宮守の神域   作:銀一色

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第453話 二回戦大将戦 ㉒ 第三者

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視点:神の視点

後半戦東一局 親:姫松 ドラ{8}

姫松  92800

永水 124100

清澄  81200

宮守 101900

 

 

 

 

(……ラス親か)

 

 

 

『チッ……一番厄介なラス親か……』

 

 

 

 後半戦が始まり、肝心の宮守はラス親。その事実を受けて、小瀬川白望はあいも変わらず無表情を貫くが、彼女の対面に座る石戸霞……ではなく、鷲巣巌は顔を顰めながら舌打ちする。彼がかつてアカギしげると打ったのはたった六半荘だけではあるが、ラス親に関しては全くもって良い思い出はなかった。オーラスの親番での逆転、更には和了やめを拒否しての終わらない南四局など、彼にとってオーラスそのものが嫌な思い出しかないというのに、更にラス親となると、それはもはやトラウマに近い事象であった。

 小瀬川白望がラス親でさえなければ、役満に振っても逆転されないほどの点差をつけてしまえばオーラスでも安泰なのだが、ラス親が彼女となるとそうもいかない。……もっとも、今の小瀬川白望相手にその点差をつける事自体至難の業であるのだが、彼女のラス親を蹴るよりかはまだ容易といっても過言では無いかもしれない。

 

 

 そして何より鷲巣巌にとって鬱陶しかったのは、後半戦になって精神が一段と強固となった宮永咲と末原恭子、この二人の躍進の可能性である。

 無論、鷲巣巌が打つ時には大勢に影響はなく、太陽に向かって石を投げるような、無謀な行動、瑣末な話で済まされる。実際、鷲巣巌も彼女らに対して評価はしたものの、特別気にかけるような事ではないと思っていたものの、いざ対局が始まってみるとそう片付けることもできないという事に気づかされる。

 彼が案じているのは、鷲巣巌が打たない局、即ち石戸霞が相手となる局。その時に限っては二人の躍進はかなりの脅威となり得るということだ。もともと、鷲巣巌というドーピングを抜きにすれば、勢力的に小瀬川白望が一人抜きん出て、後の三人は横並びという状況。

 そうなると、この状況で一番の苦戦を強いられるのは石戸霞という事になる。鷲巣巌の力を借りる回数にはある程度の限度がある事から、それ以外の局ではできるだけ失点を少なくし、小瀬川白望との点差を保たねばならないというのに、こうなってしまってはかなり厳しくなってくる。

 

 

 

『……いいな。わしの力を使わない局、この時にアカギや両隣りの小娘達の攻撃をどうやり過ごすか、全てはそこにかかっとるんだぞ……!』

 

 

 

 

(……分かってるわよ、もちろん……!)

 

 

 

 

 石戸霞は汗を垂らしながらも、強気にそう答えてみせる。しかしこの時鷲巣巌はその言葉が強気の発言というわけではなく、あくまでも痩せ我慢という意味が強いという事に気付いたが、敢えてそこには言及せず、『……任せたぞ』と背中を押す。本来ならば叱咤し、檄を入れるのが最適だろうが、鷲巣巌はそれをしなかった。石戸霞が自分の発言が痩せ我慢から来ているものというのを理解しているというのが大きな理由だが、それよりも何よりも今鷲巣巌にはそれをするだけの余裕は無かった。

 余裕が無いというのは、精神的に追い込まれているからというわけでは無い。彼にとって、今は一秒たりとも無駄にはできない時間だったからであった。森羅万象全てを超越したと言っても過言では無い彼が時間を惜しむほど必要に感じて見つめているのは、言わずもがな小瀬川白望の事である。アカギしげるとの闘いにおいても、よくよく考えれば鷲巣巌はずっとアカギしげるや小瀬川白望の事を正面から、対峙してでしか見る事ができなかった。だが、今は違う。今小瀬川白望と対峙しているのは鷲巣巌ではなく、石戸霞。今までずっと真正面からしか見てこなかった怪物。それを第三者視点から見ることのできる、唯一の時間であった。

 視点を変えれば、何か見えるかもしれない。だが、視点を変えたからといって、直接打破に繋がるような決定的ボロは出ないだろう。そもそも、そんなものがあるとしたら、鷲巣巌はあの時負けていないだろうし、先の東四局でも圧倒していただろう。そんなものが望めない事は百も承知である。何か、些細な事でもいい。どうでもいい事でもいい。今、鷲巣巌に足りないのは情報。アカギしげるの生き写しである小瀬川白望の情報である。例え何の役にも立たない事でも良い。とにかく、奴の情報を得たかった。

 そして何よりも、当事者以外の視点から、ただ純粋に彼女の闘牌をじっくりと見たかったのだった。本来認めたくはない、認めてはいけない事だが、運を除外して考えると、麻雀の腕に関しては断然アカギしげる、小瀬川白望の方が上である。それは認めざるを得ない。彼らを越えて、初めて自分の人生の最高点、極地、頂に至るだろうと、鷲巣巌が唯一認めた宿命の敵。これを抜きに見れば、彼等の麻雀というのは鷲巣巌でさえも惚れ惚れとしてしまうほどの腕前なのだ。こうして彼等を敵としてでなく見ることができるのは、恐らく後にも先にも無い。そういった好奇心、期待を寄せていた。

 

 

 

 

『確かに、華がある……あの頃はただの狂人、鬼神、悪魔とでしか見る事ができなかったが……こうして見れば、また見え方も変わってくるものじゃな……ッ!カカカ…………ッ!』

 

 

 

 

 やはり鷲巣巌が介入していないこの卓では、卓は小瀬川白望一強の流れ。休憩時間に一段階成長、一皮むけた末原恭子が起家であるというのも御構い無しといった風に、あっさりとツモ和了で東一局を蹴る。相変わらず他を寄せ付けぬ圧倒的な麻雀。それを見た鷲巣巌は『……やはり、わしにとって敵はお主だけじゃ……アカギ……』と呟く。

 

 

 

『……どうする、石戸。次はわしらの親番だが、ここで行くか?』

 

 

 

 

(……いえ、ここは見送りましょう。……シロがラス親じゃなければそれがベターなんでしょうけど、この状況じゃあちょっとね……)

 

 

 

 

『貴様も、分かっているようじゃな。奴のラス親がどれほど危ういか……』

 

 

 

 

(……分かるわよ。言われなくても、嫌でも分かるわ……)

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