宮守の神域   作:銀一色

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第415話 二回戦B編 ㉔ 黒糖

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視点:神の視点

中堅戦終了時

宮守 105800

清澄  96100

姫松 129700

永水  68400

 

 

 

(……終わったなあ)

 

 

 中堅戦が終わり、対局室が明るい光に照らされる。が、終わったというのにも関わらず、その場を立つものはいなかった。愛宕洋榎は心の中で物思いに耽りながら、ようやく自分がインターハイという晴れ舞台で闘っていたという実感が湧いていた。一回戦の時は自身がインハイで初めて役満を、それも一度小瀬川白望が自分の目の前で和了った清老頭を和了ることができたため、そっちの感動の方が強過ぎたため実感を感じる暇はなかったが、今回は終わった瞬間からその実感が湧いたのだった。

 これで愛宕洋榎もインターハイは三回目である。それ故にこういう実感をしたのも三回目ということになるのだが、回を重ねていくごとに鮮明に、濃密に感じていた。自分という存在が、大舞台も大舞台、インターハイという場所で、好敵手達と麻雀をしたということが、どこか途轍もなく凄い事に思え、先ほどまでどこか夢物語のような話が、終わった直後に一気に現実であったのだという感激によって打ち震えていた。

 

 

 

「……よしっ、ありがとうございました」

 

 

 

 そうしてどれくらい時間が経ったのかは確かではないが、多分そんなに時間が経ってない頃に、まず鹿倉胡桃が立ち上がってそう呟く。するとそれを皮切りに、先ほどまで黙ったまま前述した、インターハイで闘ったという実感、それから生まれてくる多幸感、満足感、陶酔感諸々を噛み締めていた愛宕洋榎が口を開く。

 

 

 

「なんや、もっとゆっくりしていかんのか?せっかくインハイっていう晴れ舞台に立てたんやで?もっとこう……なんていうんやろな……アレやアレ!」

 

 

 

「……雰囲気を味わっていけってこと?」

 

 

 

「そう!それそれ!それや!やっぱ華っていうんかなー、この感じ、できる事なら一生味わってたいわ!」

 

 

 

 愛宕洋榎が手を叩いてそう言うが、それを聞いた鹿倉胡桃は呆れ顔で内心(気持ち悪い……!)と呟くと、「私はもう十分味わったからいいの!……それに」と途中まで言いかけて、そこで止める。

 

 

 

「お?なんや?」

 

 

 

「……なんでもないっ!」

 

 

 

 何を言わんとしていたのかを問う愛宕洋榎の言葉を斬り捨てるように言った鹿倉胡桃は、さっさと対局室から出て行った。愛宕洋榎は鹿倉胡桃が最後に一体何が言いたかったのか分からず、何があったんだと言わんばかりにドアの方を眺めていた。

 そうして鹿倉胡桃が対局室から出てくると、対局室を背にしたままゆっくりとドアを閉める。そして大きなため息を一つ。

 

 

(『姫松にいいようにしてやられたからこの場に居たくなかった』なんて……そんな負けを認める発言、したくない!特にあの人(愛宕洋榎)の前では!)

 

 

 

 確かに、内容も収支でも前半戦後半戦共に圧倒されっぱなしであった。まさに『完敗』と評してもいいほどである。それは鹿倉胡桃も痛いほど分かっているのだ。だが、せめてその負けを喫した愛宕洋榎の前では、例え建前上だけだとしても、負けを認めるという屈辱だけは味わいたくはないというプライドが先ほど途中まで言いかけた言葉を止めたのだった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、私もそろそろ戻る。ありがとうございました……」

 

 

 

 そして戻って対局室では、鹿倉胡桃が出て行った数秒後に滝見春が何かが入った袋を持ちながら、出て行こうとする。しかしまたも愛宕洋榎はそれを止めるように「永水の、お前……確か一年なんやっけ」と尋ねる。

 

 

 

「……うん。正直、気まずかった」

 

 

 

「まあ……その気持ちは分かる。でも、ナイスファイトやったで。なあ?清澄」

 

 

 

 愛宕洋榎が竹井久に話を振ると、竹井久は驚きで少し声が詰まりながらも「えっ?あ、え、ええ……そうね。凄かったわよ」と滝見春に向かって言った。言われた側の滝見春は嬉しかったのか、少し笑みを浮かべていた。

 

 

 

「そういや、永水の"それ"、一体何や?」

 

 

 

「……これ?」

 

 

 

 滝見春が自身の持っていた袋を持ち上げると、愛宕洋榎は指差して「そうそう、それや」と言う。すると滝見春は少しほど考えた後、袋から一個何やら取り出して、愛宕洋榎に手渡してこう言う。

 

 

 

「……食べてみれば、分かる」

 

 

 

 そう言われた愛宕洋榎は、手のひらの上にある滝見春から貰った固形物をじっと眺めると、そのまま口に含んだ。

 

 

 

「あ、これ……黒糖やな?」

 

 

 

「正解……」

 

 

 

