宮守の神域   作:銀一色

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今回何と東三局が始まりません。
四人の心情を延々と書いてたら終わってました……


第60話 決勝戦 ⑧ 本当の勝負

 

 

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視点:愛宕洋榎

東三局 親:辻垣内 ドラ{2}

 

小瀬川 36,300

照 18,600

辻垣内 21,100

洋榎 24,000

 

 

(あんなに字牌を晒したんは、宮永を下ろすため、っちゅうんか……)

 

シロちゃんの和了形を見ながら、ウチは冷静にシロちゃんの思惑と狙いを再確認していた。最初の{西}鳴きの時点でブラフをしようと決めていたのなら、それはあの時点で既に宮永が{北}も{東}も掴むことを察していたということだ。それは推察なのか直感なのかは定かではないが、おそらく直感なのであろう。もし推察であったとしたら、あんなことは分かっていたとしてもできないであろう、逆に、直感のみ、自分の力のみの判断であるからあんなことができたのだろう、という考察だ。一見自暴自棄に見えて、実は信頼しているのは自分のみ。

最初にその和了を見た時、ウチは絶句していた。完璧に人間を欺き、騙し切ったその悪魔的技量に恐怖していた。だが、そんなものではない。今の和了りの凄さは、相手を支配するということではない。自分を信頼する心、その力が、他人の数十倍も優れているということが、凄まじいのだ。

 

(すげえな……すげえよシロちゃん!!)

 

それを知ったウチの心情は、恐怖から感動へと変わった。すごい。本当にすごいと心の底から思った。自分を信じる、たったそれだけのことだが、それを極限まで信じることができるなど、まるで漫画の主人公のようだ。かっこええなあ、シロちゃん!

 

(よし、ウチも負けてられんなぁ!行くでぇー!!)

 

 

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視点:辻垣内智葉

 

 

四喜和だと思わせておいて、オリの{九}狙い……流石だ。流石としかいいようが無い。事実、私は小瀬川が和了形を晒すまで四喜和だと思っていた……いや、()()()()()()()()()

これが普通の一般人であったら騙されていなかったであろう。すぐにブラフだと看破できていたはずだ。小瀬川だったからだ。小瀬川だからこそ、あのブラフは生きるのだ。本当にあの状況で四喜和を聴牌できそうな小瀬川がやって、初めて意味が生まれてくるのだ。

 

(結局、また小瀬川に一杯食わされてしまった……………)

 

なんにせよ、とどのつまりは小瀬川にはまだ及ばなかったということだ。私は真の意味で小瀬川白望という雀士を理解できていなかったという事であろう。

……思えば、これまで私は小瀬川の事を理解できた時があったであろうか?

準決勝の絶一門(ツェーイーメン)の時も、半荘一回分和了放棄の時も、一回戦のノーテンリーチの時も、……初めて会った日の時も。その都度赤木さん、若しくは小瀬川本人に説明されてやっと理解できていた。自分からその意図を理解できた事など、一度もなく、全て小瀬川は、私の一歩も二歩も上をいっていた。

多分、塞や胡桃などの岩手の奴らを除けば、一番長い付き合いなのは私であるはずだ。故に、自分は小瀬川と他の奴らよりも心を通わせていた、理解していたと思っていた。

だが、実際はそんな事はなかった。友達としての小瀬川とは心を通わせていたのかもしれないが、雀士としての小瀬川とは、全く心は通っていなかった。それどころか、少しも理解できていなかった。

 

 

遠い……

 

 

 

遠い。遠すぎる。小瀬川白望という雀士と、辻垣内智葉という雀士の間には、絶大な差がある。

いや、分かっていた。分かっていたはずなんだ。でも、認めたくなかった。諦めたくなかった。必死にしがみついて、後を追いたかった。

それでも、認めてしまった。認めざるを得なかった。この決勝戦まで、私は頑張った。今この瞬間に、小瀬川と対等に闘うために。だが結局、対等どころか、理解する事すら不可能だった。絶対的差、周回遅れ。それほどまでに、差は大きかったのだ。

 

 

 

ーーーだが、それがどうした?

 

 

(そこに絶大な差があるのなら、詰めてしまえばいいじゃないか。周回遅れだというのなら、一周分速く走ってしまえばいいじゃないか……)

 

(今は理解できていなかったとしても、これから理解していけばいい。少しずつ、少しずつ小瀬川に近づいていけばいい……)

 

 

さっきまで絶望によって光を失った目を、睨みつけるような真剣な目つきに変え、対面にいる小瀬川を見据える。

 

(……私は絶対に負けん!行くぞ、小瀬川白望ッッッ!!!)

 

 

 

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視点:宮永照

 

 

 

ーー諦めなよ……そうすれば私からは逃げられるよ?

 

 

私の頭の中にいる白望さんが、私に向かって語りかける。確かに、それも良いかもしれない。逃げてしまえば、これ以上怯える必要はないのだから。

だけど……ごめんね。私には逃げる、何てことはできそうにないや。

 

 

ーーは?

 

 

私、負けず嫌いだからさ。その所為で、私は失ったものもあるけど、ただ呆然と負けたくはないんだ。

 

 

ーー……怖くないのか?

 

 

確かに、怖い。あなた……いや、白望さんのあの闇は、未だにどんなものかは見当がつかない。でも、それでも逃げたくはないんだ。あの日、白望さんに会った日から決めたんだ。もう、何事にも逃げない。って……

 

 

 

 

 

だからさ、覚悟を決めなよ。『弱い私』

 

 

 

 

 

その瞬間、私の頭の中から白望さんが、いや、白望さんの面を被った『弱い私』が消え去った。まるで、霧が晴れたかのような爽快感に私は包まれた。私は私の呪縛から無事に抜け出すことに成功したのだ。『弱い私』に打ち勝ったのだ。

 

 

 

 

覚悟は決まった。ここからが本当の『宮永照』だ。

 

 

 

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

(皆、決意したんだね。その熱意……ダルくない。それどころか、待ってたよ。その熱意を……)

 

私は牌を穴に入れながら、三人の表情を覗いた。和了った直後こそ、驚愕や恐怖に包まれていたが、今はそんな面影などなく、全員がその目に闘志を再び宿していた。

その闘志は、決勝戦が始まった時のものよりも、チリチリと熱く燃え滾っている。多分今、この世界にいる誰よりも熱く燃えているのは私たちであろう。

取り合っているのは点棒ではなく、自分自身のプライド(誇り)。これこそ、あの赤木さんが求めていた、"本当の勝負"という事なのかもしれない。いや、もしかしたらまだ足りないのかもしれないが、多分こういう事なのだろう。

 

 

(負けてられない、な)

 

 

 

さあ、楽しもうじゃないか。"本当の勝負"を。

 




次回こそ、東三局ですね。
ていうか東三局までに8話使うってどういう事なんですかねえ……

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