宮守の神域   作:銀一色

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第380話 二回戦A編 ㉓ 無視

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視点:神の視点

南二局 親:阿知賀 ドラ{8}

千里山 151800

阿知賀  83200

劔谷   76700

越谷   88300

 

 

 

(船久保先輩の言っていたことが半分当たってたのは分かるけど……だけど、やっぱそれだけやなかった……!)

 

 

(部のみんなと打った時のことを思い出せば……)

 

 

 千里山サイドで松実宥の能力についての見解で間違っていた点が発覚してから数局が経ち、流石の二条泉も誤りが発覚するキッカケの満貫直撃から薄々感じており、ようやく本当の結論に辿りつこうとしていた。一方で、松実宥はと言うと、二条泉が自分の能力を半分以上は理解しているという前提で、既に自分の能力を知っている同じ阿知賀女子のメンバーと闘っている時に用いた戦法をそのまま使用していた。これが二条泉に上手くハマったようで、だから先程も満貫直撃を奪う事ができたのだ。

 

(大方の予想はつく……せやけど、おいおいおい……対策のしようがあらへんやろ……)

 

 二条泉も自分なりの再考察で松実宥の能力を『赤い牌を集める』能力だと分かったまでは良いのだが、そこから後の話で二条泉の頭は悩まされていた。そう、確かに赤い牌が集まりやすいのだから、赤い牌に気を付ければ良いのだが、あまり現実的な話ではない。萬子と{中}は言わずもがな、筒子であれば{①③⑤⑥⑦⑨}、索子であれば{1579}と、赤い牌という括りでは明らかに範囲が狭いのだ。唯一、赤い牌に絡むことのない牌だと言えるのは{234}と{中}以外の字牌だが、何も赤い牌以外の牌が引けないなどというわけではない。と、言うことはつまり、字牌はともかくとして、数牌は基本的に全ての牌に危険があるわけである。よって、どれかに警戒して牌を絞るような戦術は破綻しており、不可能である。

 もちろん、それでも突出してツモ確率の高い萬子と{中}に関しては警戒を怠る事は許されないのだが、松実宥も対策を講じているため、一筋縄ではいかず、結局効果的な打開策は存在しないという事になり、心理戦に持ち込まれることとなった。

 

(船久保先輩から何かアドバイスを貰えると嬉しいんやけど……流石にこれは期待できへんよなあ……)

 

 前半戦が終われば後半戦が始まるまでのインターバルで船久保浩子からデータのプロファイリングの訂正はあるのだろうが、具体的な打開、突破策はいくら千里山の頭脳こと船久保浩子であってもこの膨大な範囲の能力に対しては望めなさそうである。

 故に、どうにかして自分で解決するしかないのだが、先程から幾ら二条泉が悩んでいても答えが見つかる事は無さそうである。

 

(……仕方あらへん。こうなったらもう能力関係無しに攻めていく……能力を考えればその分相手に引っ張られるだけ……)

 

 そこで、二条泉が下した決断は敢えて能力持ちであると意識をしない、という決断であった。思考放棄や諦め、とはまた違う。敢えてその前提を視界から外すことによって、自由に動けるようにするという、少し判断を誤れば自爆しかねない暴走であった。もはや二条泉にとってそれしか策はなかったのである。だからこそ、思い切ってその策に身を委ねる事ができたのかもしれない。

 

千里山:十一巡目

{二二②③④⑧⑧233445}

ツモ{四}

 

(萬子が何や……ここでビビっとるようじゃ、上には上がれへん……!)

 

「リーチや!」

 

千里山

打{横二}

 

 

 

(!!)

 

 二条泉のリーチに対し、松実宥が驚いたような表情で二条泉の方に視線を向ける。そう、松実宥の能力について概ね知っているものならば一番あり得ない選択肢である萬子でのリーチ。例え松実宥の能力を完璧に理解し、『萬子と中だけではない』と気付いたとしても、まず警戒されるのが萬子である。しかし、二条泉はそれを無視して強引に萬子で勝負しに来たのだ。

 

(こ、この人……私の能力を理解しているはずなのに……どうして……?)

 

 いや、確かに松実宥は今嵌張の{②}待ちであり、萬子で待っているわけではなかったが、それでも二条泉のこの判断は非常に彼女を悩ませた。もしかすると、自分が相手が萬子を警戒しているという事を利用しているのを、逆に利用されたのかもしれない。彼女の憶測はそこまで考え付いくほどだったのだが、しかしそれでも本当に手牌が見えたり、相手の心理を読み取ったり巧みに操ったりする技術が無ければこの判断を下すのは不可能である。それもあって、松実宥はこの二条泉の捨て身とも言える行動に半ば混乱していた。

 

 

 

 

 

 

(……参ったな。恐らくやぶれかぶれの策なんだろうが、まさかそれが吉と出るとは……)

 

 一方阿知賀の控室でも、赤土晴絵が唇を噛みながら心の中でそう呟く。二条泉のこの策が何の根拠もない策戦であるという事は見抜いたものの、根拠も無ければ何かしら特殊な動作も無く、ただ松実宥の能力を考慮しないというだけの策なので、それに対する具体的な対策が存在しないのだ。故に、二条泉が裏目を引いてくれるまで待つしかないのであった。

 そして特に痛いのがその事に松実宥が気づいていないという事だ。未だに松実宥は二条泉の行動の根拠や理由が見つからず、疑問に思っているが、『能力を気にしない方がかえって打ちやすい』という理由しかないので、見つかるわけがなかった。それだけならまだ良いが、問題なのは二条泉が自分の能力を完璧に理解し、思考まで読み切られていると錯覚して松実宥が萎縮してしまう事。それが一番怖いところではあった。しかし、前半戦が終わるまではアドバイスしたくてもできない。何事も無く前半戦が終わるか、松実宥が自分で疑問の無駄に気付くか、それしか解決の糸口はなかった。

 

 

 

 

「ツモ、1000オール……」

 

 

阿知賀:和了形

{一二三七七七七八九①③赤⑤⑤}

ツモ{②}

 

 

(……ダメやったか。でも、能力を意識しとったら多分聴牌はできんかった。もしかしたら、振っとったかもしれんかったな……)

 

 結果的には松実宥が和了った事で、二条泉の奇策が水泡に帰してしまった。しかし、それと同時に松実宥が萬子待ちでなかったのを見て、自分の強引な作戦は半分ほど成功していたという事実を得る事ができた。厳密にその作戦が愚策か否かは判別しにくいものであるが、それを抜きにして二条泉に勢いを与えるという事に変わりはなかった。


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