今回、ひっさびさにあの設定が出てきます。
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視点:小瀬川白望
3,900を智葉から直撃で和了った東一局。照を除く全員のチャンスとなる局の筈なのに、安手で狙い撃たれた事に対して狼狽する智葉から点棒を受け取り、一本場として100点棒を置いた正にその瞬間、背後からバキッという、明らかに異常な音が聞こえた。
(……へぇ。これが例のアレか)
背後には、緑で縁取られた巨大な鏡。周りを見れば、智葉と洋榎の後ろにも自分の背後にある鏡と同じような鏡があり、私たちをそれぞれ映し出している。
智葉と一緒に見た書類にも記述してあった、最初の一局は様子を見て、その後対戦相手の背後に鏡を出現させて、相手の本質的な実力を見破るという『照魔鏡』とか称されているアレ。
成る程……確かにこれは気味が悪いな。まるで体の隅々まで照に監視されているようだ。
と、不快な気持ちになった所で鏡は雲散霧消し、完全に消えて無くなった。おそらく"全部見た"のであろう。
まあ、私にはこれといった能力は無いから、別に知られたく無い事は無いのだけども。もしかしたら赤木さん流の打ち方まで全部解析したのかな?まあ、理解した所でそれが何かの役に立つわけでは無いのだが。そりゃあそうだ。理解しただけで対策できる程単純な物であれば、とうの昔に私は赤木さんに勝てたであろう。
過信や高飛車などでは決して無い。ある種の誇りと言えよう。私はそれほどまでに、赤木さんの意思を継ぐという事に対して誇りを持っているのだ。それ故に分かるのだ。理解された程度では対策を講じることは不可能だと。
さあ、何はともあれ次は私の連荘、東一局一本場だ。生憎、流れは絶好調である。いくらこの三人が相手とはいえ、絶好調の私を一発で止める事はそれこそ赤木さんくらいの
(私の親……止めなけりゃあとってもダルい事になるよ)
この局から本格的に照も参加してくるだろう。漸く決勝戦らしくなってきた。
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視点:宮永照
私はいつも打つ時と変わらぬように、最初の一局を犠牲にして私の生まれ持った能力『照魔鏡』を発動し、他三人の本質を覗いた。
(……やっぱり辻垣内さんと洋榎さんは能力は持っていない。か)
辻垣内さんと洋榎さんは前に対局した事があるので、能力持ちでは無いという事は既に分かっていた。まあ、前に対局した時と今回までの間で能力が開花しているかもしれない可能性はあるのだが、そんな事はなく、二人に能力は無かった。
だが、その分基本的な力や技量が前に比べてかなり上昇していた。私もそうだったが、他の二人もかなり成長していたという事になる。
取り敢えず二人の事は見終わった。ある程度予想していた通りだったので、そんなに驚く事は無かった。そして次は、ある意味本命である白望さんの方を見ようと、意識を白望さんに向けた。
一体どんな雀士なのだろうか。準決勝の後半戦南場しか見ていないが、あれを見ただけで、彼女の打ち方に私は惹かれたのである。どんな力を持てば、あんな人を魅了する麻雀が打てるのか、私は見る前から気になってしょうがなかった。この時をずっと待っていた。
(…………?)
だが、白望さんを見ようと意識しても、一向に見える気配がしなかった。頑張って見ようと力を入れたが、映し出されていたのは一面真っ黒。何も見えなかった。
これまで、『照魔鏡』を使って人を見るとき、特別見ようと力を入れて意識した事は無かった。つまり、今力を入れて見ようと試みているという時点で、既に異常であるのだ。
有り得ない。今まで、色んな類の雀士に相対してきたが、『照魔鏡』自体を防ぐ事ができたには一人もいなかった。どんな能力を持ったとしても、麻雀に直接影響を及ばさないこの『照魔鏡』は防げないはずだ。
だとすれば、どういう事か。
(見えないんじゃない……これこそが、白望さんの本質……?)
今見えている真っ黒な闇こそが、白望さんの全てだという事だ。この闇が、彼女であるという事だ。
だが、仮にそうだとしても説明がつかない。例えこの闇が彼女の本質だったとしても、詳細が分からないという事は無いはずである。
(やっぱり、何か能力が……?)
だが、ここで予想だにしない事態が起こる。白望さんの闇の正体について考えていたその時、白望さんの闇が、どんどん私の方に寄ってき始めたのである。
モゾゾゾゾ、と、闇が私の方に侵食してきている。恰も主人の身を守ろうと侵入者を排除しようとするガードマンのように。しかも、彼女の背後の鏡が、黒に染まっていっているのが確認できた。
(まず……ッい!?)
緊急離脱。身の危険を感じた私は、闇から逃げるように咄嗟に鏡を消した。
半ば本能的なものでもあったが、あのままあと数秒でも見ていれば、多分闇に飲まれ、内側から破壊されていただろう。それほどまでに、あの闇からは得体の知れない恐怖を感じた。
怖かった。ただ単純に、怖いと感じた。さっきまでは見たい気持ちで一杯だったが、もうそんな事思えない。
それと同時に、屈辱でもあった。今まで『照魔鏡』は百発百中だった。なのにも関わらず、見えなかった。それどころか、逆に恐怖を与えられた。これ以上の屈辱は無かった。
(何者なの?白望さん……?)
……自分が思っていた何倍も、この卓で勝つ事は厳しくなりそうだ。
どうやら私は、小瀬川白望という雀士を、人を魅了する華やかな雀士だと思っていたと同時に、心のどこかで侮っていたらしい。
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視点:赤木しげる
実際にどうかは定かじゃあないが、見た感じ、宮永照が白望と辻垣内が言っていた例の『照魔鏡』を引っ込めた。
スクリーン越しからでも分かる。宮永照は平静を保ってはいるが、やはり小学生。内心恐怖を抱いているのが丸わかりだ。
(恐らくは、白望の"アレ"を見たんだろうな。ククク……)
白望の"アレ"。言い換えるならばブラックホールを見たのだろう。
アレだけは俺が唯一白望の中で分からないものだ。アイツ曰く、一度しか発動した事が無いらしい。それも、決定的に追い詰められた時にのみ発動するのだとか。
それを聞いて、ちょくちょく俺はアイツの事を本気で叩き潰そうと試みたが、結局俺がそれを拝む事ができなかった。その前にアイツがギブアップするからである。
だが、その恐ろしさは分かる。もし、仮にアイツのいう事が正しければ、そのブラックホールは、途轍も無い代物だ。
嘗て俺を死にまで追い詰めた男の"ホワイトホール"と、俺の"ブラックホール"を足したような能力。つまり、相手の豪運をかき消し、尚且つ自分が豪運を引き寄せるという、かなり馬鹿げた能力。
もしそれがこの勝負で見れるとしたら、それはアイツを追い詰めるほどの力とアイツに惑わされても自分を見失わない異常さを、他の三人が持っているかにかかっている。
勝負の行方とは別に、楽しみな事がまた一つ増えた瞬間であった。
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東一局一本場 親:小瀬川
小瀬川 28,900
照 25,000
辻垣内 21,100
洋榎 25,000
そして東一局一本場。ここから本当の決勝戦が始まる。
次回は東一局一本場を書きたいです。(希望)