「にしても美味いなー……清澄も貰ったらどうや?」

 

 

 

「え……良いのかしら?」

 

 

 

 竹井久が滝見春に向かって言うと、滝見春はコクリと頷いて「うん……良いよ」と言って竹井久にも黒糖を手渡す。そして竹井久も黒糖を口にすると、思わず「あっ、美味しいわね……これ」と言葉に出す。竹井久と愛宕洋榎に黒糖を絶賛された滝見春は先ほど以上に嬉しかったのか、永水女子の一員も余程のことがない限り見たことのない笑顔を見せてこう言う。

 

 

「……それが自慢」

 

 

 

「……せや、もう一つ貰ってもええか?」

 

 

 

「?……良いけど」

 

 

 

 そして、愛宕洋榎が何かを思いついたようにして滝見春に頼み、滝見春が了承して黒糖を渡すと、愛宕洋榎はダッシュで対局室から出て行った。一体何をする気なのだ、そういった感じに竹井久と滝見春が愛宕洋榎の事を追いかけて行く。そして部屋から出て、曲がり角を曲がろうとすると、愛宕洋榎は既に遠くの方にいた。そんな彼女をダッシュで二人は追いかけていく。

 

 

 

「ハァ、ハァ……一体、何だって言うのよ……!」

 

 

 

(あれ、こっちって確か……)

 

 

 

 走っている最中、滝見春が何かに気付いたようだったが、何も口に出さずに黙って愛宕洋榎の事を追いかける。すると愛宕洋榎は突然スピードを緩めた。それを見て滝見春と竹井久は足を止めると、彼女たちは愛宕洋榎の数メートル先に鹿倉胡桃が歩いているのが見えた。

 

 

「あ、あれ……」

 

 

 竹井久が口に出そうとすると、愛宕洋榎が口元で指を立てて(シー!静かにしといてや)とジェスチャーする。そう要求された竹井久は思わずハッとして口に手を当てて黙る。すると愛宕洋榎は鹿倉胡桃の後ろから抱きつくように飛びついた。

 

 

 

「なんっ……って愛宕さん!?」

 

 

 

「さっき振りやな!ちっこいの!」

 

 

 

 飛びつかれた鹿倉胡桃は驚きつつも、「ち……『ちっこいの』って言うな!」と怒りを露わにする。愛宕洋榎は「ははは!すまんな。それより、コレ、いるか?」と、黒糖を差し出す。鹿倉胡桃は少し疑わしそうにそれを眺めていたが、愛宕洋榎は「……じゃあウチが食わせたる。ほら、口開けい」と言って強引に口に入れようとした。思わず抵抗した鹿倉胡桃であったが、無事(?)に鹿倉胡桃は黒糖を口に入れた。

 

 

 

「……どうや?」

 

 

 

「ん……んん……お……」

 

 

 

「お?」

 

 

 

「おい……しい……」

 

 

 

 少し悔しそうにそう感想を吐き出すと、愛宕洋榎は後ろにいた滝見春に向かって親指を立てて「これで宮守のもお墨が付いたで!良かったな!」と言う。

 

 

 

「っていうか清澄と永水、いたの!?」

 

 

 

「いたわよ」

 

 

 

「いた……」

 

 

 

 滝見春と竹井久がいたことを確認した鹿倉胡桃は、次に先ほどの突然の行動を咎めようと愛宕洋榎の方を向いたが、愛宕洋榎は鹿倉胡桃の頭を撫でて「ま、永水からの差し入れや。礼は永水に、な?」と言った。

 

 

 

「違っ……そうじゃなくて!」

 

 

 

「サンキューな。永水」

 

 

 

「いえ……こちらこそ」

 

 

 

 鹿倉胡桃の訴えを余所に、滝見春と愛宕洋榎は握手すると、今度は竹井久に向かって「清澄。後半戦からは良かったで。東二局、まんまとしてやられたわ」と言って手を差し出す。竹井久はふっと笑ってその手を握る。

 

 

「……あんたが一番やばかったわよ。全く」

 

 

 

「はは、それりゃあ嬉しいな……そんで、宮守の」

 

 

 

「さっきの聞いてた!?」

 

 

 

 鹿倉胡桃は大きな声でそう言うが、愛宕洋榎は鹿倉胡桃の目の前に手をそっと出した。最初は躊躇った鹿倉胡桃だったが、愛宕洋榎が何も言わずにいると、鹿倉胡桃は結局折れて、「あ、ありがと……ございます」と言って手を握った。

 

 

 

「なんや、かわええとこあるやんけ」

 

 

 

「うるさい……!」

 

 

 

「まあ、アンタら。良い勝負やったで。ほな、また」

 

 

 

 満足した様子の愛宕洋榎はそう言ってようやく控え室に戻っていく。竹井久は彼女の後ろ姿を見つめながら、まず最初に思ったことをポツリと口に出した。

 

 

「……変人、ねえ」

 

 

 

 

「おい、清澄!聞こえとるぞ!」

 

 

 

 

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