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後半戦東一局 親:宮永照 ドラ{西}
小瀬川 16,300
照 61,600
辻垣内 10,600
洋榎 11,500
いよいよ始まった全国大会決勝後半戦。最後の半荘が幕を開けた。何度も言うが、一位と他三人の点差は大きいものの彼女らにとってそんな点差あってないようなものだ。こんな点差もすぐに吹き飛び、元の点数である原点近くでの攻防が予想されている。故に、宮永照以外の三人が宮永照に対して集中砲火し、宮永照はそれを防ぎきるであろうと思われたその後半戦東一局。だが、その予想と反した形での始まりとなってしまった。
この東一局、既に六巡が経とうとしていたが、宮永照以外の他三人はこれといった特別な打ち回しはしていない。簡単に言ってしまえば平凡、手なり。平均50,000という点差を埋めるためには、多少強引な打点向上があるはずなのだが、他三人にはそういった動きは見られない。逆に、宮永照の方が大胆に動いているようにも見える。
六巡目
宮永照:手牌
{一二三四五六七八八八⑤⑥⑦}
ツモ{二}
打{⑤}
六巡目になる前に既に宮永照は聴牌{三六九、一四七}待ちの聴牌をしていたが、大胆にも{二}を引き入れて{⑤}を切り、筒子の面子を外して清一色に向かおうとしていた。この東一局の親は宮永照であり、聴牌しているのならわざわざ遠回りしてまで打点を高くしなくとも、連荘を優先すべきだ。にもかかわらず、宮永照は打点を上げようと試みたのである。まるで、宮永照が三人を追いかけているようではないか。宮永照の方が50,000点差をつけられているようではないか。
宮永照のその行為の意図が観戦室の観客は全くといっていいほどわからない。いや、数人は理解していた人はいたのだが、大多数は未だ靄の中だ。しかも数人、と言っても清水谷、小走やえ、白水などといった人とは一線を越している強者だけなので、同じ観客と一緒に数えていいのかは微妙だが。
「リーチ」
小瀬川:捨て牌
{①北七九西横四}
そしてその同順、小瀬川が牌を横に曲げる。六巡にしてのリーチということで期待がかかるが、卓を囲んでいる三人を除いて全ての人間が小瀬川の手牌を理解していた。そして理解していたからこそ、そのリーチを理解できなかった。
小瀬川:手牌
{三四五⑤⑥⑥⑦⑦⑧3379}
一見ただのリーのみの手。だからこそ、理解し難いものだった。この手、一手挟むだけでも打点向上に繋がる。例えば{6}をツモってくれば断么九がつくし、{⑤乃至は⑧}をツモってくれば一盃口がつく。つまり、まだこの手は完成していないと言っても過言ではない。それなのに小瀬川は牌を横に曲げた。しかもまだまだ序盤の六巡目に、だ。
宮永照:手牌
{一二二三四五六七八八八⑥⑦}
ツモ{九}
その直後の宮永照のツモは{九}。当然のことながら、宮永照は筒子の{⑥}を切り飛ばす。
一度聴牌を拒否したものの、あと一手で清一色を聴牌することができる清一色一向聴まで手を進めることができた。裏目を引くどころか、一巡で清一色への転生の兆しを見せた宮永照の流れを鑑みても、次、遅くとも三巡後には聴牌するであろう。
だが、
七巡目
辻垣内:手牌
{三三②③⑧⑨5566777}
ツモ{①}
その同順、辻垣内が一盃口を聴牌する。その待ちはまさかの{⑦}待ち。即ち、宮永照が聴牌すれば必然的に溢れる牌である。しかし、この時辻垣内はリーチをかけずに黙聴で打{7}。
何故打点を高くしようとしないのか、という疑問が生まれたものの、その疑問は愛宕洋榎によって遮られる。
「チー!」
愛宕洋榎:手牌
{一二六七③④赤⑤2223} {横768}
打{二}
