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視点:神の視点
「……そろそろ、始まるな」
「うん……そうだね……」
インターハイ会場の観戦室でBブロック二回戦第一試合が始まるのを待っていた弘世菫が隣に座る宮永照に向かってそう言うと、宮永照はそう返す。王者である白糸台のレギュラーメンバー全員が揃って観戦するこの試合では、西の強豪姫松、シード校の永水、ダークホースの清澄と、いずれも注目を集める高校が並んでいた。もちろん、それら三校も十分見る価値はある。しかし、彼女達の一番の目当ては何を隠そう宮守女子であった。
世間的には同じダークホースの清澄程度しか注目はされてはいなかった宮守女子ではあるが、小瀬川白望の存在を知る者、もしくは彼女の麻雀を古くから知っている者達の間ではこのインターハイが始まるよりももっと前、地区大会が終わった頃から熱い視線が注がれていた。その注目度は、白糸台だけではなく臨海や千里山など、他の強豪高校も一堂に会して今から始まる試合を待ち望んでいるこの状況を見ても分かるだろう。
「今から始まる試合って、ミヤモリが出るの?」
「ああ、そうだ。……っていうか。宮守を見るために来たんだろうが」
大星淡からの的外れな問いかけに呆れながらも弘世菫がそう答えていると、宮永照は真剣そうな表情を浮かべながら牌譜を眺めていた。
「宮永先輩、それ……」
「うん、先鋒の人たちの牌譜。菫が整理してくれたから、尭深と誠子の分もあるよ」
そう言って宮永照はすっと整理された牌譜を渋谷尭深と亦野誠子に手渡すと、それを見ていた大星淡は「テルー、私のはある?」と尋ねると、宮永照はキッパリと「ない」と答えた。
「え、なにそれ!」
「お前には牌譜を渡すより、実際目で見てもらった方が早いと思ってな。ちゃんと目に焼き付けておけよ。
弘世菫が大星淡にそう告げると、大星淡は若干不服そうな表情で「はーい……」と言ってモニターの方を見つめた。
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「トヨネ、ガンバッテ!」
「うんー。ちょー頑張ってきちゃうよー!」
一方で、控室で待機していた宮守女子のメンバーは、これから先鋒戦に出場する姉帯豊音の事を鼓舞し、送り出そうとしていた。臼沢塞や鹿倉胡桃、エイスリンが姉帯豊音の周りに集まって声を掛けている中、小瀬川白望は椅子にもたれ掛かりながら姉帯豊音の名前を呼んだ。
「豊音」
「なにー?シロー?」
「……さっき言ってた事、覚えてる?」
小瀬川白望がそう聞くと、姉帯豊音はニヤリと笑みを浮かべて「もちろんだよー」と返す。それを聞いた小瀬川白望は「それなら大丈夫。……頑張ってね」と姉帯豊音に言った。
「うん、分かったよー!」
姉帯豊音がそう意気込んで控室を後にすると、先程の話を聞いていた鹿倉胡桃が「さっき言ってた事って、どんな事?」と小瀬川白望に質問する。小瀬川白望は「だ……」とまで言いかけ、そこで言葉を止めると、「……見れば分かるよ」と答えることを放棄した。
「見れば分かるって……答えるのが面倒だっただけでしょ!?『だるい』って言いかけてたし!」
「まあまあ……いつも通りのシロだし、許してあげようよ」
そう言って鹿倉胡桃の事を臼沢塞が宥めると、小瀬川白望は目の前のテーブルに倒れ込むと「……ダルい」と言って顔を埋める。それを見て、鹿倉胡桃は「全く……」と言って呆れた様子で小瀬川白望の事を見ていた。
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『いい?宮守と永水、この二校を重点的に気を付けなさいよ』
(宮守と永水……牌譜で見たけどどっちもバケモノみたいな牌譜だったじぇ)
同じく先鋒戦に出場するため控室を後にしていた片岡優希は、部長である竹井久から言われた事と、牌譜で見た成績を頭の中で思い出す。いずれも、東風に強い片岡優希を黙らせるほどの恐ろしい成績であり、宮守の姉帯豊音に至っては、あれほど圧巻的な麻雀をした上でも個人戦地区予選では小瀬川白望にボロ負けしているという、知れば知るほど井の中の蛙である事を痛感させられていた。
たしかに、そう考えればこの試合で一番レベルが低いのは清澄と言われても仕方のない事なのかもしれない。だが、相手がどれだけ格上だとしても、彼女にも譲れないものは存在しているのだ。
そうしたジャイアントキリング精神で片岡優希はゆっくりと対局室に入る。すると既に中には姉帯豊音、上重漫、神代小蒔ら三人がいた。
(あれが清澄の東風ブースターの片岡か……思ったよりかなりちっちゃいな。姉帯と比較したら凄い事になりそうや……)
そして入ってきた片岡優希を見て、上重漫はそう呟く。事前に末原恭子から伝えられてきた情報と外見は一致しなかったが、もはや外見など関係無いのは自明の理であろう。何と言ってもあの気怠そうな態度を取っている小瀬川白望という、見掛けに騙されてはいけないという典型例があるのだから。
(片岡さんだー、後でサイ……いや、それは今考える事じゃ無いねー。今は集中しなきゃ……)
一方で姉帯豊音は片岡優希に対してサインを貰おうかどうか考えていたが、すぐに雑念を取り払う。先程も神代小蒔を前にしてサインを貰おうと考えていた……考えていたどころか詰め寄りかけていため、事あるごとに流されてしまう自分の心に問いかけるようにしてそう戒めた。