去年は後半に休載が多かったので、できるだけペースを保っていきたいと思っています(願望)
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視点:神の視点
次鋒戦終了時
清澄 110200
永水 79700
姫松 90300
宮守 119800
「……帰ったわい」
「染谷先輩……」
次鋒戦が終わり、染谷まこが戻ってきた清澄の控え室の空気は重い。前々から一番注意を払っていたエイスリンに対してあそこまで暴虐の限りを尽くされた染谷まこだけでなく、その光景をモニターから観戦していた清澄メンバーも、画面越しからそれがどれほど残虐なのかを痛いほど感じ、まるで自分が地獄を見ているかのような錯覚を受けていた。
宮永咲はおどおどしく染谷まこの名前を呼ぶが、当の本人には聞こえているのか、聞こえていないのか、虚ろな目で「あ、ああ……」とだけ返した。その生気の無い返事を聞いた宮永咲は絶句する。ここまで人が絶望し、こんな事になるなど、宮永咲は自身の生涯で一度も見たことがなかった。通常の人間ならそれが普通なのであろうが、今やそんな事も言っていられる状況では無い。現に今目の前の、しかも頼りある一個上の先輩がまさに絶望を叩きつけられているのだ。
(……怖い)
そこまで考えて、宮永咲は腕を震わせる。次、ああなってしまうのは自分なのだろうか。そう思うと、足がすくんでしまってそれ以上は何も言葉が出なかった。絶望して傷心の染谷まこを励ますことも、これから戦場へ赴く竹井久に激励の言葉を言うことも、今の彼女の心理状態ではとてもできそうになかった。同じく原村和と片岡優希も、宮永咲ほどでは無いが、言葉を失って何も言えぬ状態であった。
「……行ってくるわね」
「ぶ、部長……大丈夫……ですよね?」
控室を後にしようとする竹井久に須賀京太郎が心配そうにそう言葉をかけると、竹井久は皆の方を振り返って笑顔で「何言ってんのよ……大丈夫に決まってるわよ!」と笑顔で返す。須賀京太郎はその笑顔と声が痩せ我慢であり、本当は恐怖で逃げ出したいほどの精神状態であるということに気付いてはいたが、その事には何も触れずに、そのまま竹井久の事を送り出した。
しかし痩せ我慢ながらも、竹井久の言葉によって須賀京太郎を含めた清澄メンバーは少なからず救われたようで、重苦しい空気だった控室も幾分かは活気が戻り、原村和が「そうですね……部長を信じましょう」と言い、極限にまで削がれていた士気を強引にあげようとしていた。
(はあ、はあ……思ったよりも……しんどいわね……)
一方の竹井久はと言うと、控室のドアに背を向けながら深呼吸をしながら、心の平静を取り戻そうと自らの胸に手を当てる。つい先ほどまで恐怖という重圧に今にも押し潰されそうな心境であり、実際は今もそれが続いているのだが、時間はそれを待ってはくれない。それを承知しているために竹井久は強引に気を紛らわせ、どうにかして勝負のできる心構えにしようとする。
(……ダメね。皆の前ではあんな事言ったのに、言動がまるで一致してない……部長として情けないわ……)
自分を情けなく思って若干遣る瀬無さを感じたが、自分の頬を手の平で叩いて再度気持ちをリセットする。こんな状態では闘えるものも闘えない。相手にはあの愛宕洋榎がいる。同年代に小瀬川白望やチャンピオンなどがいるから相対的に見られてしまうが、本来ならその時代を一人で一変させる事ができるほどの逸材、化け物なのだ。それを相手するのに、迷いは一切抱えてはならない。そういう化け物相手に迷いは死に直結し得る毒物なのだ。その事を彼女は六年前に肌で感じてきた。
(……よし)
そうして決心がついた竹井久はゆっくりと足を動かす。もう何も迷わない。何も恐れない。彼女に気の迷いや焦りは一切見られなかった。前に愛宕洋榎が評していた『木偶』ではない、『挑戦者』として対局室へ向かって行った。
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「そんじゃまあ、ちょいと行ってくるわ」
