宮守の神域   作:銀一色

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第390話 二回戦A編 ㉝ 安直

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視点:神の視点

南四局 親:劔谷 ドラ{①}

越谷   33600

千里山 199300

阿知賀  98100

劔谷   69000

 

 

 

 二回戦Aブロック第二試合も終盤の終盤、後半戦南四局、オーラスに差し掛かっていた。現状の順位に変更はなく、トップの千里山が圧倒的収支で一位を独走しており、一方の二位争いはオーラスまでの時点では阿知賀が優位な位置ではあったが、このオーラス、親番が阿知賀と二位を争う劔谷であることと、点差が29100点と、親ッパネ以上の直撃が可能であることから、優位とは言っても絶対的なものではなかった。むしろ、その点差のおかげで激化していると言っても過言ではないだろう。

 何しろ、親が劔谷であるが故に、劔谷側からしてみれば一度で決めれなくとも、和了り続ける限り連荘で何度でもチャンスがあるのだ。阻止する側の阿知賀からしてみれば、これ以上厄介な状況は無い。もし、一度和了らせてしまったら、場の空気は一変して劔谷寄りになってしまうであろう。そうなってしまえば山の支配もへったくれもない。そう言った意味では、この南四局ゼロ本場こそが、自信の、阿知賀の運命の岐路であるという事を、高鴨穏乃は感覚的に察知していた。

 

 

(ここで、止める……!)

 

阿知賀:八巡目

{二二九九⑦⑧57799東東}

ツモ{5}

 

 

 何としてでも劔谷の事を止めたい高鴨穏乃は八巡目、{5}をツモって七対子を聴牌する。待ちの候補である{⑦}と{⑧}だが、{⑦}は場に二枚、{⑧}は場に一枚見えてある。当然、高鴨穏乃は場に一枚しか見えていない、{⑦}に比べればまだ山に残っている可能性が高い{⑧}を残して聴牌。できる事は尽くした。あと高鴨穏乃が出来ることがあると言えば、劔谷が和了らずにこのまま局が終わってくれることを願うだけである。

 そう、それしかできないはずなのであったが、十一巡目、清水谷竜華がドラである{①}を切った直後に高鴨穏乃が引いたのは同じ{①}。ドラという危険物ではではあるが直前に清水谷竜華が{①}を切っている何ら害は無い。場には清水谷竜華の切ったものも合わせて二枚見え、これが三枚目の{①}であった。しかし、高鴨穏乃はこの{①}を見た瞬間、頭の中に何かが下りてきたような感触を感じた。それは天啓か閃きか、高鴨穏乃はこの{①}を手牌に入れると、{⑧}を河へと叩きつけた。なんと、この状況でドラ単騎という暴挙に出たのだ。

 

(阿知賀、待ちを変えたんか……)

 

 清水谷竜華はそれを見て阿知賀が待ちを変えたのだと即座に反応する。突然の待ちの変更に疑問を持っていた清水谷竜華ではあったが、その一方で高鴨穏乃は既に勝利を確信していた、そのような自信溢れる表情で劔谷高校の方を見ていたのである。それを見た清水谷竜華は阿知賀の待ちに俄然興味が湧いていた。

 

(おもろいことやっとるなあ……阿知賀)

 

(ここで劔谷が切る。確実に切る……!)

 

 そして勝ちを確信しているかのような表情を浮かべていた高鴨穏乃は心の中でそう呟く。そう、高鴨穏乃の無謀にも見えたドラ単騎は、劔谷から直撃を取って和了ろうとしていたからであった。

 どういうことかといえば、全てのカギは直前の清水谷竜華の{①}切りであった。あの清水谷竜華の打牌で{①}が地獄待ちになっただけではなく、その瞬間劔谷にとっての一番の安牌となったのであった。当然、劔谷側からも阿知賀が待ちを変更したこと自体には勘付いてはいる。が、直前で切った{①}を、ドラで尚且つ地獄待ちとなっている{①}を、出和了りが99%望めない{①}を、わざわざ待ちを変えてまで狙っているわけがないだろう。そう思考が進んでしまった。安直に、簡単に。絶対に振ってはいけないという緊張感と、ここでわざわざ危険を侵さずとも大丈夫であるという状況の良さのせいで、安福莉子の思考が動き、{①}を切っても多分大丈夫だろう、問題なかろうという思考に辿り着いてしまったのである。高鴨穏乃は、それを狙っていたのだ。不確実なツモを待つよりも、確実な{①}で刺すのを、奇策の勝負を選んだのであった。

 そうして、勝負を避けた安福莉子が{①}を切る。高鴨穏乃はそれを真っ直ぐに見据えながら、声高らかに宣言した。

 

 

 

「ロン!6400!」

 

 

 その瞬間、阿知賀と千里山の準決勝進出が決まったのであった。

 

 

 

 

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「ん、怜……」

 

 

 大将戦が終わり、一位で準決勝進出を果たした清水谷竜華が対局室から出ると、そこには園城寺怜が立っていた。園城寺怜は「竜華、おつかれ」と言って清水谷竜華に抱きつく。

 

「わざわざ来んでもええのに……」

 

「ええんや。ウチが来たかったんやから」

 

 そう言って園城寺怜が清水谷竜華の身体から離れると、右手を顎に添えて「む……竜華、また胸大きくなった?」と尋ねる。それを聞いた清水谷竜華は顔を真っ赤にしながら「何言うとんの!?」と声を上げる。

 

「ふふふ。まあええわ、ほな、皆のとこ戻るで」

 

「全く……」

 

「……阿知賀の最後の、中々おもろい和了やったな」

 

「せやな……準決勝ではそんな悠長なこと言ってられへんけど」

 

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 一方で、同じく準決勝進出を決めた阿知賀の面々はホテルに戻ってベスト8入りに対して歓喜の声を上げていたが、こと赤土晴絵に限っては少しばかり表情は暗かった。

 

(今日の闘い……格上が千里山だけだったから良かったものの……あと一校格上がいたら恐らく負けていた……)

 

 そう、確かにあの千里山を相手にして二位通過と言えば聞こえは良いものの、実際は約9万点離されての二位通過であり、千里山以外にも格上がいたらもっと厳しい闘いを強いられていたであろう。

 何しろ、次の準決勝の相手は千里山に加えて新道寺、そして白糸台である。これらを相手にして二位以上というのは、言葉を柔らかくすれば至難の業であるが、ハッキリといえばほぼ不可能である。赤土晴絵の過去の悔しい思いも準決勝であったことから、暗い表情になるのは当然のことであろう。

 

「……あんたたち、浮かれるのもいいけど、それじゃあ準決勝がキツいよ」

 

 祝福ムードの阿知賀のメンバーに対して赤土晴絵がそう口を挟む。赤土晴絵のいつになく真剣な表情にメンバーは息を呑みながら赤土晴絵の話を聞く。

 

「今日闘った千里山に9万点差……準決勝はその千里山に加えて、北九州最強の新道寺に、王者白糸台……どれも実力はあんた達より一回りどころか、別次元の強さよ」

 

「はっきり言って、私らの勝ちを真面目に予想する人たちなんてまずいないでしょうね。それほど、実力差があるってこと」

 

 厳しい言葉を投げかけた赤土晴絵は若干ピリピリしながらも、荷物を持って「じゃあ、私は監督会議に出て、そのまま外で食べてくるから。今日はゆっくり休んで」と言い残し、その場から去って行った。

 

 

 


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