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視点:神の視点
東四局 親:永水 ドラ{白}
清澄 91500
宮守 100300
姫松 112300
永水 95900
永水:五巡目
{一一四四裏裏八八東東} {裏二二二}
{一一四四四八八八東東} {二二二二}
『……少しの可能性も与えん……この卓を治めしものはわしっ……!誰であろうと、わしのツモを阻害することは許されない……摘む……ッ!ここで全て……ッ!』
鷲巣巌は怯えて肩を震わせる宮永咲の事を睨みつけながらそう言う。小瀬川白望が親の東二局では、宮永咲が明槓や暗槓、加槓による嶺上牌で一気に聴牌、そしてそのままの勢いで嶺上開花ツモを狙って小瀬川白望の親を止めようとしたという事実を鷲巣巌は知っている。小瀬川白望を相手に仕掛けようとしていたのだ、鷲巣巌にも仕掛けてもおかしくはない。見た限りではまだまだ宮永咲は槓子をよくて一つ持っている程度で、そこから和了というのは嶺上牌で理想的な牌をツモると仮定しても考え難い。だが、ゼロでは無い。どんなに薄い確率といえども、起こるときには起こり得るのだ。あの日だってそうだ。鷲巣巌も赤木しげるも、起こらないと断定してもおかしくはないほどの薄い確率を、まるで当然のように当てていた。そしてその僅かな可能性に歓喜し、恐怖したのだ。僅かな重みというものをよく知っている鷲巣巌からしてみれば、摘んでおきたいのだ。鷲巣巌のツモを妨害する全ての要素を、排除しておきたかった。どんなに僅かな芽と雖も、彼には侮ることはできない。
それゆえのこの暗槓。当然鷲巣巌が言っていたように、この暗槓で望むものは新ドラなどというものではない。言うなれば縄張り、支配下の確認。宮永咲を威圧して萎縮させるだけでなく、今この場は王牌も嶺上牌も、全てを鷲巣巌が支配している。それを確定させるための暗槓。このことで、宮永咲は和了ろうと目論んでいようがいまいが、もう和了ろうというという意思は掻き消えたし、仮に槓を仕掛けてもそこは既に鷲巣巌の支配下。既に引く牌がある程度確定されている普通の麻雀とは違い、逐一穴の中から牌をツモらなければいけないこの鷲巣麻雀では、望んだ牌を掴むことはできない。
『それに……何やら
鷲巣巌は付け加えるようにそう呟くと、前に一度チラと見た長野県の個人戦の収支を思い出す。暇を持て余していた鷲巣巌が何気なく眺めていた資料だったが、そこで彼は面白い収支となっていた者を見つけた。それは何を隠そう宮永咲の事である。初日の予選の彼女の収支は、なんとプラスマイナスゼロ。そこだけ見ると凡庸ではあるが、翌日の本戦ではそこから大きく点棒を巻き返して結果は三位、見事個人戦でも全国大会を果たしていた。
その文面だけ取ると、初日では調子が振るわなかったのか、もしくは本戦でバカヅキだったのかと考えられるが、鷲巣巌には別の可能性が見えていた。
『まあ……今そんな余裕は無いじゃろうがな……
凡人から見れば先ほどの二通りのパターンが思いつく。だが、鷲巣巌は違った。あれは単なる偶然などでは無い。宮永咲はプラスマイナスゼロを意図的に、もっと言うならわざと引き起こした。そう考えていた。
確かに、プラスマイナスゼロを意図的にできるとなればその時点で非凡、異彩を放つ業績。それは間違いない。仮に鷲巣巌がプラマイゼロをやろうとしても、自身の豪運故に絶対に不可能な業である。だが、鷲巣巌はそれを非凡だとは評しながらも、辛口な言葉で彼女を評価する。
『しかし……とんだ意気地無しじゃな。プラマイゼロもこれを見る限り、逃げ……逃げるための戦略のようじゃ。……何に怯える。その非凡な力を持ちながら……何に怯える必要がある……?』
