宮守の神域   作:銀一色

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決勝戦始まるまでです。
ここから一体何話使うことになるんでしょうか……?


第52話 決勝戦 ⓪ 四人の雀士

 

 

 

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視点:神視点

 

全国大会準決勝第二試合

小瀬川 83,700

モブA -16,000

清水谷 62,000

モブB -29,700

 

 

小瀬川:和了形

{中} {東東横東東} {横546} {②横②②} {八横八八}

ツモ{中}

 

 

ドラ

{四東}

 

 

 

 

 

 

トップからの直撃を見逃すという愚行を起こしてからの、嶺上開花、東、ドラ4の責任払い。この理解できぬ常識離れした不可解な打ちまわしによって、全国大会準決勝第二試合は幕を閉じた。

 

この死闘を演じた四人の若き雀士は各々の表情を浮かべる。

上家と下家(小瀬川から見て)は、対局中は最後の最後まで自分を保って、勝つ事は無理だと分かっていてもその目に闘志を宿していたが、対局が終わるとその闘志も消え去ったのか、瞼に涙を滲ませて対局室から出て行った。

 

小瀬川の対面に位置する清水谷は、対局が終わった今でも小瀬川の和了形をまるで雷にでも打たれたかのような呆気にとられた表情をしながら見つめていた。そしてそれを小瀬川は椅子の背もたれに背中を預けながら、能面のような無表情で清水谷を見つめる。

 

対局室にはしばらく沈黙が生まれたが、その沈黙を破るように清水谷は席を立ち、深く息を吐いて

 

 

「シロさん。……楽しかったで」

 

 

と、笑顔で小瀬川の肩をポンと叩いて対局室を後にした。いや、それは笑顔ではなく、彼女が精一杯作った笑顔であった事を小瀬川は分かっていた。清水谷が涙を堪え、唇を噛み締めていた事を小瀬川は見抜いていた。小瀬川はその心情を汲み取り、

 

 

「……勝つから。竜華の分まで、決勝も……絶対」

 

 

と宣言する。その瞬間、清水谷の足が止まり、何かを呟いた。

 

 

『ありがとう』

 

 

その後、清水谷は再び足を進め、対局室の扉を開けると、廊下へと出て行った。その扉が閉まった直後、誰のとまでは言わないが、誰憚ることなく泣く声が扉越しに聞こえてきたのは言うまでもない。

 

 

小瀬川はその泣き声が止んでから、対局室を離れた。

 

 

 

 

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特別観戦室

視点:辻垣内智葉

 

 

「……終わったか」

試合が終わり、シロが決勝に勝ち進んだのを確認した私は、塞と胡桃と赤木さんを残し、特別観戦室を後にしようとした。

「ちょっと。どこ行くつもり!?」

扉に手をかけた私を止めるように胡桃が問いかけてきた。どうやら抜け駆けをしようと思われているらしい。

「精神統一をしてくるだけだ。シロには会う気は無いから安心しろ」

そう言うが、胡桃の疑念は未だ消えていないらしく、

「本当に??」

と問い詰められる。確かにそうしたいのは山々だ。だが、そうも言ってられない。

 

「……"敵"にわざわざ会って話す必要も無かろう」

 

ドスを効かせた声で胡桃を睨む。胡桃と塞は思わず言葉を失ってしまった。流石に言い方がアレだったか。

私は扉を開き、言葉が出なくなった二人を残して特別観戦室から出て行った。

 

 

 

確かにさっき言ったことは言い過ぎたとは思ったが、大体は合っている。決勝に進出が決定した今、私とシロ……いや、小瀬川白望は敵同士なのだ。私にとってシロはかけがえのないものである。それは変わるものではない。だが、私と小瀬川白望が敵である以上、そんなものは関係は無い。

 

 

むしろ、そんな気持ちで挑んでしまえば小瀬川白望には到底敵わないであろう。それは逆に小瀬川白望に対して失礼である。

 

 

まだ決勝まで準決勝が二試合控えていて結構時間はあるが、決勝出場者の個別の控室に入る。

 

 

決勝で卓を囲む者は私と小瀬川白望、残り2名はおそらく宮永照と愛宕洋榎であろう。

はっきり言って、この3人をまともに相手をして勝てるかと言われると難しいところである。サシでやったとしても手強い強敵が3人。しかもその内の一人はかつて私が二局でトバされた相手だ。

 

だが、そんなもので怖気付く私では無い。勝機が無かったとしても、負けると分かっていても、それでも最後まで信念を持って勝負する。それが私、辻垣内智葉という雀士だ。

 

 

(……ねじ伏せてやる)

 

 

 

 

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視点:宮永照

 

 

 

白望さんの対局を見終わり、ようやく安心することができた私は、続く準決勝第三試合を難なく勝ち抜け、決勝へと駒を進めた。

 

今の今まで白望さんと対局するなど、全く想像できなかった事が、とうとう実現することとなる。白望さんのあのヒリヒリと焼けつくような熱く、見る者を魅了する魔性の闘牌を間近で見ることが出来ると思うと、嬉しさによって心の高鳴りが治らなくなる。

 

だが、対局するとなれば、私もそう易々と負けてはいられない。

 

 

(全力で勝ちにいく……負ける気は無い)

 

 

 

私はその目に闘志を抱いて、決勝戦を今か今かと待ち望む。

 

 

 

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視点:愛宕洋榎

 

 

「ツモや!」

 

 

ウチの四連続和了によって準決勝第四試合が決着し、無事に決勝戦に出場することがこれで確定した。辻垣内、シロちゃん、宮永が頑張っているこの状況で、ウチだけ不甲斐ない結果ではいられない。

 

 

遂に決勝戦。ウチが待ち望んでいた舞台に立ち上がる事ができた。後は日本一になるだけ。簡単に言ったが、そのためには怪物を3人、しかもそれらを同時に相手しなければならない。

だが、それでいい。その方がいい。ハードルは、高い方が超えた時の達成感が凄まじいというものだ。

 

 

 

(優勝は、ウチが……この愛宕洋榎が頂いていくで!)

 

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

 

(遂に……ここまで来た……)

 

 

 

控室で決勝戦を待っていた私は、この後始まる決勝戦を前にして、ふと思った。

思い返してみれば、私の転機は夏休みのお盆。あの日に、赤木さんと出会った。あの出会いがあったからこそ、私は今ここに立てている。逆に出会えてなかったら、きっと私は麻雀をもう一度しようとは思わなかっただろう。そして、他県の皆とも出会えることは無かったであろう。

 

 

(……赤木さんには頭が上がらないなぁ)

 

 

私は赤木さんに心の中で感謝し、控室を後にする。

 

 

 

決勝戦。相手は智葉、照、洋榎といった、錚々たる面々。相手にとってこれ以上の面子がいるであろうか。間違いなく、この大会の中で一番の面子と言っても過言では無いだろう。

 

 

無論、勝ち以外は範疇に無い。負ける気など毛頭なし。

 

 

 

 

 

そして、四人の雀士(怪物)が集結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から決勝戦が始まります。
乞うご期待!

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