宮守の神域   作:銀一色

380 / 473
第368話 二回戦A編 ⑪ フィッシャー

-------------------------------

視点:神の視点

東一局 親:柏山学院 ドラ{9}

柏山学院  51300

新道寺  103800

苅安賀   45200

白糸台  199700

 

 

(……しかし。こうして目の前にすると圧が違うな。思わず身震いしてしまいそうだ……)

 

 二回戦も終盤戦に近づいてきた副将戦東一局、亦野誠子は自分から見て対面に位置する白水哩を見ながら、目の前にいる白水哩というエースの気迫に押されて思わず冷や汗をかく。やはり牌譜で見るのと、こうして実物を間近に見るのとでは全然違う。亦野誠子が持ち合わせている情報だけでは説明し尽くすことのできない凄みが白水哩から感じられているのであった。

 

(白水、哩……新道寺の不動のエース……!)

 

 春の全国大会で同じ白水哩と闘った宮永照から彼女の事については聞かされている。特に彼女の能力、『リザベーション』については『照魔鏡』が使える宮永照しか知れることのできない詳細を聞かされた。

 彼女の能力、『リザベーション』は簡単に言って仕舞えば、彼女が自分自身に課す()()である。自分の決めた飜数で和了ることができれば成功、和了れなかったり、和了ったとしても決めた飜数に届かなければ失敗、これが白水哩の能力である。が、それはあくまでも彼女だけの話であり、この()()が効果を発揮するのは白水哩自身ではなく、大将に控えている鶴田姫子であった。鶴田姫子は、白水哩が課した飜数をクリアした局と同じ局に、課した飜数の倍の飜数……二飜だったら四飜。四飜だったら八飜といった風に、課した飜数によっては役満手にだって成り得ることのできる強烈な能力である。

 当然ながら、この能力にもデメリットがあり、自分が課した飜数を超えられなかったり、和了れなかったりなどして失敗してしまった時、鶴田姫子はその局と同じ局の時は全く和了ることができず、和了れたとしても一飜が限度という大きなデメリットが存在する。故に、白水哩の出来の良し悪しが、そのまま鶴田姫子の成績に直結すると言っても過言ではなかった。だからこそ、亦野誠子は白水哩を意地でも止めなければいけない。しかし、それが容易でないのは亦野誠子は十分すぎる程分かっていた。確かに、『リザベーション』自体は白水哩にとってプラスになったりするものではない。つまり白水哩は素の能力で能力持ちの亦野誠子と闘う事となるのだが、それを差し引いても格上であることを亦野誠子は認めざるを得なかった。

 

(春は相手が宮永先輩だったからこそ勝てたが……私で相手が務まるかどうか……)

 

 

 

 

(亦野誠子……やったか。王者白糸台の副将。人呼んで『白糸台のフィッシャー』とか言われとるんやっけ)

 

 一方の白水哩も亦野誠子の事を見据えながら、()()()()()()()()()()()()()()()()。その仕草を側から見ていた亦野誠子は眉をしかめる。そう、これこそが彼女のルーティーンであり、彼女と鶴田姫子、二人の能力である『リザベーション』の発動条件であった。が、しかし。

 

(急ぎたい気持ちば抑え……こん局はかけん)

 

 この局、彼女はリザベーションの()()はかけなかった。あまり配牌が良くなかったのと、東一局は可能な限り様子見したいという二つの理由があったからで、ここは無理をせずともよいと判断したのだろう。しかし、亦野誠子からは彼女が縛りをかけているのかかけていないのかは分からない。

 

(恐らくだが、白水ほどの強者なら最初は『見』に回る……だからといって100パーセント安全とは言えないが……これは好機かもしれない……ここは行くべきか……)

 

 が、亦野誠子は白水哩が様子見に徹するとピタリと予測を当て、意を決して最初から動きに入る。

 

「ポン!」

 

 

亦野誠子:三巡目

{一五七②⑥⑥⑧223西} {横④④④}

打{西}

 

 

 

(『フィッシャー』……か。噂でしか聞かんとったばってん、早速見れるとは……)

 

 白水哩はそんな亦野誠子のアクションに対して、早速亦野誠子の代名詞である『フィッシャー』が披露されると察知する。そう、亦野誠子のフィッシャーの鍵は副露。亦野誠子は三副露する事で五巡以内に和了ることができるという能力を持っていたのであった。

 鳴くということは速攻をしかけやすい分、当然ながら手牌が少なくなるという若干リスキーな点もある。しかし、相手が何かを仕掛けに来る前に和了る。それが彼女の常勝パターンである。

 

(後はこれが白水にも通じるかどうか……)

 

(いっぺん見とう気もあるけど……ばってん、そんな事も言ってられなか。こちらも動かさせてもらっとよ)

 

 しかし、それが白水哩にそのまま通じるかどうか。そこのところは実際に試して見るまで分からない。そう言った意味では亦野誠子も様子見といえば様子見しているのかもしれないが、白水哩はここで動き始める。確かに見に回っていると言ったが、あくまで見であり、守ではない。標的である亦野誠子が動けば、白水哩も臨戦態勢に入らざるを得ない。

 

 

「チー!」

 

亦野誠子:七巡目

{一⑥⑥⑧2234} {五七横六} {横④④④}

打{一}

 

 

 亦野誠子が二副露を決める。三副露目の受けも、{⑥⑦25}と、四枚で受けることができるかなり良い受けになった。亦野誠子も自分の想定以上の良手となったが、そこに待ったをかけるのが白水哩である。

 

 

「ポン」

 

白水哩:八巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {一横一一}

打{7}

 

 

(……そこまで甘くはないか。それにしても{一}をポンか……染手かチャンタか。それとも役牌持ちか?)

 

 亦野誠子は白水哩の{一}鳴きから彼女の手牌を考察し始めていると、苅安賀が偶然にも亦野誠子が欲していた牌、{5}を一発で出した。亦野誠子は釣り糸を一気に引き寄せ、副露を宣言しようと試みる。

 

(……ヒット)

 

「チ「ポン!」ーッ!?」

 

 

 が、またしてもそれを阻むのは白水哩。白水哩は{5}の副露を宣言する。この場合、チーよりポンが優先されるので鳴きは白水哩のものとなり、亦野誠子の鳴きは成立しなかった。亦野誠子は若干苛立ちを覚えるが、それだけで留まらなかった。

 

「ポン」

 

白水哩:十巡目

{裏裏裏裏裏} {横中中中} {横5赤55} {一横一一}

打{4}

 

(なっ……三副露……!)

 

 三副露した白水哩を見て、亦野誠子は自分の十八番を奪われたような気がして若干屈辱を感じる。一方の白水哩は(……しっかし。局が始まって直ぐに{中}が対子になるんやったら、縛りばかけて良かったんかもしれんね……)と自分の判断に若干後悔しつつも、次巡に白水哩は見事ツモ和了を決める。

 

 

白水哩:和了形

{33西西} {横中中中} {横5赤55} {一横一一}

ツモ{西}

 

 

「ツモ!2000-4000!」

 

 

(くっ……!)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。