愛宕洋榎が辻垣内の切った牌を鳴き、これで一向聴となる。だが、愛宕洋榎も辻垣内や小瀬川のように特別打点が高いというわけではない。むしろ低めといったところだ。
観客からしてみれば何故、本来高目を狙うべき者が高くしようととせず、高くなくてもいい連荘狙いで良いはずである者が強引に高くしようとするという異常事態が起こっているのかすら分からない。そこにどういう意図があり、何を考えているのか分かるわけがない。何故なら、観客は今起きている事態と、真逆の事が起きているからである。『まさかそんな事起きないだろう』と思う事すらなかった事態なのだ。そしてそれが起これば、意図を理解できないのは当然といえば当然である。
そして愛宕洋榎が鳴き、牌を切った直後、次のツモ番となった小瀬川のツモによって小瀬川はあっさりと宣言する。
「ツモ」
小瀬川:和了形
{三四五⑤⑥⑥⑦⑦⑧3379}
ツモ{8}
「リーチ、ツモ……」
手牌十三牌を両手で倒し、裏ドラを捲るためにドラ表示牌の南を取り、一段下がった裏ドラを小瀬川は人差し指一本で捲った。
裏ドラ表示牌は{⑨}。つまり裏ドラは{①}だった。しかし、小瀬川の手牌には{①}はない。もっと言うなら、{①}は小瀬川が最初に切った牌である。しかも愛宕洋榎の鳴きがあったため一発はつかず、リーチツモのみの30符二飜。2,000の和了である。
「裏なし。500-1,000」
この和了によって、ますます小瀬川達の狙いがわからなくなった。裏ドラが乗ったりして満貫になるであろう。だからノミ手でもリーチをかけたと推察していたのに、箱を開けてみれば満貫どころか裏ドラは一つも乗らず。じゃあ何故リーチをかけたのかが再び理解できなくなったのだ。
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特別観戦室
(なんで……?その手だって、まだ途中じゃあ……)
臼沢塞がノミ手を和了った小瀬川を見て、疑問そうに思った。観客の恐らく99%が思っている疑問を、だ。
それを表情で悟った赤木は、臼沢塞に向かってこう言った。
【……今、あの卓で点差は関係ない。ここまではいいな?】
それを聞いた臼沢塞は、声に出してもいない事を気付いた赤木に若干びっくりしながらも、赤木の問いに答える。
「は……はい」
【だとしたら、答えは自ずと出てくるはず……仮に点棒を原点と仮定した場合、起家の宮永は『加算麻雀』をいち早く発動させるために、打点を高くしようと試みるのは当然のことだ。となれば、あいつらは宮永を止めようとするだろ?……つまりそういうこと。点差にどうしても意識が向いてしまうから本質を見失いそうになる。だから理解できなくなっちまうんだ】
「そうですか……」
臼沢塞は赤木の話に半分だけではあるが納得する。そして残り半分は、やはり小瀬川のことが心配だからそんなこと言ってられないという気持ちだったのを赤木が見抜いたのか、クククと笑って赤木が独り言のように呟いた。
【大切な人がいるってのはいいもんだな。生きていた頃の俺には友しかいなかったが……】
「な……!」
またもや赤木に見抜かれ、臼沢塞が顔を真っ赤にする。鹿倉胡桃はそんな臼沢塞を見ていたが、
【あんたもだぜ。鹿倉さん】
とバッサリ言い切る。その言葉に、鹿倉胡桃もまた顔を赤くした。
(【……肝心のあいつが
人が恋、という感情を抱いているかどうかは分かるが、それが一体どういったものなのかは分からない。赤木にしては珍しくはっきりしない事だが、赤木の生い立ちを振り返ってみればそれも仕方ないであろう。
赤木がそんな疑問を抱えながら、決勝戦の場は東二局へと移る。
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次回は東二局。
そういえば通算UA数が70,000回突破しましたね。
これからも頑張っていきたいと思います。