宮守の神域   作:銀一色

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第397話 二回戦B編 ⑥ 先んずれば則ち負け

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視点:神の視点

東四局 親:永水 ドラ{二}

清澄 119400

宮守 112900

姫松  88500

永水  79200

 

 

 前局、待望の親番を姉帯豊音の仏滅による緊急回避によってあっさりと蹴られてしまった上重漫は、自分が後もう少しで爆発する事に気付いていながらも、それを前局でどうにかできなかった自分に対してもどかしさやら腹立たしさやら、呵責を感じながら、配牌を山から取る。

 

(……このまま永水が大人しいままとは思えへん。ただでさえ上二校とは2、3万点離されとる。ここで何とかせんと……)

 

 どうにか一回。一回で爆発には十分な刺激であるということを今までの経験から察してた上重漫はどうにかしてでも一回和了る事に躍起になっていたが、前傾姿勢の上重漫を跳ね除けるのは姉帯豊音にとってはあまり難しい事ではなかった。姉帯豊音はそんな上重漫をチラチラと見ながら、(……上重さんがそろそろ突っ走ってきそうだしー……先負、行っちゃうよー?)と顔を伏せてニヤリと笑っていた。

 

 

 

 

姫松:六巡目

{二二七八⑥⑧⑧⑧79999}

ツモ{九}

 

(聴牌……せやけどこれじゃ打点が低い……)

 

 そして今、敵味方問わずこの二回戦Bブロック第一試合の試合を見ている皆から視線を集めている渦中の人物である上重漫は六巡目にて聴牌する。いくら前局で親を易々と流されたと言っても、そのようなもので消えるほど弱い炎ではない。今もなお点火し続け、導火線の終着点へと向かって燃焼し続けているのだ。

 とは言っても、今この状況では打点が低いのも事実。ドラを対子で抱えているとはいえ、リーチをかけなければどんなに高くてもツモドラ2。ロン和了すらできないのだ。点差が開き始めているこの状況で悠長に安手で和了るのはあまり賢明な判断とは言い難いだろう。上重漫はチラと片岡優希の方を見る。東風といえば片岡優希、片岡優希といえば東風。そう言われてもおかしくないほど東風に強い彼女が、まさか東風最終局の東四局で上重漫に先を越されるなどというわけはないだろう。

 

(……ダマか。 あんまし捨て牌はアテになりそうにないけど……行くしか無いやろ……!)

 

 一瞬、片岡優希への振り込みという可能性も脳裏に浮かんだ上重漫ではあるが、退くという選択肢は彼女には無かった。片岡優希のことだ。いくらダマとはいえ、それでも高い手なのは目に見えている。が、ここで攻めなければいつ攻めるのか。そう言い聞かせながら、上重漫は意を決してリー棒を置いて牌を曲げる。

 

 

 

「リーチやっ!」

 

姫松:捨て牌

{1東白4南②横⑥}

 

 

 そうして片岡優希に食って掛かるようにリーチを繰り出した上重漫だが、その瞬間、彼女は異様な光景を見る。

 

(な……なんや……姉帯のやつ……?)

 

 彼女が目にしたのは横にいる姉帯豊音。今は平然としてはいるが、上重漫がリーチをかけたその一瞬、一瞬ではあるが彼女が怪しい笑みを浮かべた。そのように見えた。それが真実なのか見間違いなのかは分からなかったが、もはやその真偽に上重漫は興味など無かった。それ以上に、底知れぬ何かに触れたような気がして、彼女の心は恐怖に煽られた。

 

 

(な、なんなんや……何があるっちゅうんや!?)

 

 上重漫は若干疑心暗鬼になりながらも、永水の神代小蒔が山から牌をツモっていくのを呆然と見つめながら頭の中で思考を巡らせる。何がそんなにおかしかったのか。自分が何かミスでもしたのか、それとも姉帯豊音が何か企んでいるのか。考えれば考えるほど先ほどの笑みの謎が際立ってくる。何があるのかは分からないが、とにかく『何か』あるのは間違いないだろう。そう思って姉帯豊音のツモ番を迎えると、姉帯豊音はツモった牌を盲牌すると、まるで上重漫に語りかけるかのようにこう呟いた。

 

「んー」

 

「追っかけるけどー」

 

 

(は……?追っかける……追っかけリーチか!?)

 

 

 姉帯豊音の言葉から追っかけリーチを想像する上重漫。だが、そうと分かった今でも未だ謎は深まるばかりである。まず第一に、追っかけリーチだからなんだと言うのだ。追っかけリーチは脅威ではあるが、リーチをかけている上重漫には何の影響もない。ただどちらが先に和了るかを競うのみである。プレッシャーにはなりはしない。

 しかも、今姉帯豊音が切ろうとしているのは先ほど彼女がツモった牌である。ということは、姉帯豊音は先ほどまで聴牌していたということだ。何故。何故彼女はわざわざ一巡、もしくはそれ以上リーチを遅らせたのか。まるで、上重漫がリーチをかけるのを待っていたかのように。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(追っかけリーチ……まさか姉帯……!)

