宮守の神域   作:銀一色

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東三局です。
今日も昨日に引き続き急いで仕上げました。


第39話 準決勝 ④ 囁き

 

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視点:神の視点

特別観戦室

 

 

 

『ロン』

 

 

特別観戦室で試合を見ていた胡桃と塞は、清水谷が打った{⑨}で和了った小瀬川に対して、ひどく驚いていた。

 

「{⑨}待ち…!?」

 

驚くのも無理はない。『絶一門』によって消した一色が筒子なのにもかかわらず、{⑨}で和了ったのだから。

 

呆然としていた二人の背後から、ドアがバン!と開く音が聞こえた。振り返ると、そこには息を切らしていた辻垣内がそこにいた。

 

 

「ど、どうなってる…?シ、シロ…は?」

 

自分の対局が終わった直後に慌ててきたのだろう。声は掠れていて、疲れ切っている様子だ。

 

「満貫を清水谷さんに直撃させて、トップなんだけど…ちょっと色々おかしくて…」

 

肩で息をする辻垣内に水の入ったコップを渡しながら、塞が説明する。

 

「はーっ。…それで、『色々』ってどういう事だ?」

 

渡された水を飲み、一息ついた辻垣内が塞のいう『色々おかしい』という部分について問う。

 

「えっと…シロと清水谷さんは『絶一門』で手を進めてたんだけど、シロの待ちは消した一色だったんだけど…どうしてそうしたのかが分からなくて…」

 

そう言い、赤木(欠片)の方を見る。赤木は【フフフ…】と笑い、解説を始める。

 

【要するに…『絶一門』で消した一色は安全牌になるっていう前提の裏をかいた狙い撃ちさ。だから俺は、『約束ってのは、必ず守らなきゃならない事ではない』って言ったのさ。】

 

「じゃあシロは清水谷さんを騙したって事?」

 

それを聞いた胡桃が赤木に問うと、赤木は大きな声で【ハハハ…!】と笑いながら、

 

【まあ、悪く言えばそう捉える事も可能だ。実のところ、アイツはハナからまともに『絶一門』をしようなんざ思ってないからな。】

 

【…これで、清水谷は揺れた。清水谷はアイツが、『本物』の騙しなのか、『偽り』の騙しなのかの判断ができなくなる。準決勝からはトビが無いから仕方ないが、この東場でほぼ勝負が決まるって事も可能になってきた…。】

 

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東三局 親:モブB ドラ{東}

 

小瀬川 32300

モブA 23700

清水谷 19700

モブB 24300

 

 

小瀬川にまんまと騙され、満貫を振り込んだ清水谷。それによって今、彼女の精神に若干ヒビが入りかけていた。

 

(…どう打っていけばええんや。)

 

右に行っても、左に行っても、前に進んでも、後ろに下がっても、結局は小瀬川に煮え湯を飲まされる事になる。

 

振り込んだのは一回だけだが、それだけで十分であった。あの一回だけで理解してしまった。

 

悪魔の恐ろしさを。

 

 

 

だが、そんな清水谷に追い打ちをかけるが如く、東三局の小瀬川の捨て牌は

 

 

小瀬川:捨て牌

{36白5北1}

 

 

索子に染まりつつある。そう。これはどう見ても『絶一門』である。

普通、『絶一門』自体にはそんな人を恐怖させる効果は無い。が、それはあくまでも『普通の絶一門』であったらの話だ。

 

 

分からない。索子を安全牌だと思わせての索子待ちなのか、はたまたその裏をついた筒子萬子待ちなのかが。

 

結局、清水谷は何方かを決められる事ができずに、安牌連打。悩んだ末のベタオリ。

 

 

だが11巡目、逃げる清水谷を笑うかのように、安牌という生命線が切れる。切れてしまう。

 

 

清水谷:手牌

{四四七八③⑤⑧8南南西発中}

ツモ{九}

 

(ぐっ…!)

 

 

これで手牌の全てが危険牌である。当然、この中の全てが待ちではない。あっても精々2種。清水谷は手牌の12種から選べるのだ。最悪でも当たる確率は17%にも満たないし、もしかしたらゼロかもしれない。そう考えれば、多少はマシになるだろうか。

 

だがしかし、

 

 

 

小瀬川:捨て牌

{36白5北1}

{2東①六⑥}

 

 

この捨て牌に、何が通りそうで、何がダメか。それすらも分からない。分からないのだ。

最早小瀬川の捨て牌は待ちを読むための道具ではない。むしろその逆。見れば見るほど、小瀬川の術中にハマってしまう。

 

 

もう一度確認しよう。清水谷の手牌は今

 

{四四七八九③⑤⑧8南南西発中}

 

という状況で、小瀬川の捨て牌が

 

{36白5北1}

{2東①六⑥}

 

だ。

 

 

一見、ぱっと見通りそうな牌はいくらかある。例えば小瀬川が捨てた{⑥、5、六}のスジの{③、8、九}辺りなどはその筆頭だろう。だが、それでも尚清水谷には切ることができなかった。当然だ。スジ打ちなど、小瀬川が一番狙ってそうなところだ。そんな危ない牌を打つよりかは、関係の無い牌を打った方がいくらはマシだ。

 

そう考えれば{③、8、九}よりも安全そうな{四の対子、⑤、⑧}だが、それもダメ。小瀬川が順当に手を進めていたらこれらは十中八九あたり牌になるであろう。

 

これで数牌は切れない。残りは字牌だが、

 

まだ場に出ていない{発と中}は以ての外。小瀬川の風である{南}も切れない。

 

 

だから、切ってしまうのだ。

 

 

 

 

 

清水谷:打牌

{西}

 

 

 

 

他の牌よりも安全そうな{西}を。

 

 

 

 

 

簡単に言えば、逃げたのだ。危険牌を切らずして、安全そうな牌に逃げてしまったのだ。

ベタオリは守備なんだから逃げも攻めもあるか、と思うかもしれない。だが清水谷は最早守備ではなかった。守備からも逃げる一打だった。

 

 

 

そんな心の逃げを、この悪魔が許すわけもない。

 

 

 

 

「ロン。1600。」

 

小瀬川:和了形

{三三四四五五④④⑤⑤⑧⑧西}

 

 

 

 

七対子{西}単騎。直前の{⑥}を残していれば、高めタンピン二盃口の手だ。それを崩してまで、執拗に、ただ執拗に清水谷を狙っている。

 

 

1600という数字の何倍もの心のダメージを負った清水谷を奈落に突き落とすかのように、次の親は小瀬川。

 

 

「攻めてきなよ…"竜華"。」

 

茫然自失の竜華に向けて、悪魔が囁く。

 

 

「さもなければ、東四局、地獄を見るよ。」

 

 

 

 

 

その言葉は、清水谷の復活を待ち望むための言葉なのか、単なる脅しなのかは分からない。

 

 

 

 

だが、これだけは言える。

 

 

 

次の東四局。清水谷が何とかしなければ小瀬川の勝利が確定的になるという事だ。

 

 




次回は東四局ですね。
シロの親番…果たして竜華は止められるんでしょうか…?

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