宮守の神域   作:銀一色

469 / 473
第457話 二回戦大将戦 ㉖ 英断

-------------------------------

視点:神の視点

東三局一本場 親:清澄 ドラ{四}

姫松  92900

永水 118800

清澄  87300

宮守 101000

 

 

 

 

 

(……うん。しっかり見えてる。見えてるよ、お姉ちゃん)

 

 

 

 

 自身が親番となる東三局に嶺上開花自摸で和了をきめた宮永咲は、先程の和了の感覚、手応えを感じながら姉の宮永照に向かって呟く。実は前半戦の東四局、つまりあの鷲巣麻雀が起こって以降、宮永咲はいつも見えていた、自身のテリトリーとしていた嶺上牌が全くといって良いほど見ることができていなかった。鷲巣麻雀を経て深く傷をつけられた彼女の精神的なキズが、宮永咲を否が応でも疑心的かつ消極的にさせ、心配や焦り、不安から調子を落とすばかりか、能力の精度にまでも影を指すほどの大きな要因となっていた。

 が、それももはや過去の話。もう一つの彼女の精神的重荷である姉の宮永照との確執という鎖はこの前半戦と後半戦のインターバルに再会と和解という方向で取り除かれ、精神的な負担はその一件で全て消え去った。そうなれば当然、自身の復調に合わせて能力も戻ってくるだろう。しかもそれだけではない。戻ってきただけではなく、明らかにその精度や支配力は向上している。そう、彼女の能力は新たなステージ、進化を経て戻ってきたのだ。

 

 

 

 

(…………もう、一人じゃない……私とお姉ちゃん、二人で闘える…………)

 

 

 

 

 『もう一人じゃない』彼女がそう言うように、これまで宮永咲は孤独であった。最愛の姉との軋轢が生じて以降というものの、彼女は孤独の中闘っていた。勿論、彼女には清澄という新たな居場所が存在し、仲間もいる。だが、それでも対局中は一人だった。日常の中にも、清澄というブロックでは埋められない心のどこかには孤独という名の穴は空いていた。そしてそれを埋めるには、やはり姉である宮永照と仲直りをするしかいないということも、別居した頃から重々承知していた。軋轢の原因となり、嫌いであった麻雀を再び始めたのも、対局中、心の中で孤独の闘いを強いられたのも、全ては姉との仲違いを、紐の縺れを元あった姿に正すため。

 そして先程、ついに宮永咲は悲願を達成した。紐の縺れを解いた。もう、孤独などではない。常に姉の宮永照が、彼女の事を支えている。オカルトチックな話ではあるが、確かに宮永咲は自身の心の中には宮永照の存在があり、自分の事を支えている。そう感じていた。しかし、それと同時に、宮永咲はこれでこれらの闘いの一番の目的を達成する事で失った。言うなれば闘う意味を失ったのだった。

 だが、失ったのならば、また生み出せばいいだけ。自分の為だけに闘うのではなく、今度は皆の為。ここまで勝ち上がってきたチームメイトの為に、今目の前にいる強敵、猛者達に勝つ。新しい意義を作り、ようやく宮永咲は本来の姿、姉と共にある真の姿で戦いに望むことができた。

 

 

 

 

 

(でも…………宮守の人、どうしたんだろう……さっきに続いて、二連続で聴牌してない……?)

 

 

 

 

 しかし、覚醒したとはいえ、それでもまだ宮永咲を悩ませる要因は存在する。その最たる例が小瀬川白望である。鷲巣巌がまさに今悩んでいるように、この東二局から東三局にかけて、小瀬川白望が和了るどころか聴牌もできていない様子であることに、宮永咲だけでなく、石戸霞と末原恭子、この卓にいる全員がそのことに気づいていた。無論、小瀬川白望ぼ手牌が見れたわけではないため本当に聴牌していなかったのかは謎だが、例え聴牌できていたと仮定しても、それでも和了に至れていないということはやはり小瀬川白望も調子があまりよろしくはないという事なのだろう。