 

 

 そこまで気付いて、上重漫は確信する。間違いない。彼女が末原恭子が収集していた牌譜をチラと目を通した時、確かにこのようなシュチュエーションが存在していた。姉帯豊音の麻雀には一貫性がなく、何か一つだけ能力を持っているという可能性はない。素の状態であれほど強いのか、それとも能力を複数所持しているのかは分からない。それに、それ以上に特異的な場面があったためあまり記憶は定かではないが、そういった場面は確かに存在していた。そして、それの結末はズバリーー

 

 

(一発で……ウチが振り込む……!)

 

 

 だが、気付いた時にはもう遅い。上重漫が自分の結末を悟ったのと同時に、姉帯豊音は「通らばー……リーチ!」と言ってツモってきた牌を曲げ、リー棒を出す。それを驚愕しながら見つめていた上重漫は、ハッとして山に目を向ける。そう、次のツモは自分。ということは、次の牌が、自分がツモる牌が姉帯豊音の和了牌。

 上重漫はそこまで考えて、山からツモってくるのを躊躇った。当然だ。自分が振り込むのを分かって、納得してツモりにいけるわけがない。しかし、冷たい視線で見つめる姉帯豊音に圧されるかのようにして結局はツモってしまう。当然ながら自分の和了牌ではない。上重漫がまさかと思いながら牌を河に置くと、姉帯豊音はそれを待っていたかのように、上重漫が捨てた牌を見ずに「ロン!」と言って手牌を晒す。

 

宮守:和了形

{三四五五六七①②③⑥⑥34}

姫松

打{5}

 

「リーチ一発平和!3900だよー」

 

 

「は、はい……」

 

 

(ホンマやった……ってなると、やっぱこれが姉帯豊音の能力の一つか……!?)

 

 上重漫は点棒を姉帯豊音に渡しながら、姉帯豊音の能力について考える。恐らく、偶然ではないだろう。何らかの能力であることには間違いない。しかし、それで解決というわけではなく、問題は更に増える事となる。他に姉帯豊音は何か能力を持っているのか。という事だ。

 前述した通り、姉帯豊音には決まったパターンや傾向はあまり多く見られない。無能力者なら珍しい話でもないが、確実に姉帯豊音は能力者だ。それに加え今の特徴的な能力があるのに牌譜に少ししか載っていないとなると、やはり多重能力者であると考えるのが自然であろう。つまり、姉帯豊音はまだ隠しているのだ。全ての能力を。

 

 

 

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「!振り込んだ!?」

 

 時同じくして姫松の控え室でも、上重漫がツモ切り追っかけリーチの姉帯豊音に一発で振り込んだシーンを見て、末原恭子が思わず立ち上がる。隣にいた愛宕洋榎が「あれま……先んずれば人を制すって言うけど、そんな事なかったなあ……」と呟きながら、上重漫を同情するように見つめる。

 

「……確か、今のと同じような和了が牌譜にあったような気がするのよー?」

 

「ホンマか?」

 

「って言ってもそんなに回数は多くなかったと思うけどー……」

 

 

「いや……ちょい待ち。主将、さっき何て言いました?」

 

 愛宕洋榎と真瀬由子が姉帯豊音の牌譜について話していると、途中に割ってはいるように末原恭子が愛宕洋榎に向かって聞く。愛宕洋榎は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら「さっきか?いや……『先んずれば人を制すって言うけど、そんな事なかったなあ』って……」と答える。

 

「……代行。先んずれば人を制す、と似たような言葉で、先んずれば則ち負けって言葉ありますよね?」

 

「ん?ああ……確かに先んずれば則ち負けって言葉はあるけど〜。それがどうかしたん〜?」

 

「確か、『六曜』の中の『先負』の意味でしたよね?」

 

「せやで〜」

 

 そこまで聞いて、末原恭子は確信に至る。話についていけていない真瀬由子と愛宕絹恵は末原恭子に解説を求めるが、愛宕洋榎も気付いたようで「成る程な……確かにそれなら辻褄が合うわ」と頷く。

 

「どう言う事ですか?」

 

 

「簡単に言うとな……多分、姉帯の能力は『六曜』に対応しとんねん」

 

 

「六曜ってあの、カレンダーとかにある?」

 

 

「ああ……今は無いカレンダーもあるけどな。まあ、その話はええねん。姉帯の能力が六曜だとすれば、全て辻褄が合うねん」

 

 

「全部〜?」

 

 

「ええ……局の最初、姉帯が片岡に追いつくレベルでスピードに長けていたのは恐らく『先勝』。意味は先んずれば則ち勝つ、です。そんでさっきの局、片岡や爆発寸前の漫の両者が聴牌できなかったのは恐らく赤口か仏滅のどっちかでしょう。どっちも凶日なんで。そして今のが……」

 

「先負……先んずれば則ち負け、か」

 

 愛宕洋榎がそう言うと、末原恭子が「そうや……ま、たまたま合ってるだけってのも勿論あるけど、多分これで間違いは無いはずや」と言う。能力は分かった。そしてその次は、姉帯豊音が未だ隠している六曜の能力の詳細である。単語から想像というのは少し厳しいものがあるが、どうにかして解き明かさないといけない。

 

「流石、シロちゃんが先鋒に置くだけの事はあるな……」

 

「ええ、ホンマ偶然に気付いたから良いようなものの、運が悪ければ気付かずに先鋒戦が終わってたで……」

 

 

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