宮守の神域   作:銀一色

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第370話 二回戦A編 ⑬ 5万点

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視点:神の視点

南四局 親:白糸台 ドラ{三}

柏山学院  48200

新道寺  128600

苅安賀   42900

白糸台  180300

 

 

 

(クソ……10万弱あった点差が前半戦だけで5万点ちょっとになるだと……?こんな馬鹿げた話あってたまるか……!)

 

 副将戦の前半戦もようやくオーラスに入り、副将戦が始まる前と比べて20000点以上プラスと好調な白水哩に対して、トップを走る亦野誠子は20000点近いマイナス。それでも未だトップの白糸台を二位の新道寺が追いかけるという構図に変化は起こらず、依然として白糸台がトップを維持している。この時点での点棒状況()()を見れば誰しもがそう見えるのだろう。が、実際はかなり状況が異なっている。

 5万点差。確かに絶望的点差と見ても間違いはない。当然だ。ただ、10万点差を5万点縮めての5万点差となれば話は大きく変わってくるのは言うまでもない。しかもこれをたった一半荘分でやってのけたのだ。素人が見ても、逆転は十分に可能だと思っても仕方のない事態であろう。そして当然ながら、五万点詰められた側の亦野誠子の憤りと屈辱は計り知れないものである。

 

 

(一体……どうすれば……?)

 

 副将戦が始まってからここまで一方的に白水哩に嬲られ続け、今も尚迷走している亦野誠子であるが、とりわけ彼女が弱いというわけではないのだ。事実、彼女はレギュラーを任されて以来副将戦で二位になった事など一度たりともない。……あの日。彼女が初めて出会った宮永照と小瀬川白望という圧倒的強者から受けた刺激をバネに、高校に入ってから彼女は急成長したのだ。そんな彼女の能力は宮永照や弘世菫からも一目置かれており、だからこそレギュラーを獲得することができたのだ。

 

 ただ、その亦野誠子以上に白水哩が強かっただけ。単純に言ってしまえばそれだけの話であるのだが、今回はそれ以外にもこの大敗の要因は沢山存在していた。副将戦の序盤から既に白水哩には好調な追い風が吹いているのにも関わらず、反対の亦野誠子に対しては明らかな向かい風。もちろん亦野誠子自身、精細を欠いていた部分は多々見られたし、流れだけで優劣がくっきり分かれるというわけでもないのだが、それを踏まえても亦野誠子の不利は際立っていた。でなければ、いくら格上の白水哩を相手と雖もここまでの結果には至らなかったはずだ。

 

 そして何よりも亦野誠子にとって一番痛かったのが、その自分の流れの悪さに気づいていなかった事だ。そこに気づき、『今は耐える時だ』と賢明な判断が下せていれば、また結果も違っていたのかもしれない。しかし、亦野誠子はそれに気付かず、無理に白水哩に挑戦しにかかった。白水哩からしてみれば、これほど調理しやすい食材などなかっただろう。格の違いというものを実際の力量差以上に亦野誠子に叩き付けることに成功した。

 

 

亦野誠子:十巡目

{四六六③} {横⑤赤⑤⑤} {一一横一} {横中中中}

ツモ{③}

 

白水哩:捨て牌

{南9西白四9}

{7①}

 

 

(……ドラ側だが、安牌か)

 

 

 亦野誠子はドラ側の{四}を切ることに対して警戒心を持っていたが、白水哩の捨て牌に{四}がある事を見てその警戒心が緩む。そもそも、三副露をした時点でドラ側など何のその、振り込むという結果になる可能性があっても御構い無しに攻めて行くという心構えはあったはずだ。その心構えが今この瞬間で揺らいでいるという事は、それほど亦野誠子の精神はガタがきているという事の現れである。

 

 

亦野誠子

打{四}

 

「ロン!8000!」

 

 

苅安賀:和了形

{三三三五②③④④⑤⑥678}

白糸台

打{四}

 

(なっ……苅安賀……ッ!?)

 

 

 そんな亦野誠子に追い打ちをかけるが如く苅安賀が亦野誠子の切った{四}で和了。しかもドラの{三}を三つ抱えての変則{四五}待ち。完全に亦野誠子の視線外からの和了であった。別に白水哩がそう仕向けたというわけでもなく、ただの不注意。その事実に亦野誠子は自分自身に対しての苛立ちを募らせていた。

 

 

 

 

 

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(……二位以上で勝ち抜けのこん試合……普通なら無理に攻めんと十分……ばってん、まだまだ攻めに行く。ここで潰さんと後々面倒な事になる……)

 

 前半戦が終わり、大量得点で白糸台との点差を大きく詰めた立役者である白水哩は、まだまだ点棒を貪欲に取りに行く姿勢で臨むことを心の中で発していた。そう、彼女のいう通り一位と二位の点差も大きいが、それ以上に二位と三位間の点差の方が大きい。いくらまだ後三半荘残っているとはいえ、新道寺が三位に急転落するようなことはそうそう起こらないだろう。それは白糸台にも同じことが言える。いくら亦野誠子が絶不調とはいえ、そこまで削られるようなことは余程でない限り起こらない。一位であれ二位であれ準決勝に進めることができ、またその事によるアドバンテージがないこの状況下でわざわざ無理に一位を取りに行く事は愚策であるようにも思える。が、白水哩はそれでも攻めを敢行する。次の後半戦で、亦野誠子の心を真っ二つに引き裂くために。

 

(……前半戦で稼いどったキーは満貫キーが二本に跳満キーが二本……そいでその内の跳満キー一本が一本場……失敗せんかったから、まあまあな内容ってところやね……)

 

 そして白水哩は先ほどのリザベーションの結果を振り返る。あまり多用はせず、縛りもそこまで厳しいものを設定しなかったため倍満や役満に繋がるようなキーを確保することはできなかったが、失敗を一回もしなかった事を踏まえれば及第点といったところであろう。

 

 

(……後半戦も、本気で頑張らんば。全力で叩き潰しにいかんとね)

 

 

 

 

 

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「……誠子」

 

 

「て、照先輩……それに菫先輩まで……」

 

 所変わって、頭を抱えて設けられてあった椅子に座っていた亦野誠子に宮永照と弘世菫が声を掛ける。顔を上げる亦野誠子に対して、弘世菫がこう言った。

 

 

「……誠子。その気持ち、私には分かる。痛いほどにな」

 

「そうですか……」

 

「だからこそ、言えることもあるもんだ。『目を覚ませバカヤロウ』ってな。麻雀は一人でやってハイスコアを叩き出すものじゃないんだ。相手がいて、その上で成り立つものだ。だから、自分が良い時も、相手が良い時もあるし、自分の思い通りにいかない時だってあるに決まってる。それを、特別な事だと思って逃げるな」

 

 

「……もちろん、相手に思考を誘導されてたのなら話はまた違ってくるけどね」

 

 そういう宮永照に対して、弘世菫は「……ややこしくなるからその話は別にしてくれ。私じゃその話にはついていけん」と言う。そんなやり取りを見ていた亦野誠子はふふっと笑うと、「……ありがとうございました」と言って、それ以上の言葉は口にせず立ち去った。

 

「……頭に思い浮かんだ事を片っ端から言っただけなんだが、どうやら上手くいったようだな」

 

「全く……あれで立ち直れなかったら菫の責任……」

 

「ざ、雑だった事は謝るよ……まあ、あいつも立ち直れたようだし、結果オーライだ」

 

 

 

 


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