 

 

 

 

(滅茶苦茶な事するから静かな方がいいんだけど……それでもちょっと不気味だなあ…………)

 

 

 

 

 良い意味でも悪い意味でも純粋な宮永咲だが、やはりその事に対する不信感は感じていた。これが普通の相手だったら素直に不調だと確信していただろう。だが、小瀬川白望に限っては違う。不調という言葉から一番遠い所に位置している小瀬川白望が二度聴牌できないからといって、そう決めつけるのはあまりにも早計すぎる。

 だが、そうして答えを先送りにするのもまた愚行。決断の保留は一見冷静な判断かのように見えるが、実際のところは愚行極まりない逃げである。早々と決断するのもダメ、先送りにしてもダメ。このジレンマに挟まれた宮永咲ではあるが、取り敢えず今は親番。幸いなことにあまり点差は開いているとはいえず、トップからドベの点差を見ても三万点ほど。実力差を鑑みるとこれでも大きな差と言えるかもしれないが、少なくとも東三局では鷲巣麻雀が来ないということと、ブラフであれどうであれ今小瀬川白望には動きがないということの二つの事象が重なって起こっている。小瀬川白望の動きには警戒しなければならないが、またとないチャンスだ。ここを攻めずして、いつ攻めようか。

 

 

 

 

 

 

 

『……やはりこの局もアカギの手は芳しくない…………まさか本当に流れが来とらんのか……?千載一遇のチャンスが…………』

 

 

 

 

 

 そして続く一本場、まだ四巡目ではあるが、やはり小瀬川白望に目立った動きは見られない。もしや本当に不調かと鷲巣巌が勘繰るようになってきたが、局の中盤十巡目、まるで鷲巣巌がようやく決断せんと試みようとしたのを計らったかのように、小瀬川白望は突然動き出す。

 

 

 

 

「リーチッ…………!」

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

『…………は……?』

 

 

 

 小瀬川白望の思いもよらぬリーチ宣言に卓の全員が言葉を失い戦慄する。先程まで死んでいたかのように、何もせず、鳴き一つ入れずにいた小瀬川白望が、この期に及んでリーチをかけた。本来なら、稀に見る不調の最中であるが故に天地がひっくり返ろうと有り得ぬ事態。だが、確かに小瀬川白望はやり合うしたのだ。

 

 

 

 

『り、リーチってことは…………張っているのか……?あ、あの捨て牌で…………』

 

 

 

 

 

宮守:捨て牌

{一西西7白中}

{8発②横八}

 

 

 

 

 

『どう考えても張っているような捨て牌ではない…………さっきまで字牌に苦しんでいた奴が、いきなりリーチじゃと…………?』

 

 

 

 

 

 

『有り得ん……有り得るわけがない………………が、そうとも言い切れない…………ということはつまり、カカカ……足したな……?毒を…………東二局と東三局だけでは足りぬと思って……更に毒…………わしを死に至らしめる毒を……』

 

 

 

 

 

 普通に考えれば、明らかに今のリーチはブラフのノーテンリーチ。そうとしか取ることができない。だが、全てを知っているのは小瀬川白望ただ一人。彼女が隠そうとしたならば、鷲巣巌はそれを暴く術はない。

 だがどちらであっても、一つ確実に言えた事がある。それは決断を下さずにじっと耐えた事、これは鷲巣巌側からしてみれば英断だった。もし小瀬川白望のリーチ前に決断を下していれば、張っていようがいまいがリーチはかけてこなかっただろう。そういった意味では、この耐えは生きた。保留などではなく、決断をしないという決断は功を奏したのだ。

 

 

 

 

『どうせこの局も清澄が和了るのだろう…………奴の手が偽か真かは見れんだろうが……まあいい……』

 

 

 

 

『よく我慢した…………!焦る事なく、よく耐えた……わしっ…………!!危うかった……奴の罠にはまる寸前、すんでのところで回避……英断的回避…………!カカカ…………ッ!』

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。