宮守の神域   作:銀一色

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東四局三本場です。
これでやっと(準決勝の)4分の1が終わったんやな…


第41話 準決勝 ⑥ 潰しの槓

 

 

 

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東四局三本場 親:小瀬川 ドラ{九}

 

小瀬川 57300

モブA 17500

清水谷 7100

モブB 18100

 

 

 

 

東四局三本場。小瀬川の4回目の親番。清水谷との点差は50200。役満をツモっても逆転しないこの点差だが、小瀬川はそれほどの大差とは思ってもいなかった。

 

 

むしろこの局で清水谷が親を蹴ることができれば、逆転も可能である。そんな点差なのだ。

 

 

小瀬川:配牌

{一三四六七九①667東東東白}

 

 

 

配牌は良い。ダブ東が確定して、萬子の混一色、果ては一気通貫も狙える好配牌だ。

 

小瀬川が浮いている{白}を切り、清水谷を見据える。

 

 

(…この局。私は一切迷彩や変わった打ち方はしない。止めれるもんなら止めてみなよ。)

 

 

 

〜〜

 

所変わって清水谷。清水谷はこの局が節目なのにも関わらず、未だ小瀬川の幻影に惑わされ、それに恐怖していた。

 

(どうしたらええんや…一体、どうすれば…)

 

清水谷の前に立ちはだかるのは、壁。小瀬川白望という巨大な壁。

 

そんな壁を前にして絶望する清水谷。だが、その絶望の刹那、思い浮かぶ顔。

 

(…シロさん?)

 

対局前に握手を交わした時の小瀬川白望の顔が浮かび上がってくる。

 

その表情は、今目の前にいる小瀬川とは正反対の、優しい表情だった。お互いに頑張ろうという健気な感じであった。だが、目の奥に勝つという闘志は今の小瀬川も、さっきの小瀬川も同じであった。

 

(そうや…今目の前にいるシロさんも、さっきまでのシロさんも同じやないか…)

 

その通りだ。どれだけ雰囲気が変わろうと、それは全て小瀬川白望なのだ。それ以上もそれ以下もない。

 

(シロさんがどれだけ邪悪な雰囲気だとしても、変わらへん。変わらへんのや…!)

 

スイッチを切り替えた清水谷が、さっきまでの怯え、恐怖していた弱気な目から、勝とうという意思を持った鋭い目つきへと変わる。

 

 

(…行くぞシロさん。これがウチ、清水谷竜華や!)

 

 

 

〜〜

 

清水谷の目つきが変わった事に、いち早く気づいた小瀬川は、それを見て笑う。

 

(そう…そうこなくっちゃ…)

 

 

これでなくては面白くない。といった感じで自分の髪を指で弄ぶ。

 

 

東四局三本場にしてやっと、二人の雀士が対等となって闘う場ができた。

 

 

 

 

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6巡目

小瀬川:手牌

{一三四五六七九667東東東}

ツモ{二}

 

 

先ほど対等と言ったが、それはあくまでも気持ち、意思での対等という意味である。流れは俄然小瀬川にあり、この局も僅か6巡で聴牌に至る。

斯く言う清水谷は未だ二向聴で、小瀬川と比べれば相当な差がある。

 

 

「リーチ」

 

小瀬川:捨て牌

{白①4⑨西横7}

 

 

 

そんなことは御構い無しといった感じでのリーチ宣言。1000点棒を投げて、牌を横に曲げる。待ちは嵌{八}待ちで、ツモればリーヅモ一通ダブ東ドラ1の跳満が確定するこの手。

 

 

 

だが、それを待ってたと言わんばかりの人物が小瀬川の目の前にいた。

 

 

「カン!」

 

清水谷:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {77横77}

 

 

そう。清水谷である。清水谷は小瀬川がリーチをかけてくるまで、必死に耐えていた。機を。チャンスを。

 

 

そして今まさにこの時が、その機であり、チャンスである。

 

(この…この一巡…!この一巡が勝負や!小瀬川のツモになる前に、なんとしてでも小瀬川の当た牌を全部、もしくはできるだけ削る…!)

