もう少しで準決勝も終わってしまいますね……
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南二局 親:清水谷 ドラ{南}
小瀬川 32,700
モブA -15,000
清水谷 11,2000
モブB -29,700
前局、逃げ道を塞ぐ事によって跳満直撃が起こった南一局。この南二局は清水谷の親。清水谷としては他家に差し込んで親を終わらせたいところではあるが、それを小瀬川がただ黙って見過ごすわけにもいかないのは明白である。
だが、そうとは言っても前局の和了は他家の聴牌や手牌の偏り等あらゆる条件が最も理想的に重なったから生まれた和了であり、2度目3度目となってくるとそうそう再現することはできない。
それを理解しているのは小瀬川だけではない。清水谷もまた、そうそう起こり得ることでは無いと理解している。
ーーーーしかし、その認識が清水谷を迷わせる枷となってしまう。
「チー」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {横213}
打{⑧}
まず小瀬川が上家が切った{2}を鳴く。この時点で前局清水谷に猛威を振るった断么や対々和の可能性は消えた。が、
「ポン!」
モブB
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {⑧⑧横⑧}
打{五}
(小瀬川から見て)上家がさっきの鳴きのお返しと言わんばかりに、小瀬川が切った{⑧}を鳴く。そして
小瀬川
打{⑥}
「ポン!!」
モブB
{裏裏裏裏裏裏裏裏} {⑥⑥横⑥} {⑧⑧横⑧}
打{西}
またもや小瀬川が切った牌で鳴きを仕掛けに行く。ありのまま見た感じであれば清一色対々和。断么も絡めば倍満である。
しかし、まだこれだけでは終わらない。
「ポン…!」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏} {横西西西} {横213}
打{南}
これが僅か数秒の出来事である。小瀬川のあの鳴きから、たった数秒で4回も副露合戦が始まってしまったのである。未だ5巡目ではあるが、既に場は終盤戦の模様を呈しており、ハイスピード過ぎる展開である。
だが、あの副露合戦があった次の巡からはまるでさっきの高速展開が無かったかのように場は膠着して、和了発声はおろか、鳴きやリーチも行われることは無かった。
しかし、いくら膠着状態とは雖も、流石にこの状態が永遠に続くわけも無い。
いずれ誰かしらは動くに決まっているのだ。
そして9巡目、膠着状態を破らんとするように颯爽と(小瀬川から見て)下家が1,000点棒を卓に投げ入れる。
「リーチ!」
モブA:捨て牌
{発⑧八2北③}
{9九⑥白横④}
下家がリーチを宣言し、{④}を横に曲げて河へと放つ。そして、このリーチが引き金となり、さっきまでの膠着状態からは一転、今まで待っていたと言わんばかりに場は進展する。
「ポン!」
モブB:手牌
{裏裏裏裏裏} {④横④④} {⑥⑥横⑥} {⑧⑧横⑧}
打{七}
上家がリーチ宣言牌の{④}を鳴き、やや危ない{七}を切る。おそらく聴牌に至ったのだろう。
小瀬川
打{③}
続く小瀬川も、断么清一色対々和の上家に対して超危険牌の{③}を切る。こちらも聴牌したようだ。
これで場は整ってしまった。上家は倍満手を聴牌し、筒子の清一色。小瀬川は索子の混一色。下家はリーチといった、まるで前局を彷彿させるほぼ同じような状況である。
清水谷からして見れば、まず筒子と索子は切れる牌ではない。となると、順当にいけば萬子を切るしかなくなる。実際、結果それで下家に当たってしまえばそれはそれで結果オーライではある。
だが、清水谷は萬子を切ろうとは思わなかった。いや、思えなかった。先ほど話した通り、前局と同じ条件が揃うことなどまずない。普通はありえない。
だが、そうやって相手につけ込むのが小瀬川の麻雀である。そういうありえない事を現実にしてしまうのが小瀬川白望という雀士である。
ありえないと理解しているが故の、特別パターンでの迷い。通常なら考慮にも値しない可能性が、今清水谷の頭の中を支配していた。
例えば小瀬川の捨て牌にはドラの{南}がある。普通に考えれば、今小瀬川の手牌の中にドラの{南}はない。となれば高い可能性があれば索子の混一色だけだが、その裏をかいて{赤五六東東東南南}という待ちもあり得る。{南}の暗刻を切って、ドラがないと思わせておいての安牌狙いのパターンだ。
ただ何気ないように切った{南}も、相手が小瀬川というだけでここまで意味が膨れ上がってきてしまっている。
別に清水谷は気持ちでは小瀬川に押されてはいないし、心は折られてはいない。これは小瀬川から遠ざかる単なる逃げではなく、小瀬川の猛攻を避ける守りであることは確かである。
……だが、小瀬川はその守りすら許さない。許さないのだ。逃げを討つ雀士の数は多いだろう。心が流れていく方向に照準を構えればいいのだから、そうそう難しい事ではない。だが、守りを討つ雀士は限りなく少ない。心が流れていかない不安定な状況で確実に狙い撃つのは極めて困難な話であり、微妙な心の動きを察知しなければならないからである。
そしてその悪魔の読みは、的を得てしまう。
清水谷
打{9}
清水谷が{9}を河に置く。その瞬間に牌が倒れる音がして清水谷はギョッとしてしまうが、牌を倒したのはリーチをかけた(小瀬川から見て)下家。
「ロン!」
モブA:和了形
{一二三四五六七八九6678}
「リーチ平和一通!」
どうやら断么がつかない安めだったらしい。清水谷はふぅと一息ついて、点棒を出そうとする。
「裏……っ!?」
裏ドラを確認しているはずの突然下家が驚く声をあげる。何事かと思って王牌を見ると、そこには裏ドラを確認しようとした下家の人を、片手で制する小瀬川がいた。
清水谷がこちらを見たのを確認して、小瀬川が言う。
「惜しかった……確かに今起こっていた状況を疑ったまでは良かった。……だけど、そこからが惜しかった。その裏をかけなかった……」
そして小瀬川は鳴いて少なくなった7牌を両手で倒す。
「残念……頭ハネだ」
小瀬川:和了形
{7778中中中} {横西西西} {横213}
「満貫……!8,000!」
清水谷が警戒していた混一色ブラフはブラフではなく、そのままの混一色であった。
確かに、混一色かブラフかあの時点で判断するのはほぼ不可能だ。確率的に言えば完全にどちらも同じ確率で有り得てしまう。50%50%である。
が、逆に言えば清水谷は50%もある確率を外してしまったとも捉えることができる。
そしてこの満貫で更に16,000とリー棒分の1,000、合計して17,000の点差がつまり、
小瀬川 41,700
モブA -16,000
清水谷 104,000
モブB -29,700
となった。だが清水谷と小瀬川の点差はまだ62,300と、二回振り込んだ清水谷の所為で軽く見えるが、小瀬川も結構追い込まれているのが分かる。
どちらも同じ程度の苦しみを味わいつつ、勝負は最終局面に着々と近づいている。
終局まで、残り二局。
次回は南三局……!
ですが確実にあと二話では終わらないと思います。オーラスで二話以上使う可能性が高いので……
そして何気に一回戦と話数が同じな感じになっている……まあ、流石にこの大会だけで70話も使えないからね。しょうがないね。