宮守の神域   作:銀一色

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東四局です。
やっと"前半戦の東場"が終わりますね……


第62話 決勝戦 ⑩ 差し込み

 

 

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視点:辻垣内智葉

東四局 親:愛宕洋榎 ドラ{白}

 

小瀬川 33,300

照 14,600

辻垣内 15,100

洋榎 37,000

 

 

 

(……親は愛宕洋榎か)

額に手を当て、愛宕洋榎の方を見ながら私は思考を巡らせる。前局、洋榎にはまんまとしてやられた。槓材を取っておいて聴牌した直後に嶺上開花という奇策で私たちを出し抜きやがったのだ。そしてこの局の親はタイミングが良いのか悪いのか、愛宕洋榎である。おそらく、というよりほぼ確実に風は愛宕洋榎に向かって吹くであろう。

 

 

辻垣内:配牌

{一一四六七①③⑤⑥9東西中}

 

その予想を裏付けるかのようにこの東四局の配牌は決して良いとは言えるものではない。

チラと愛宕洋榎の表情を伺ってみると、そこには希望に満ち溢れているような顔の愛宕洋榎。……表情を見ただけで配牌が良いというのが丸わかりじゃないか。まあ、愛宕洋榎らしいといえばらしいのかも知れないが。

しかし、当然ながら私の方からしてみれば愛宕洋榎の配牌が良いというのは望ましくない。他の二人は愛宕洋榎とは違って相変わらずのポーカーフェイスで配牌は良いのかどうかは分からない。いや、愛宕洋榎が分かりやす過ぎるのであって、小瀬川白望と宮永照の方が普通なのだが。

まあ十中八九愛宕洋榎よりは良くはないだろう。言い方は悪いが、二人も私と共に愛宕洋榎にしてやられたのだ。当然、配牌はあまり良くはないであろう。……それでも何らかの力によってどうにか対策してそうな可能性が否めないから"十中八九"と表現したがのだが……

 

 

4巡目

辻垣内:手牌

{一一四六七九①③⑤⑥⑧9中}

ツモ{⑨}

 

あの配牌から4巡が経過したが、異常なほど手が進まず、配牌の時と殆ど変わらないし、大きな変化は起きていない。確かに、今私の流れが良いわけがないのは承知していたが、幾ら何でもこれは酷い。酷すぎるとしか言い表せない。そしてほぼ確実にこの局、私が和了るのは不可能であろう。この流れの悪さに加えて、愛宕洋榎の勢いの良さもある。これ以上奴に好き勝手される前に対策を講じるしかない。となれば、差し込みによって奴の親を流さなければいけない。

だが、その差し込みにも問題点があり、宮永照に差し込んでしまえば、例え一飜和了だとしても確実に合計十三飜への道に近づいてしまう。まだ宮永の親も残っているのだ。あいつほどの腕前ならこの卓でも残り十一飜を埋めるのも決して不可能な事では無い。かといって小瀬川に差し込んでしまえば単純に差が開いてしまう。彼女からの直撃がリーチ状態以外殆ど望めない、しかもリーチ状態でも余程のことがない限り直撃は無い事を考慮すれば、今の時点での点差15,000程度ならまだツモや出和了だけでも巻き返せそうだが、30,000近くになると逆転は厳しくなるであろう。まさに二者択一である。

多種多様な意見があるかも知れないが、ここでは宮永に差し込む方向で動いた方が得策であるだろう。小瀬川に点差をこれ以上広げられるのも癪だし、尚且つ宮永照の『加算麻雀』唯一の弱点である半荘が終わるとリセットされる事を鑑みると、ここは宮永照に風が吹かないことを祈って、宮永照に差し込むしかないであろう。

宮永の手は典型的な萬子の混一色。おそらく、私が差し込みに回ると踏んで当たり牌を差し込みやすく、尚且つ打点的が露骨に高くもなく安くもない丁度の位置である混一色を狙って動いていたようだ。……客観的に見て見れば私はただ宮永に利用されているような感じは否めないものの、背に腹はかえられん。ここは大人しく差し込みに回るとしてやるか。