 

そう。これは単なる大明槓ではない。いわゆる潰しのツモ。おそらく小瀬川にツモ番を渡せば、一発でツモ和了るだろう。これはさっきまで散々思い知らされた。この局だけ一巡待ってくれる何てことはないだろう。

 

だから、小瀬川のツモ番になっても、ツモ和了れなくなる状況にしてしまえばいい。単純なことだ。ツモれない牌はツモれないし、新しく牌を作り出せるわけもない。そういう物理的不可能な状況を作れば、あの小瀬川でさえも封殺できるといったことだ。

 

 

(…無駄だね。)

 

 

だが、それを見た小瀬川は、全然焦ってなどいなかった。

小瀬川の待ちである{八}はドラ表示牌に一枚見えているだけで、残るは三枚。だからいくら潰そうとしても、嶺上ツモとドラ表示牌それぞれ一牌ずつ、二枚までしか潰すことができない。

 

 

清水谷が嶺上ツモをツモる。あの感覚的に、おそらく{八}を引いたのだろう。おまけにドラ表示牌には三枚目の{八}が見られた。これで二枚は潰せた。

 

 

…だが、結局は二枚だけ。二枚までしか潰すことができていない。

どうしても残ってしまう。後一枚の{八}が。

 

(…終わったな。)

 

そう思い、自分のツモ番を待とうとする小瀬川。

 

 

 

 

 

 

 

「…もういっこ…カン!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

清水谷:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏} {裏中中裏} {77横77}

 

 

清水谷が暗槓を宣言する。それ即ち、もう一度清水谷にはチャンスが与えられたという事。

 

言わずもがな、清水谷はここまで想定済みだった。だから、手牌を圧迫する槓材の{中}を今まで取っておいていたのだ。全てはここで、小瀬川の当たり牌を潰すため。

 

 

(…ッ!)

 

小瀬川としても予想外だったらしく、普通なら拝む事すらできない彼女の動揺が見られた。その動揺に、観客達は騒然としている。

 

 

新ドラ表示牌には{西}が見られたが、清水谷がツモるときの感覚からして、{八}はツモられたであろう。

即ち、清水谷の奇策、潰しのツモは成功したのだ。

 

 

 

 

そして、小瀬川のツモ番に回る。

 

 

 

 

小瀬川

ツモ:{二}

 

 

 

和了り牌を一つ残らず潰された小瀬川が引いた牌は{八}な訳は無く、{二}。

 

小瀬川はそれを静かに置く。その瞬間、清水谷が声を出す。

 

 

 

「ロン!」

 

 

清水谷:和了形

{一三八八赤⑤⑥⑦} {裏中中裏} {77横77}

 

「7700!」

 

 

 

小瀬川が遂に、振り込んだ。リーチをかけていたとはいえ、あんなにも完璧に振り込んだのはこの大会で初めての事だった。それ故に観客もその和了に沸き立つ。

 

 

(…)

 

斯く言う小瀬川も、あんなに完璧に潰され、挙句振り込んだのは赤木との特訓を入れたとしても久々なものだった。

 

 

(これでシロさんが萎縮してくれればこちらとしては嬉しいんやけど…)

 

小瀬川から点棒を拾った清水谷はそんな事を考えていた。才気優れるもの程脆い。そういった感じであろう。あの完全無欠の小瀬川があんなにも上手くしてやられたのだ。当然、彼女のダメージも大きいはずだ。

 

 

そう考えていた。

 

 

 

 

 

だが、ここで清水谷は一つ見落としていた。

 

 

 

 

 

 

目の前にいる人物の正体を。

 

 

 

 

 

 

確かに目の前にいるのは小瀬川白望だ。それ以上も以下もない。

 

 

 

 

 

だが、確実に言える事として、小瀬川白望という人間は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『悪魔』である。

 

 

 

 

 

 

「フフフ…」

笑う。和了った清水谷ではなく、振り込んだ小瀬川の方が。

 

それも、とびきり愉快そうに。

 

 

 

 

 

 

 

(…潰す)

 

 

 

 

 

どうやら清水谷は、『悪魔』を目覚めさせてしまったらしい。

 

 




次回から南場に突入です。
次回もよろしくゥ!(謎テンション)

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