宮守の神域   作:銀一色

87 / 473
東二局一本場です。


第75話 決勝戦 ㉓ 代理戦争

 

 

 

-------------------------------

東二局一本場 親:辻垣内 ドラ{発}

 

小瀬川 18,300

照 51,000

辻垣内 19,700

洋榎 11,000

 

 

前局の辻垣内の連荘によって東二局一本場となったこの局。辻垣内の宮永照からの9,600直撃を打ち取り、点差はラスの愛宕洋榎でさえ丁度40,000点となるなど、どんどん宮永照へと近づいて行っている。だが、それは宮永照は承知の上だ。知った上で、宮永照は突っ走っている。前局の振り込みだって、逃げ腰になっていれば避けることのできた振り込みだ。だが、宮永照は気にもとめず、堂々と振り込んだ。その結果、宮永照に風が吹きつつあったのだ。点棒を多く持っている者が勝つ麻雀に勝つために、点棒を犠牲とする。麻雀のなんとも皮肉な部分と言えるだろう。

 

そして東二局一本場、配牌の全員の立ち上がりはまずまずといったところだ。若干、宮永照が少し牌が繋がりやすい配牌のため、宮永照が少々有利といったところか。しかし、前局和了った辻垣内もなかなか負けてはいない。スピードでは宮永照に劣るものの、ドラの{発}を対子にし、インスタント満貫が狙える手である。しかもこのインスタント満貫は鳴いても覆らないので、どんどん鳴いていけるのだ。そういった点を踏まえれば今局での配牌、一番理想的な配牌は辻垣内と言える。まあ、いくら宮永照に風が吹きつつあるとはいえ、それ即ち前局和了った辻垣内の流れが悪くなるわけはない。故に、この結果は極めて妥当な配牌だろう。むしろ、振り込んだ宮永照が辻垣内に配牌の良さで対抗できるということ自体が異常なのだ。

そしてこの局で最初の動きが起こったのは局が始まってすぐ、三巡目のことであった。

 

 

「ポン!」

 

辻垣内:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {八八横八}

 

 

打{六}

 

 

 

最初に動いたのは辻垣内。愛宕洋榎が切った{八}を鳴くことができた。宮永照にスピードで勝つ為、どんどん鳴いていくしかない辻垣内からしてみれば三巡目から鳴けたのはラッキーといったところか。

 

そして、その辻垣内の鳴きを見て、思考を走らせる者が一人。

 

 

(……なるほど、インスタント満貫か)

 

そう、小瀬川白望である。小瀬川は辻垣内のあの一鳴きで辻垣内の手の内をだいたい予測した。まず、三巡目に鳴いた時点で打点は鳴いていても高いことが確定する。点が欲しいこの段階で三巡目に鳴くということは、既に満貫や跳満が確定している手ということだ。そして、辻垣内は鳴いた後{六}を切った。つまり、萬子の染め手ではないことがわかる。いくら鳴いたとはいえ、三巡目で聴牌している可能性は低い。つまり染め手がないとなれば、他に満貫が確定している手といえば、インスタント満貫である。そういった思考を、小瀬川は辻垣内のあの数秒の動きで瞬時に読み取る。こういった瞬時の判断も、小瀬川の恐ろしいところの一つであろう。豪快で尚且つ華やかな打ち回しや、ここでこその強運に目が行きがちだが、これもまた小瀬川白望という雀士を形作るには欠かせないパーツの一つであるのだ。

 

四巡目

小瀬川:手牌

{一一二三②④⑤2356発発}

ツモ{七}

 

そしてその一巡後、小瀬川は手には全く繋がりのない{七}を引いてくる。しかし、小瀬川は{七}を手の内に入れ、ドラ対子の{発}に手をかけた。辻垣内がインスタント満貫で、既に一鳴き入れていることから、辻垣内を鳴かせた方が早いと判断したのだろう。

 

 

小瀬川

打{発}

 

 

 

「ポンだ」

 

 

辻垣内:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏} {発横発発} {八八横八}

 

 

打{4}

 

 

 

小瀬川の想定通り、辻垣内はドラの{発}を対子で抱えていて、無事鳴いてくれた。この判断は値千金の判断であることの証明となる。もし仮に小瀬川が{発}の対子を抱えたままであれば、小瀬川も辻垣内もありもしない{発}をツモることなく、宮永照に先を越されていたであろう。まさに好判断であるこの小瀬川のファインプレーは、六巡目に身を結ぶこととなる。無論、辻垣内が和了るという形で。

 

 

 

「ツモ」

 

辻垣内:和了形

{一二三⑥⑦33} {発横発発} {八八横八}

ツモ{⑧}

 

 

「発ドラ3。一本場を加えて4,000オール」

 

 

 

辻垣内が宮永照を振り切り、実質親満をツモ和了る。振り切る、とはどういうことかというと

 

宮永照:手牌

{六七八②③④赤⑤⑥⑦⑦234}

 

 

宮永照が聴牌していたのである。しかも、{①④⑦}の理想的三面待ち。おまけに断么九平和赤一と既に三飜が確定し、ツモられていたらよ四飜和了となってしまい、『加算麻雀』の役満聴牌にグッと近づくこととなる。何気なく辻垣内が順当に和了っていたこの局だが、実際は結構危うい局であったのだ。だが、それを感じさせなく、辻垣内を和了らせた……いうなれば辻垣内を利用して宮永照と代理戦争をさせた元凶は他の誰でもない、小瀬川白望である。

 

 

(……)

 

小瀬川が動いていなければ、この局は宮永照がものにしていたはずだ。小瀬川が辻垣内を鳴かせさえしなければ、宮永照が四飜をツモ和了っていたはずだ。やはり、小瀬川白望という脅威は計り知れない。が、他三人とはまた違った脅威なのだ。宮永照のような強大な能力による恐ろしさではない。辻垣内や愛宕洋榎のような単純な強さによる恐ろしさでもない。異端。何から何まで謎なのだ。例えるなら、白と黒のモノクロの世界に存在する透明な色のないもの。白でもなく、黒でもない。明らかにその場に不釣り合いな色。だが、かといって真っ赤などの場違いな色ではない。馴染みつつも、また異常な、小瀬川という色。

 

 

そして辻垣内がまた和了ったことで、次の局は東三局には移らず、東二局二本場となる。

好調になりつつある宮永照と、親の連荘でじわじわと、また確実に点差を詰める辻垣内、そして今はまだ闘いを様子見している愛宕洋榎と、それら三人を掌握しようとする小瀬川白望。

混戦となりつつある四つ巴の決勝戦後半戦は、まだ始まったばかりだ。

 




次回は東二局二本場です。
やっとまともな休日が来るよ!!やったね!!

月曜日「呼ばれた気がした」


呼 ん で な い



……疲労で頭おかしくなってますね。これはやばい(確信)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。