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視点:神の視点
東一局 親:宮守 ドラ{⑧}
宮守 105400
姫松 121200
永水 67200
清澄 106200
(……親番、ようやく私が自由に動ける親番が来た……!)
前半戦と後半戦のインターバル、休憩が終わり、改めて席順と起家を決める。肝心の永水は臼沢塞の目の前におり、幸い自身が親の時に永水は北家ではない。つまり、親番故に和了って終わらせることができなくなるというデメリットは存在せず、仮に役満を和了られても親被りの心配は無くなるというわけだ。
そして何より今度は、清澄が親番の時に永水が北家なのだ。いくら臼沢塞が『塞い』でくれるだろうとしても、役満の親被りを考えれば迂闊に鳴かせることはできない。下手をしたら自分が被害を
(私が動けない事を良いことに、滅茶苦茶な事してくれたわね……でも、この後半戦はそうは行かないわよ……後悔せしめてあげるわ……!)
そう思っていた臼沢塞であったが、その当人である原村和は、意外にもこの状況を確認しても然程動じはしなかった。むしろ、この席順の方が都合が良いといった風な表情で、薄墨初美と臼沢塞の事を見る。
(先ほどの様子から見て、普通に振る舞っていますけど、内心、結構無理してますね……手負いの状態……そう考えれば、私が親番の時に『裏鬼門』。一見親被りがあって危険……ですが、その可能性を加味してもそれ以上のお釣りを期待できます……!)
原村和はそう言い、再度臼沢塞の事を見つめる。どちらも互いに自分が優勢であるという事を信じて疑わない、そんな互いの確信と確信が真正面からぶつかり合い、一層熾烈となる事が予見される闘いだが、臼沢塞の方が若干不利にも見える。確かに原村和の言う通り、今の臼沢塞は手負いの状態であると言わざるを得ないからだ。
ただでさえ、ほぼ二局分という長さに加えて『裏鬼門』という強力な能力を塞がされ、気を緩ませれば倒れてしまうほどの疲労を蓄積させていたのだ。いくらインターバルを挟んだとはいえ、そんな短期間で失った体力は戻っては来ない。原村和からしてみれば“あと少し”の状態であるため、実質的には臼沢塞が不利であると言わざるを得ないのだ。
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「……ただいま」
「お帰り。……塞はどうだったかい?」
臼沢塞を見送り、控え室に戻ってきた小瀬川白望に熊倉トシが臼沢塞の容態について問いかけると、小瀬川白望は少し考えた後に、「……本人は『ラクショー』、って言ってた」と答える。
「そうかい……じゃあ、あんたから見て、塞をどう思った?」
「……かなり無理してるみたい。結構、しんどそうだった」
小瀬川白望がそう言うと、姉帯豊音とエイスリンが心配そうな表情で「だ、大丈夫なのー?」「サエ……ダイジョウブ?」と小瀬川白望に向かって聞く。すると小瀬川白望は椅子に座ってこう返した。
「……多分、塞は止まらない。体力の限界が来ても、多分行くとこまで行く……考えたくはないけど……最悪の場合、私が全部何とかするよ」
あくまでも、臼沢塞の覚悟を尊重する姿勢の小瀬川白望。自分が嘗て臼沢塞にそうされたように、どれだけ危険かという事を分かっていても、どれだけ自身が当人の事を心配していたとしても、本人がやると言った以上、捻じ曲げることは許されない。たとえ、親友である、小瀬川白望にとって大切な人間である臼沢塞であっても、だ。
小瀬川白望はこの時初めて、自分を送り出す時の臼沢塞の気持ちが分かったような気がした。いつもは自身が臼沢塞の事を振り回し、その度に心配をかけてきた。その事実は分かってはいたが、その時の彼女の気持ちは分からなかった。だが、今は違う。今ならば分かる。どう理屈を並べようとも、心の奥底では、心配というトゲが刺さるというこの苦しみからは、逃れられないという事を。
臼沢塞は、いつもこの苦しい思いを抱えながら見守っていてくれたのだと思うと、感心よりも、申し訳なさの気持ちが先に湧いて出てきた。麻雀という勝負中で狂気の境地、異常こそが正常な異次元空間で闘い、名実共に人間という枠組みを優に超えた小瀬川白望でさえも、この気持ちによって心を苛まれているのだ。臼沢塞も、自分が感じているのと同じくらい、もしくはそれ以上の痛みを感じていたのだろう。
(塞、ごめん……こんなに辛かったなんて……)
小瀬川白望は心の中で臼沢塞に謝罪する。これほどの心の負荷を与えていたのなんて、知りもしなかった。だが、小瀬川白望はまた一歩更なる境地に至ろうとしていた。この痛みを抑えつけ、耐えて、臼沢塞に全てを託す。それによってこの痛みを乗り越えようとしていたのだ。恐らく……いや、確実に赤木しげるも感じる事の無かったであろう、この痛みを。
そしてその上で、決意を固める。臼沢塞がどんな結果を残そうとも、小瀬川白望は彼女の思いを受け取って、全力を尽くして闘いに赴くと。
(任せたよ、塞……例えどんな結果に終わろうとも、塞が無理をした意味を、私が証明してみせる。……塞の無理は決して無駄じゃなかったって)