宮守の神域   作:銀一色

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第383話 二回戦A編 ㉖ 勿体無い

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視点:神の視点

次鋒戦終了時

千里山 157100

阿知賀  91300

劔谷   73000

越谷   78600

 

 

 

『後は……私らが取り返せばいいだけだ……!』

 

 

(なーんてカッコつけて言っちゃったけど……相手は去年のインターハイでエースを務めてた江口セーラ……ノせたら一番危ない相手……)

 

 新子憧はつい先程控室で自分が言った言葉を思い出しながら、心の中で若干後悔、というよりかは心配に近い心理状態になっていた。『あまり取り返すことができなかった』という松実宥を含めた皆を鼓舞するために放った言葉ではあったのだが、相手があの江口セーラだと考えるとそう易々と取り返すなどと言っていられない状況である。その理由は言わずもがな、新子憧と江口セーラには圧倒的な力量差が存在する。かたや無名校の一年生、ルーキー中のルーキーに対し、相手は千里山三年三本柱の一人。肩書きだけで見てもその差は歴然であった。

 

(……って何考えてるんだ私。後ろ向きになっちゃダメでしょうが)

 

 しかし、そこまで考えたところで新子憧は頰をパンと両手で叩き、思考を中断させる。確かに格上が相手なのは間違いないが、だからといって悲観しているようでは更に自分を追い込むのと同義である。これでは闘える勝負もまともに闘えはしない。思考の悪循環に陥る前になんとか我に返った新子憧は、気持ちリセットして対局室に入る。するとそこにはもう既に劔谷高校の古塚梢と越谷女子の水村史織の二人が雀卓の周りにおり、これで千里山の江口セーラ以外が集まったこととなる。しかし、いくら江口セーラが圧倒的強者とは言え、新子憧の目の前にいる二人もまた敵である事には変わりはなく、そこに馴れ合いのようなものは存在しない。そんな事を思っていた新子憧は取り敢えず礼儀として軽く二人に向かって会釈すると、自分の上を何者かが飛び越えた。

 

(っ……!?)

 

「……っっとと」

 

 新子憧の上を飛び越えた者……正確に言えば江口セーラは着地を試みるが、勢いを殺す事が出来ずに危なくステージから滑り落ちかける。が、ギリギリのところでブレーキをかける事ができたようで、なんとか踏ん張る事が出来ていた。新子憧はそんな江口セーラを見ながら(シズみたいなバカ体力……っていうか何m飛んだのよ。私を飛び越えなかった……?)と内心呆れていると、危ない危ないと呟いていた江口セーラが「場決め、終わっとる?」と聞いてきた。新子憧も今さっき来たところであり、まだ場決めの牌を開いてはいなかったのだが、「どうぞ」と言って江口セーラに先を譲る。

 

「んじゃ、お先」

 

 江口セーラが引くと、新子憧も一応ながら牌を返して場所を確認すると、全員の場決めが終了し、江口セーラと新子憧も席に着く。そうして周りの明かりが消えるまで、江口セーラは他の三人をチラと見ると、他の三人に対して期待を滲ませながらこう呟いた。

 

(この感じ。実に一年ぶりやな……一年ぶりのインターハイ。思う存分に楽しませてもらうで……)

 

 

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視点:神の視点

東一局 親:越谷 ドラ{東}

越谷   78600

劔谷   73000

千里山 157100

阿知賀  91300

 

 

 

 

「ポン!」

 

阿知賀:四巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {四横四四}

打{9}

 

 

 

「チー!」

 

阿知賀:五巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏} {横③②④} {四横四四}

打{2}

 

 

 

(おーおー……牌譜で見た通り、ちょこまかとしたのが好きやなあ……)

 

 東一局。まずは先手を取ろうとした新子憧が早速二副露をしかける。江口セーラはそれを見て内心ニヤリと笑うが、表には出さずに、淡々と牌を切っていく。

 実際、今の和了もそうだが全体を通して新子憧の武器とも言える副露には光るものがある。松実姉妹のせいで埋もれてしまってはいるが、阿知賀の中で一番技術が上なのは新子憧であろう。副露センスだけで見ても、全体の技量で見ても彼女の麻雀というものにはどこか風を感じる。そう言った麻雀であるという事は江口セーラも賞賛してはいた。

 

 

 

「ロン、断么赤三で7700!」

 

新子憧:和了形

{⑤赤⑤赤⑤⑥4赤56} {横③②④} {四横四四}

劔谷

打{⑥}

 

 結局東一局は副露によって加速を得た新子憧が劔谷高校から7700の直撃を奪う形で終了した。新子憧は和了った後に、再び自分の手牌に目線を戻すと(今の手牌……玄みたいにドラがやけに多かったな……)と心の中で感嘆するが、江口セーラはそれを一蹴した。

 

(新子……って言ったか。勿体無いなあ……勿体無いねん)

 

 江口セーラも新子憧の副露センスは上記の通り認めてはいる。しかし、それでも尚勿体無いと今の和了を評価した。

 

(赤ドラをそんだけ抱えてんのに、7700(チッチー)で終わらせてどないするねん……)

 

 新子憧はどうとも思ってはいなかったが、江口セーラは赤ドラ三つという点に着目していた。確かにあの手牌から見れば、門前でリーチをかければツモり跳満。裏が二つ乗れば倍満にだってなったかもしれない。そんな大きな勝負手をたった7700程度で終わらせてしまう事に対して心の中で苦言を呈する。別に鳴く事自体を批判しているわけではない。たとえ先手を取ろうとしていたとしても、新子憧が鳴きを武器にしていたとしても、あそこで鳴かなければ和了れなかったとしても、倍満にもなり得た大物手を逃したという結果は変わらない。ただその事実だけが新子憧を取り巻く事となるだけだ。

 江口セーラは深呼吸をしながら牌山を崩す。そして新子憧の事を見ながら、心の中でこう宣戦布告した。

 

(……まあ、ええわ。柔と剛の勝負、ええやん。受けて立ったるよ)

 

 

 

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