その同時刻、愛宕洋榎はそう言って控室を後にしようと廊下に出て、そのまま対局室に向かおうとすると控室から飛び出すように出てきた末原恭子が「主将……いや、洋榎!」と叫ぶようにして名前を呼んだ。呼ばれた愛宕洋榎は振り返って返答する。
「なんや?恭子」
「……期待しとるで」
末原恭子は何から言おうか色々迷った上で、結局絞る事ができずに、思いの丈を一言で纏めて伝えると、愛宕洋榎はニヤリと笑って右手を挙げて「……当然やろ」とだけ呟くと、再び歩き始めた。
そして数十秒後、対局室の入り口の前までくると、なんの躊躇いも無く勢いよくドアを開けて入室する。そこには既に他の三人は揃っているようで、まず愛宕洋榎が目にしたのは手前側にいる鹿倉胡桃であった。
「おー……相変わらず変わってないなあ」
「その事に触れないで!私だって気にしてるんだから!」
久々の再会に仲睦まじそうな会話をしようと試みたものの、鹿倉胡桃にキッパリと拒絶された上に怒られた愛宕洋榎は若干シュンとして「そ……そやったか。すまんな」と返し、(そこも含めて、変わってないんやなあ……)と心の中で若干嬉しく思いながら鹿倉胡桃から視点を外す。
(……お)
次に彼女の目に入ったのは竹井久であった。彼女は以前、竹井久の事を『木偶』と評していたが、この時の彼女の評価はそれとは一変した。以前のような吹いたら倒れてしまうような軟弱な面構えではなく、はっきりとした勝利、勝負への意志を持った強靭な精神を見に纏っているのが、すぐに分かった。
(なんや……やろうと思えばできるやん、清澄……)
心の中で賞賛する愛宕洋榎ではあったが、それは表には出さずにしまい込む。そして残った永水の滝見春に目を向けると、(……たしか、戒能プロとなんか関係があったんやったっけ)と、どこかで聞いた話を頭の中に思い浮かべる。聞くところによると、その戒能良子も小瀬川白望と何らかの接点を持ち合わせているらしいという。愛宕洋榎は(……狭いなあ)と心の中で呟くと、席決めを彼女主催で始めた。
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「……中堅ってことは、愛宕が出るのか」
「愛宕さんと何かあったんですか?」
郝慧宇が意味ありげに呟く辻垣内智葉に向かってそう尋ねると、辻垣内智葉は「まあ、昨日……ちょっとな」と、昨夜自販機の前であった愛宕洋榎とのやりとりを思い出しながらそう呟く。が、辻垣内智葉はそれを言いたかったわけではない。
「それよりも、だ……この中堅、愛宕のお陰で面白いものが見れるかもしれないな」
「……ナゼです?」
メガン・ダヴァンが質問すると、辻垣内智葉は「……この二回戦がトビで終わる可能性があるのがここなんだよ」と衝撃の発言をする。その言葉に臨海女子の一同がざわつくが、すぐに「まあ、流石のあいつでも八万点残ってる永水をトバすのは厳しいだろうがな」と付け加える。
「そんなに愛宕さんは強い方なのですか?」
「……相性云々を抜きにして、私と五分五分程度と言えば分かるか?」
「ナルホド……それは恐ろしいデスね……考えたくもナイ……」
そう言って納得するメガン・ダヴァンだったが、辻垣内智葉に「他人事のように言うが、もし姫松が上がってきたら当たるのは私達だぞ?」と嗜める。それを聞いていた雀明華はモニターの向こう側を真剣な眼差しで見つめていたが、しばらくして辻垣内智葉に「……私達の敵ではあるのでしょうが……
「安心しろ。面識はあるが、
「そうですか……私怨を動機にしたくはないのですが、そこだけは聞いておきたかったので」
(一体なんの会話でしょうか。そしてなんでその不十分な言葉で会話が成立してるんでしょうか……)
二人の会話を聞きながら郝慧宇は疑問というか恐怖を感じていたが、隣のネリー・ヴィルサラーゼも何やら不穏な雰囲気でいるため、彼女の思いは口に出すことは無かった。
久々の3000文字です。というか執筆自体久々なのですが。