『確かに、貴様にはわしのような豪運も、やつのような人間離れした麻雀の腕も、狂気もない……が、分からんのか……その謙遜や卑下、悲観などというわけのわからん感情が、更にわしやアカギとの差を広げているというのが……』
永水:六巡目
{一一四四裏裏八八東東} {裏二二二}
{一一四四四八八八東東} {二二二二}
ツモ{裏/五}
宮永咲の事を見ながら、溜息をついて『残念だ』と呟く鷲巣巌は六巡目、まるで当然かのように黒牌の五萬をツモり、これで一向聴とする。今の鷲巣巌を止めることができるのは、もはや鷲巣巌だけ。誰にも止めることなど許されない状況にあった。
『クククク……アカギ……これで第一ラウンドは決着じゃ……ッ!』
『リーチだッ!打てッ、石戸!』
「……リーチ」
永水:七巡目
{一一四四裏裏裏八八東} {裏二二二}
{一一四四四五八八八東} {二二二二}
ツモ{七}
打{横東}
そして直後の七巡目、鷲巣巌は望み通りの七萬を引いて聴牌。清一色三暗刻の倍満手を聴牌し、この手でリーチをかける。待ちは鷲巣巌が序盤で切った六萬と、フリテンの状態となってしまっているが、鷲巣巌にとってはそんなこと全く関係の無い話であった。というのも、小瀬川白望は当然振り込まないだろうし、他二人も鷲巣巌の手牌を見れば、危険牌は自ずと萬子の五萬から上辺りだとうと推測できるため、出和了が望めない。それが一つの理由だが、鷲巣巌が一発ツモを確信しているというのが一番大きな理由だ。
当然、他二人はおろか小瀬川白望も聴牌には至ってはいないため、ただ無情に番が回っていくだけである。結局、何のアクションも起こらぬまま石戸霞の、鷲巣巌のツモ番となると石戸霞は穴から牌をツモり、そのまま卓へと置いた。そして鷲巣巌が石戸霞の代わりにツモ和了を宣言する。
『カカカ……ツモ。リーヅモ一発清一色三暗刻……三倍満、12000オール……!』
永水:和了形
{一一四四裏裏七裏八八} {裏二二二}
{一一四四四五七八八八} {二二二二}
ツモ{六}
(い……一発でツモ和了った……!?フリテンでも御構い無しって、どんな運してんねん……)
末原恭子が絶望と驚愕の混ざった表情を浮かべながら点棒を取り出し、石戸霞に12000点分の点棒を渡そうとすると、彼女はまだ裏ドラを捲っていない事に気付いた。いや、この場合捲ったではなく引いたの方が正しいか。ともかく、末原恭子がその事について指摘をすると、鷲巣巌は『別に引いても引かなくとも変わらんからな。時間の無駄じゃ』と切り捨てた。
「は、はあっ?」
『……逆に聞くが、乗らぬと分かってるのにも関わらず、どうしてわざわざ裏ドラを引く必要がある……?時間の無駄じゃろうて……!』
(な、何言っとるんやこの人……乗らないのが分かっとるって、なんでそう言い切れんねん……)
鷲巣巌にいちいち聞くなと言わんばかりに突っぱねられた末原恭子は、心の中でそう疑問に思うが、これ以上話してもそれこそ時間の無駄だと言い捨てられる気がして、口には到底できなかった。
そして石戸霞が点棒を受け取ると、次の瞬間には鷲巣邸だった空間は元の対局室、正常な場所へと戻り、卓も牌も、通常のものへと戻っていた。まるで夢のような、正確に言えば悪夢のような時間を過ごしたかのように思われるが、確かに現実のことである。
そしてそんな中、石戸霞は鷲巣巌に向かってこう問いた。
(……案外、嬉しそうじゃなかったわね?)
『カッ……!さっきも言っただろう……わしが本来和了ろうとしていたのは四暗刻、役満じゃ。それが結果的には三倍満……確かに奴はわしの和了を止めるまでには至らなかったが……わしもまた、本来の和了を阻止された……決着をつけると言ったが……この勝負は引き分け……イーブンじゃ……』
『それに……まだ勝負は一局目。ここからが本番じゃ……わしと奴との死闘……まだくたばるなよ……石戸……』
(……善処するわ)