宮守の神域   作:銀一色

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第429話 二回戦B編 ㊳ 限界

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視点:神の視点

南三局 親:永水 ドラ{6}

宮守 113400

姫松 115200

永水  66100

清澄 105300

 

 

 

 

 

 副将戦もついにオーラス手前の南三局に到達しており、あと二局で決着がついてしまう所まで来てしまっていた。現在の点棒状況は四位の永水と一位の姫松との点差が五万点弱なのに対し、三位の清澄と姫松との差は一万点にも満たないという、永水を除けば見事なまでの横一線状態であった。

 東四局から既に体力を完全に使い果たし、気力と勝負の熱だけで打っている臼沢塞は、清澄の親を蹴ってからも段々と点棒を稼ぎ、ついにトップとの差を1800と、もう目前というところまで詰め寄っていた。が、そろそろ体の限界が近づいてきているということが彼女自身にも分かるようになるほど、顕著なものとなってきた。彼女が今原動力としている気力と勝負の熱は、前向きに捉えるのならば予備バッテリーという言い方でもあってるのかもしれないが、もはや今となっては天然の鎮痛剤のようなものに近い。体力が無くなり、本来ならば動かすことのできないはずの体を、それによって騙し騙し打ってきている。いつしか無茶な誤魔化しも効かなくなり、ついには今度こそ再起不能となる事だろう。

 そして現在進行形で体の悲鳴が臼沢塞に訴えかけている真っ最中である。臼沢塞は若干ぼやけつつある視界に、体にガタがきているのだと再確認させられる。

 

 

 

(……あー……これ、ちょっとやばいかも。視界が霞んできた……)

 

 

 

(後二局。後二局だけでいい……もって……私の体……)

 

 

 

 だが、臼沢塞はあくまでも止めようという気は無く、最後まで闘い抜く事を腹に決めている。アクセルは既に押したままに固定されていた。最後の二局。これらさえ凌ぐことができればいい。この二局さえ耐えきることができれば臼沢塞の勝ちなのだ。通常ならば目と鼻の先にある二局先。だが、今の臼沢塞はそれすらも完遂できるか厳しい状況であるという事を忘れてはならない。臼沢塞は自分に願うようにムチを打った。

 

 

 

(もはや、私の理解の域を超えてますね……これでまだ、限界じゃないとでも……?もういいはずでしょう……もう、倒れてもいいはずでしょう……なのに、衰退するどころか、更に加速するなんて……)

 

 

 そしてそんな臼沢塞とは対照的に、原村和は臼沢塞のギブアップ、限界を待ち望んでいた。ここまで立てている事ですら異常なのにも関わらず、尚も戦い続ける化け物を目の前にしている原村和は、一刻も早くギブアップの声を所望する事しかできなかった。もう、彼女と臼沢塞の格付けは済んでおり、あとは臼沢塞側のイレギュラー、つまり限界を待ち事しか出来ないという事を悟った。あとたった二局しかないが、この二局でどうにか限界が来てくれ。そう願うしかないのだ。

 

 

 

 

 

「……ツモ、1300、2600」

 

 

 

 

 そしてこの局も、臼沢塞が他を突き放して和了りせしめる。体が限界を迎えつつあるという事を感じさせない圧巻の和了であったが、実際は臼沢塞はその限界とギリギリの状況で向き合っている。たった数秒後でも、自分がちゃんと意識を保てているかの確約はない。臼沢塞は、まさに死と隣り合わせといった境遇にあった。

 

 

 

 

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(……ラスト。オーラス……!)