 

 

 

辻垣内

打{中}

 

 

「ポン」

 

 

宮永照:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {中中横中}

 

打{6}

 

 

皮肉にも差し込みに回った途端運が良くなったようで、私が切った一発目から宮永は鳴くことに成功した。その直後に打った{6}を見る限り、まだ聴牌には至ってはなさそうである。

 

 

辻垣内:手牌

{一一四六七九①③⑤⑥⑧⑨29}

ツモ{東}

 

そして次ツモってきた牌は{東}。これも混一色の宮永には有効牌になり得そうではあるが、生憎{東}は既に私と愛宕洋榎が一枚ずつ切っており、鳴かせる事は不可能である。単騎待ちであれば可能性はあるものの、差し込んでもらうのに単騎待ちという事はないであろう。

 

打{九}

 

 

 

「ポン」

 

宮永照:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏} {九九横九} {中中横中}

 

打{二}

 

次に私が打った{九}も鳴いてくれて、私が差し込みに回ってから愛宕洋榎に一度もツモらせずに二回鳴かせることに成功している。そして宮永が打ったのは{二}。九分九厘聴牌であろう。

そして又もや私のツモ番に回ってきたが、ツモった牌はこの際どうでも良い。目星は既についている。

 

 

(となればお前の待ちは……)

 

 

 

打{六}

 

 

{六}切り。直前に切られた{二}の裏スジの{三六}は危険牌の筆頭。つまり本来切ってはいけない牌なのだが、今の私の状況を踏まえれば、危険牌こそ私にとって救いであると言っても過言では無い。……誤解はされそうではあるが。

 

 

(ここか……?)

 

 

念じるように宮永の方を見る。すると宮永は私が打った{六}を確認した後、

「ロン」

と宣言する。どうやら私の念は宮永に通じたようだった。

 

 

宮永照:和了形

{四五六七八八八} {九九横九} {中中横中}

 

 

「混一色、中。3,900」

 

 

一瞬、ドラの{白}暗刻の可能性が脳内に浮かんだが、どうやら杞憂だったようだ。まあ、ドラが暗刻になるほどの流れがあるのなら差し込みを待つなんてことする必要性は無いであろうが、そうも言ってられないのがこの卓、決勝戦の面子である。特に私の対面に位置する小瀬川。小瀬川ならさっき言った可能性も馬鹿にはできない。普通にやってのけそうだから余計に恐ろしい。さっきも頭ハネされるんじゃないかと少しビビっていたが、それが無事に起こらなくて安心した。

 

さて、これで東場が終わった。即ち、決勝戦の四分の一が終了したことになる。たった四局とはいえ、一局一局の濃度があまりにも濃すぎる。私からしてみればあれだけやってまだ四分の一しか終わってないのか、と思うくらいである。……まあ、事実この勝負をやっていて面白いし楽しいから別に苦では無いのだが。

点棒的には小瀬川と愛宕洋榎の二人浮きで、私と宮永が沈んでいるが、この卓でそんな情報はあてにならない。一局で優劣がひっくり返ることなど最早日常茶飯事と言っても語弊では無いくらいに拮抗している。つまりまだ私が一位になる可能性は大いにあるということだ。……裏を返せば、一位を取ってもすぐに引きずり落とされる可能性も高いということだが。

 

 

(……そろそろ本格的に攻めないとまずいな)

 

 

ここから場はより熾烈になるであろう。宮永の『加算麻雀』もさっきので残り九飜となり、いつ発動してもおかしく無い状況にある。

南一局の親は小瀬川白望……次が正念場だな。ここを如何に速攻で流すことができるかがカギだ。それは愛宕洋榎も宮永も理解しているであろう。いざとなれば協力戦線を張ることだって可能なわけだ。

 

 

(さて……悪魔退治と洒落込もうじゃ無いか……!)




次回は南入です。
シロの親番……これは場が荒れる(確信)

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