奴ではない……まあ、それを差し引いても先の読めない厄介なヤツだということには変わらんな)
弘世菫の言う通り、前半戦に比べれば後半戦は見違えるほど弘世菫らしい麻雀が出来ていた。弘世菫自身安河内美子の事を無理に意識しないだけでここまで変わるとは思っていなかったため、今回の対局は彼女の今後ににとっては非常にプラスとなった。
(精神的なモノがまさかここまで結果に大きく関わるとはな……今思えば、そのことは既に私は知っていたはずなんだがな……)
心の中でそう呟きながら、弘世菫は頭の中で小瀬川白望の事を思い浮かべる。当時は何も分からぬままただ小瀬川白望が一方的に超人的な和了をしたとばかり思っていたのだが、今になって思い返せば、そういった相手の心、精神の揺れや迷いを小瀬川白望は巧みに利用していたのだと考えればずっと疑問だったものも納得がつく。長年の疑問をようやく解決することができた弘世菫であったが、現状に満足することはなく、むしろ気付くのに時間がかかりすぎたと思ったほどだ。
(いくら原理が分かったところで……それで対策を講じれるほど
そんな事を考えていた弘世菫が対局室を出て廊下を曲がろうとすると、弘世菫の進行方向から静かに渋谷尭深がやって来た。渋谷尭深を視認した弘世菫は考え事を止め、「……使うつもりなのか?
「そうか……お前が他者に引けを取るとは思えないが、油断はするなよ」
「勿論です。先輩も次鋒戦、お疲れ様でした」
そう言葉を交わし、渋谷尭深は対局室へと歩を進める。そんな後ろ姿を見送った弘世菫は、溜息をつきながら「……あんな淑やかで謙虚な尭深が、照に対抗心を燃やすほど白望を好くとはな……恐ろしいものだ」と小さく呟くと、そのまま控室へと戻って行った。
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「……よし。とりあえず心配事は杞憂に終わっとね」
「ですね、部長」
白水哩が腕を組みながら、モニターを見て若干緊張を解く。鶴田姫子がそう同調すると、花田煌が「心配事とは……?」と疑問を口にする。すると白水哩がモニターに映る渋谷尭深を睨みつけるようにしてこう言った。
「ああ、花田んには言っとらんかったけど、この渋谷っつー奴はオーラスに役満ば和了る確率が異常なほど高い。単なるラッキーとは思えんほどにな。……まあ十中八九能力やね。そいだけでも十分脅威ばってん、そいが奴がラス親になっとどうなっか……分かるか?花田」
「えっと……オーラスで役満を和了る可能性が高いんですから……親が流れるまでずっと役満を和了るって事ですか……?それはすばらな能力ですけど、非常にすばらくない……」
「可能性としては十分にある話やね。まあ一度もラス親になっとらんらしいけど……単純に考えて四分の一。いつなってもおかしない話ばい」
そう白水哩が呟くと、花田煌もモニターを見て渋谷尭深の事を見る。見掛け上はそんなに凶暴的な能力を持っているようには花田煌は見えなかったが(……人は見かけによらず。という言葉ですね……見た目に騙されてはすばらくない……)と心の中で唱えるようにして言った。
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一方、観客席で対局を観戦していた小瀬川白望は、中堅戦に出ていた渋谷尭深を見て(……改めて思うけど、尭深がまさか照と同じ白糸台で麻雀をやってるなんてね。最初の頃はあんまり仲良さそうには見えなかったのに)と感慨深く心の中でそう呟くが、宮永照と渋谷尭深の間にそういったギスギスした空気が流れていた理由は八割方小瀬川白望にあるわけで、そういったことに気付いていない小瀬川白望は二人の関係を客観的に見ながらしみじみと思っていた。
「……白望。あの娘については何か知らないのかい?」
「知ってるは知ってますけど……麻雀の事についてはさっぱり」
熊倉トシから尋ねられた小瀬川白望がそう返答すると、熊倉トシは少し困ったような表情をしながら「ちょっとこれ、胡桃と一緒に見てくれないかい?」と言って渋谷尭深の牌譜を小瀬川白望に手渡す。鹿倉胡桃もそれを聞いて位置を小瀬川白望の近くに移動して二人で牌譜を見ると、鹿倉胡桃は「何これ……オーラスの時、この人絶対役満和了ってる!」と言う。それを聞いた姉帯豊音と臼沢塞とエイスリンも小瀬川白望に近寄って牌譜を見る。
「……なんかの能力ですかね、これ」
「能力だろうね……ここまで尖った能力も珍しいもんだよ」
臼沢塞と熊倉トシがそんな会話をしていると、その間も集中して牌譜に目を通していた小瀬川白望。そうして何かに気付いたのか、小瀬川白望は牌譜からモニター、モニターから牌譜と、視線を行ったり来たりさせた。
「何かに気付いたのー?シロー」
「……うん。胡桃、尭深と打つ事になったら、その時はできるだけ流局と連荘を避けて。例え胡桃が親でも連荘は控えた方が良い……」
「分かったけど……どうして?」
鹿倉胡桃が当然の疑問を小瀬川白望にぶつけると、小瀬川白望は「……この試合を見ればわかるよ。その理由が」と言い、モニターの向こう側にいる渋谷尭深のことをじっと見つめていた。