宮守の神域   作:銀一色

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第381話 二回戦A編 ㉔ 気負い

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視点:神の視点

 

 

 

「おっしいなあー泉!あともうちょいやったのに!」

 

「にしても泉、めっちゃ積極的になったやん。なんかあったんか?」

 

「さあ……何があったんかまでは流石に分かりませんね」

 

 前局の二条泉の思い切った行動に対して千里山のメンバーも驚いていたのか、二条泉が何故あの行動を取ったかについて話し合っていた。もしかしたら一見対策を講じるのは不可能と思われた松実宥の能力に穴を見つけでもしたり、もしくは想像を絶するような奇策を思いついたのではないかと議論は盛り上がる。しかし、流石の船久保浩子までも、『対策範囲が広すぎるのなら能力を思考の外に追いやる』という発想には至らなかったわけではあるが。

 

「あ……」

 

 二条泉の大胆な行動に賞賛を送っていた千里山メンバーではあったが、その直後の南三局で二条泉が松実宥が張っていた萬子の混一色に対して{六}を強打し、結果的に振り込んでしまう。折角二条泉の事を褒めていた園城寺怜は額に手を当て「……どうやら、ただの全ツッパみたいやな」と呟く。

 

「まあ……むしろそれの方が自由に動けていいかもしれへんけど、今のみたいなんがあるからな……」

 

 江口セーラもそう言ってモニター越しに二条泉が松実宥に点棒を手渡す光景を見る。まともな対策を練ることができないこの状況では、若干リスキーではあるが今の二条泉の行動が一番縛られる事なく麻雀ができると言えるだろう。そういった意味では江口セーラは二条泉の機転を褒めていた。

 

「……船Q、前半戦終わったら泉んとこに行くんか?」

 

 前半戦もそろそろオーラスというところで、清水谷竜華が船久保浩子に向かってそう質問すると、船久保浩子は少し悩むような素振りを見せて「まあ一応行っときます。色々聞きたい事もあるんで」と答えた。するとそれを聞いていた園城寺怜が「なあ、ウチも連れてってや」と船久保浩子に向かって口を開く。

 

「と、怜。大丈夫なんか?」

 

「ちょいと行くくらい流石に平気や。ちょっと先輩として言わなあかん事があるしな」

 

 そう園城寺怜が言うと、清水谷竜華は「……仕方ないわ。行きい」と園城寺怜に許可を出すと、園城寺怜は「そんな心配する事のほどでもないから安心せえって。何も泉と決闘しようっていうんじゃあらへんから」と冗談も交えながら頭を清水谷竜華の膝から持ち上げるようにして起き上がる。

 

「じゃ、行こか。船Q」

 

「分かりました」

 

 そうしてオーラスが終わる前に園城寺怜と船久保浩子は控室から出て行き、控室に取り残された清水谷竜華は同じく控室に残っていた江口セーラに向かって「なー、セーラ。怜の言っとった『先輩として言わなあかん事』ってなんや?」と質問する。すると江口セーラも園城寺怜が二条泉に言わなければいけない事について考えていたようで、清水谷竜華に同調するようにこう返した。

 

「そう、そこや。オレも気になっててん。一体なんなんや?」

 

「さあ……」

 

「あんまり自分の事で気負わんでもええ、って事を言いに行ったんやろ」

 

 すると今まで沈黙を貫いていた千里山の監督である愛宕雅枝が口を開く。江口セーラと清水谷竜華は少しほどびっくりしていたが、すぐに「……どういう事ですか?」と聞くと、愛宕雅枝はこう続ける。

 

「『命を賭けながらも頑張る園城寺先輩のためにも、ウチも頑張らんと!』って思う必要は無いってことやろ。そうやって気負うよりも、優先すべき事はあるってことや」

 

「成る程……そういう事やったんか」

 

「それに、一年生の泉に気負わすような事になって申し訳無かったってのもあるやろな。……まあ、だいたいそんな事やろ」

 

 

 

 

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「ん、終わったな」

 

「そうですね……安手やけど、なんとか和了れたみたいです」

 

 一方で控室から出て、対局室側の方向へと歩んでいた園城寺怜と船久保浩子は携帯で清水谷竜華から送られてきた情報を元に前半戦の終了を知る。そんな事を話していると、二条泉が反対方向側からやって来るのが見えた。二人は手を振って「泉、お疲れさんやでー」と声をかける。

 

「あ、ありがとうございます……っていうか、園城寺先輩。大丈夫なんですか?身体の方は」

 

「まあウチの事は後でもええやろ。それより船Q、一応報告してやりい」

 

 園城寺怜に促された船久保浩子が「あ、はい」と言って事前のプロファイリングに誤りがあった事と、それを踏まえての松実宥の能力の訂正を一応という事で報告する。

 

「まあそんなとこや。少しツメが甘くてすまんかったな」

 

「いえ、ウチも早い段階で気付けたんで、まあ大丈夫です」

 

「そっか……そんで、後半からの打ち回しやけど、なんかあったんか?」

 

 船久保浩子がようやく本題を二条泉にぶつけると、二条泉は少しはははと笑いながら「いや……あまり考えすぎるとドツボに入りそうやったんで、何ならもう無視した方が早いかなと思ったんで……」と正直に打ち明けると、船久保浩子は「いや、そんなら良かったんや。ただの自暴自棄じゃないなら、今のままでええよ。流石にアレの対策を考えるんは骨が折れるし」と言った。二条泉がその言葉に頷くと、今度は園城寺怜の方に視線を向ける。

 

「……それで、先輩は?」

 

「ん?ああ……いやまあ、あんま気負いせんでもええよって事を言いたかっただけや。どうせ『か弱いのに無茶をする園城寺先輩のためにも、ウチも死ぬ気で頑張らんとあかんわー』とでも思っとったんやろ?」

 

「ま、まあ……はい」

 

 二条泉が若干照れ臭そうにそう言うと、園城寺怜は「一年坊主が先輩の事で気負うなんて百年早いわ。……もっと自由に動いたらええ。ウチが頑張ったからとか、皆が頑張ってるからなんかやない。自分の意思で頑張るんや。それが可愛い後輩ってもんやで」と助言する。

 

「……それに、一年にそういう事されるなんて、なんか申し訳ないし、先輩の面目も丸潰れやろ?」

 

 園城寺怜が続けてそういうと、隣にいた船久保浩子が真顔で「去年の小瀬川さんと一緒に泊まった夜のこと、江口先輩から色々聞いてるんでその時点で園城寺先輩の威厳や面目なんて潰れまくってますから大丈夫ですよ」と呟くので、園城寺怜は「うるさい船Q。ウチのイケメンさんに対する愛を止める事ができなかっただけや」と指をさして黙らせる。

 

「まあ、そういうことや。伸び伸びと打ってこい。ウチはこれで最後やけど、泉にはこれを含めて三回もこの場所に来れるんやから」

 

 そう二条泉に言って園城寺怜と船久保浩子は控室の方向へと戻っていく。そしてその道中で園城寺怜が思い出したかのように「……船Q。戻るついでに観客席行かへん?」と提案する。が、船久保浩子からその提案は「……それ、小瀬川さんに会いに行きたいだけですよね」と言われて却下されてしまった。園城寺怜は少し不服そうな表情であったが、船久保浩子がこう付け足して宥めた。

 

「それに、何も小瀬川さんだけ観客席に居るっていうわけでもあらへんでしょう。他の部員とかもいることでしょうし……」

 

「まあ、そうやなあ……仕方あらへん。こんまま戻るか」

 

 

 


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