 

 

 

 自分の体に言い聞かせるように呟きながら、臼沢塞はモノクルを外す。もはやこの期に及んで必要もないだろう。正真正銘の最後の闘い。臼沢塞と『裏鬼門』による、一生分といっても過言ではないほどの気力、体力を削っての死闘。この地獄のような闘いにようやく終止符を打つべく、臼沢塞は薄墨初美に相対する。薄墨初美もそれに応えるように、笑みを浮かべて配牌を取っていく。

 

 

 

 

(最後くらいは、私一人の力でやらせてもらいますよー……)

 

 

 

 

 薄墨初美は原村和の方を向いてそう呟く。今の原村和は完全に臼沢塞を畏怖し、恐れ、気圧されている状態にある。故に、まともに臼沢塞と闘うことは不可能と感じた薄墨初美は、自力での『裏鬼門』成就へと向かう。配牌も、そんな彼女を後押しするが如く、{東}と{北}がいい感じに集まってきていた。

 

 

 

「カン!」

 

 

 

永水:三巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {裏北北裏}

 

新ドラ表示牌

{⑦}

 

 

 

 

 

「カン!!」

 

 

 

永水:八巡目

{裏裏裏裏裏裏裏} {裏東東裏} {裏北北裏}

 

 

 

 

 

(これが、正真正銘最後の『裏鬼門』……止められるのならば、かかってこいですよー!)

 

 

 

 

 そして僅か八巡で{東}と{北}の暗槓を揃えた薄墨初美は、ゆっくりと臼沢塞の方を見る。臼沢塞は当然、自分のことを睨みつけており、やはり『裏鬼門』を封じているのだろうと感じていた。だが、薄墨初美が次巡に引いたのは{南}。絶対に来ないだろうと思われていた{南}を手に取った薄墨初美は、少し動揺しながら手牌へ取り込む。

 

 

 

(宮守……まさか……)

 

 

 

 不審に思った薄墨初美が臼沢塞の方をチラリと見ると、臼沢塞は顔を伏せて息を切らしていた。そうしてようやく理解する。ついに、臼沢塞に限界が来てしまったのだという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ハァ、ハァ……あ、後ちょっとのところなのに……!)

 

 

 

 

 臼沢塞は自分の体を動かそうとするが、体が錆びた歯車のように動かない。前を見ようと試みても、彼女の視界は霞んだまま、視覚的情報も何も得られず仕舞いであった。とうとう、限界が来た。理解したくはなかったのだが、動かない体を見れば嫌でも理解してしまう。

 

 

 

(あっーーー)

 

 

 

 そして、頭の中でプツンと糸が切れたような音がした後は、そこから臼沢塞の意識、記憶は殆ど無かった。気がついた頃には、臼沢塞は深刻そうな表情を浮かべる小瀬川白望によって抱きかかえられており、天井を見上げていた。意識を取り戻した臼沢塞が「……シロ?」と小さく呟くと、小瀬川白望は驚き、立ち止まって少しばかり屈む。

 

 

 

「塞……大丈夫……」

 

 

 

「大丈夫だけど……副将戦の結果は……」

 

 

 

 臼沢塞がそう言うと、小瀬川白望は少し暗い顔を浮かべながら「……終局間際に塞が初美の小四喜に放銃して、今、宮守は四位」と答える。どうやら、意識や記憶が曖昧になる程の状況でも臼沢塞は打ち続けていたらしい。その事は評価されるべきではあるが、結果は結果。それを聞いた臼沢塞は自虐するように笑うと、「私ってほんと、ダメね……ごめん」と、涙を浮かべながら小瀬川白望に向かって言った。

 

 

 

「……塞は気にしなくていい。塞は、誰よりも頑張ってた」

 

 

 

 小瀬川白望がそう言い、臼沢塞の涙を拭く。続けて臼沢塞に向かって「塞、立てる?」と言って臼沢塞を下ろした。臼沢塞の足はまだ覚束ない様子ではあったが、臼沢塞が「これくらい大丈夫よ」と言うと、小瀬川白望は臼沢塞とは反対方向を、対局室方面に体を向けると、臼沢塞にこう言った。

 

 

 

「……一位」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「一位になって終わらせてくる。……私が、塞の覚悟を意味のあったものにするために」

 

 

 

 それを聞いた臼沢塞は、ふふっと笑って「……任せたわよ」と言って、小瀬川白望の事を送り出した。

 

 

 

 

(塞の苦しみは忘れない……恨みでもなく、怒りでもなく……ただ仇として……全部、倒す)

 

 




シロを本気にさせるにはこれしか無かったですね……
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