宮守の神域   作:銀一色

42 / 473
1回戦が終わってすぐのお話です。

追記
さっき気づきましたが、もう30話なんですね。逆に言うとやっと30話という大台に乗った感じですね。
これからも頑張っていきたいと思います。


第30話 全国大会第1回戦 ⑭ 対局後

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------------

視点:神の視点

全国大会第1回戦第6試合

小瀬川 71100

小走 12000

上埜 25900

白水 -8400

 

 

対局が終わり、会場にブザーが鳴る。が、それを聞いた4人はそこから動かなかった。各々が未ださっきの対局の余韻に浸っている。

 

先に口を開いたのは小走やえだった。

 

 

「…良い試合だった。」

 

 

そう言い、目の当たりを手で拭いながら、小走が対局室を後にしようとする。

 

「いいの?…対局が終わったら教えてあげるって言ったけど。」

 

小瀬川が背中を向ける小走に向かって言う。それは東1局に言ったことについてだった。

 

「…ニワカと一緒の類いにするな。それくらいもう理解した。」

 

小走は今も尚小瀬川に背を向ける。小瀬川の方からはよく見えなかったが、小走は涙を落としながら、小瀬川に向けて言い放つ。

 

「勝てよ。小瀬川…!」

 

そう言い放った小走は、自分のポケットからペンとメモ帳を取り出して何かを書いた後、そのページを破って、その破った切れ端を小瀬川が座る卓の前に投げる。

 

「いつでも呼ぶといい。この王者が相手になってやろう。」

 

そんな事を言った小走はゆっくりと対局室のドアを開けて、対局室から出て行った。

 

 

 

 

「…勝てなかった、か。」

 

次に卓を立ったのはオーラスで役満合戦をした白水だった。

彼女も目を潤ませていたが、決して涙は落とさずに対局室を後にした。

 

「優勝しろよ。小瀬川。お前なら成し遂げるはずばい…」

 

そう言い残して、ドアが閉まった。

 

 

「…」

 

 

 

「…」

 

これで残ったのは小瀬川と上埜の2人だけだった。2人は何も喋らず、かといって対局室から出ようと立つこともしなかったので、場には奇妙な沈黙が訪れた。

 

 

「…ねえ。小瀬川さん。」

 

その沈黙を破ったのは上埜だった。

 

「…何?」

 

小瀬川もそれに反応する。

 

「私が小瀬川さんに追いつく為に足りなかったものって何だと思う?」

 

上埜の質問に、小瀬川が暫し考えたものの、結論を出す。

 

「じゃあ…」

 

 

 

小瀬川がそう言って卓上にある山を崩し、適当に牌を5枚裏側にしたまま取り出し、上埜に問題を与える。

 

「この5枚の中から1枚選んでみて。選んだ牌は絶対に私に見せないように。」

 

そう言われた上埜は若干戸惑ったが、指示通り5枚の内適当な牌を1牌ツモる。

 

 

 

 

「…赤ドラの{5}。」

 

 

「!?」

 

不意に小瀬川が呟く。上埜が慌てて自分がツモってきた牌を見る。それは正しくさっき小瀬川が呟いた{赤5}。

 

「…何で分かったのかしら?」

 

上埜が信じられないような声色で小瀬川に問いかける。

その問いに小瀬川は別に特別な事でもないような口ぶりで、

 

「理由はない…ただそんな感じがしただけ。」

 

と答える。小瀬川はそれに加え

「直感とか…自分の勘って言った方が良いのかな…?私は…いや、私達はそれを頼りにして麻雀を打っている。…一見無謀だって思うでしょ?でも違う。違うんだよ。麻雀に正攻法なんて存在しない。どうしても不確定要素が混じってくるんだ。だから絶対なんてものは存在しない。…唯一。信じられるのは卓越した己の力のみ…」

 

「その力をどれだけ信じているか…そこだと思うよ。」

 

 

小瀬川が淡々と述べていく。その中に存在する、神域の理。その断片に触れた上埜は、言葉を失っていた。

 

「…じゃあ、私も帰るね。楽しかったよ。」

 

 

小瀬川が先ほど小走が投げたメモ帳の断片をポケットに入れて、席を立って出口へと歩こうとした時、不意に上埜に手を掴まれて

 

「…あ、あなたのメールアドレスとか、で、電話番号とか教えて…!」

 

と小瀬川に頼んだ。小瀬川は呆気にとられていたが、

 

「いいよ。」

 

と返す。そしてメルアドなどを交換しようとしたその時、対局室のドアがバン!と開く音がした。

 

小瀬川と上埜がドアの方を振り向くと、そこには携帯電話を持って息を切らしている白水がそこにいた。

 

「ゼェ…ゼェ…!小瀬川…!メルアド交換しよう…!」

 

 

結局小瀬川は1回戦で打った人全員とメルアドを交換する事となった。

 

 

-------------------------------

廊下

 

 

「シローッ!」

 

対局室から出るや否や、胡桃が小瀬川にダイビングしながら抱きつこうとした。小瀬川はそれを体全体で受け止める。

 

それに続くように塞と智葉も小瀬川の元へと来た。

 

「お疲れ。シロ。」

 

 

「…うん。」

 

塞が我が子の活躍を喜ぶ親のような素振りで小瀬川を労う。小瀬川もそれに応え、胡桃と塞に体を預けるようにして倒れこむ。

 

(…くっ、これが幼馴染という力なのか?)

 

そしてその光景を恨めしい感じで眺めていた智葉も、小瀬川のすぐ側に寄って

 

「シロ。頑張ったな…」

 

と言い、智葉も小瀬川に抱きつく。その行動に腹を立てていた者がいたが、ここでは割愛する。

 

「…あとこれ。シロの大切なもの…お前の師匠だ。」

 

智葉が小瀬川が置いていった欠片。もとい赤木しげるをお守りに入れた状態のまま渡す。

 

「…あれ、いつの間に知ってたんだ。智葉。」

 

小瀬川がいつそんな情報を知ったのか智葉に問うと、智葉は

 

「少し聞いてたからな…」

 

と返す。すると小瀬川は

 

「…盗み聞きは良くない。一言声でもかけてくれば良かったのに。」

 

少しムッとしたように智葉に言う。

しかし智葉にはそんな怒りは伝わる事は無かった。それどころか

(少し怒っているシロ…アリだ!)

と、絶賛新たな道を開拓中の状態になっていた。

 

 

そんな脳内空間を旅している智葉を置いといて、小瀬川は手にある赤木がいるお守りを持って、赤木に話しかける。

 

「…1回戦。突破したよ。赤木さん。」

 

 

【ククク…案外苦戦してたじゃねえの…?】

 

赤木からは若干厳しめの評価を頂く。

 

「うん。結構ギリギリだった。」

 

それは小瀬川も重々承知していた。

赤木はその答えにクククと笑い、

 

【…なら、まだ俺には届かねえな。】

 

と小瀬川をわざと煽るように言った。

対する小瀬川はその煽りを冷静に返し、

 

「いつまでも最強のイスに座れると思わない事だね。」

と赤木に挑戦状を送りつける。赤木は今まで以上に笑って、

【やっぱりお前は面白いやつだ…】

と呟く。

 

 

会話を終えた小瀬川は、お守りを自分のポケットの中に入れて塞達を連れてホテルに戻る事にした。

 

(明日は対局がない日、か…ゆっくり寝てようかな。)

 

 

そう思ってホテルに帰る小瀬川であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




準決勝まで丸一日あるので、その日の事に数話使う予定です。
最近麻雀回が多かったから、多少はね?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。