宮守の神域   作:銀一色

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東二局です。


第74話 決勝戦 ㉒ 犠牲

 

 

 

 

 

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東二局 親:辻垣内 ドラ{②}

 

小瀬川 18,300

照 60,600

辻垣内 10,100

洋榎 11,000

 

 

 

後半戦東二局。前局の東一局では観客の予想に反して小瀬川があっさりと安手で和了り、宮永照の親番を流した結果となった。小瀬川からしてみれば、宮永照の『加算麻雀』による役満聴牌を阻止するための安和了りの為、当然といえば当然であろう。これで厄介な宮永照の親が流れ、連荘の危険性は南一局のみの残り一局となった。そして改めてこの東二局から、観客が予想していた試合展開となっていった。つまり、小瀬川達が手を高めに作ろうとし始めたのである。唯一予想と違ったのは、そこに宮永照も含まれている事か。

だが、それも無理もない。50,000点の点差などワンチャンスで吹き飛びかねないほど脆弱な点差なのだ。となれば、宮永照はもう一度『加算麻雀』の役満を発動させる為に和了りにいくしかない。それに、宮永照が安手で流そうとしても、それよりも早く、尚且つ高い手で攻められ、和了られるといった事態が当然のように起きかねない。いや、起きかねないというより、九分九厘そうなるだろう。しかも、これは『加算麻雀』とは違った意味でのオカルトチックな話になるが、通常の場合で正しいと思われる戦略が、この卓では愚行と見做される可能性が高い。この状態で言えば宮永照が安手で流すという戦略のことだ。確かに、通常ならこの戦略は普通……いや、当然であろう。50,000点差がある状況で無理に手を高くする必要はない。例えそれによって危機が訪れても、未だその呼び名はされた事はないが、宮永照は『牌に愛された子』なのだ。並大抵の事では宮永照の優位は揺るぎない。だが、この卓では『牌に愛された子』と雖も、必ずしも優位に立てるとは限らない。いわゆる、不安定な場なのだ。そしてこれは完全な宮永照の憶測だが、こういう時のような不安定な場は『前に進む者を応援する』という傾向がある。逆に言えば、『後ろに戻る者は見放す』という事だ。この二つのこと故に宮永照は安手で流すよりも、無理に手を高くしようと試みたのだ。

 

しかし、当然の事ながら全員が手を高くしようと動けば、 聴牌するタイミングは重なる可能性は高い。つまり、聴牌する時に溢れる牌によって打ち合い必須の状況となりやすいのだ。であるから、場はますます激戦となりかねない。

 

 

七巡目

小瀬川:手牌

{一①②③⑦⑧⑨112中中中}

ツモ{②}

 

そして七巡目、前局ツモ和了って宮永照の親を蹴った小瀬川が一向聴となる。しかも、うまく牌が重なればチャンタ中ドラ2一盃口が見え、打点は申し分ない。小瀬川はすぐさま{一}を切る。これで小瀬川が四人目の一向聴となり、全員が聴牌直前となる。問題は誰が先に聴牌するかが問題だが、その一巡後の八巡目、誰よりも一歩先に聴牌に至る者が現れる。

 

 

八巡目

辻垣内:手牌

{一一四四⑧⑨⑨⑨446白白}

ツモ{6}

 

親の辻垣内が七対子を聴牌する。待ちは{⑧}待ち。そして暗刻の{⑨}を横に曲げ、1,000点棒を投げ入れる。つまりリーチの宣言だ。

 

「リーチ」

 

 

辻垣内

打{横⑨}

 

 

 

それを受けて同巡、辻垣内に追いつく形で宮永照が聴牌することとなる。

 

 

 

宮永照:手牌

{三四五⑤赤⑤⑦⑦⑧東東北北北}

ツモ{東}

 

三暗刻東赤一の満貫手。しかし、聴牌に取るには辻垣内の和了牌の{⑧}を切る他ない。確かに{⑦}を切ることで聴牌に取ることもできるが、そうなれば東赤一の二飜どまりとなってしまう。斯く言う宮永照も、この{⑧}が怪しいことは承知である。だが、切るしかない。切るしかないのだ。宮永照は{⑧}を指をかける。

 

 

宮永照

打{⑧}

 

 

そして宮永照は思い切り{⑧}を捨てた。無論、辻垣内は牌を倒さないわけもなく、和了宣言をする。

 

 

辻垣内:和了形

{一一四四⑧⑨⑨4466白白}

 

 

裏ドラ{六}

 

「ロン……リーチ一発七対子。9,600」

 

 

 

裏ドラは乗らなかったものの、二十五符四飜の9,600。この東二局、結果的に宮永照が親の辻垣内に振り込んだ形とはなったものの、宮永照の心意気はかなり良かった。逃げずに突っ込んでいった。自分の攻めるという気持ちを押し通してまで振り込んだ。故に、この直撃は決してただただ振り込んだだけではない。それよりも自分を保ったことが何より大事である。

 

(9,600、か。宮永が勝負に来るとは思わなかった……だからこその9,600止まり、か)

 

そう。そしてその恩恵は既に現れていた。それは裏ドラである。あの流れであれば辻垣内に裏ドラが乗るはずであった。それにもかかわらず乗らなかったということは、宮永照に風が吹き始めようとしていることだ。どうやら宮永照のあの自分の振り込みを覚悟しての{⑧}強打を、麻雀の女神が気に入ったのである。点棒を犠牲にして、宮永照は流れを得ようとしたのである。流れという現実、言うなれば『前』を進もうとしたのである。

 

(……宮永を徹底的に潰しておかなければ、な)

 

辻垣内は不本意そうに100点棒を取り出して、卓上に置いた。親の辻垣内が和了ったため次局は東二局一本場となる。いくら意味を成さないとはいえ、宮永照とは50,000点近い点差だ。それを抜きにしてもここで和了っておきたいところである。

 

 

(振り込んだ……でも、手応えは感じた)

 

そして振り込んだ宮永照も、自身に好調な風が吹いている予兆を感じていた。50,000点差を守るためには、点棒を削ってでも守りきる。というなんとも矛盾めいた話ではあるが、それが一番正しいのだ。勝利とは、リスクと等価交換で得るものなのだ。そのためなら、点棒などいくらでも削ってやろう。その意思こそが、混沌とした場は好みなのである。

 

そして場は東二局一本場。辻垣内の連荘に移ることとなる。

 




次回は東二局一本場。
今日は間に合わないと思いました(小並感)
でも間に合ったー!って思ったらそんなに字数がないという現実。
まあ、毎日投稿がこの小説の魅力(笑)だからね。仕方ないね。

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