宮守の神域   作:銀一色

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東四局です。


第79話 決勝戦 ㉗ 油断

 

 

 

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小瀬川白望が親である、後半戦東四局。卓につく小瀬川以外の三人や、小瀬川の真実に迫りかけている大沼秋一郎などと同じように、この親番は今までにもない程荒れそうな予想が始まる前から観客たちから挙げられていた。『親の小瀬川が大暴れするであろう』という予想や、『他三人が食い止める』という予想など、荒れることは満場一致で分かっているのにもかかわらず、誰がどうするという詳細の予想は意見が真っ二つに割れた、という珍しい状態になっている。

 

そして、園城寺怜達のところでも盛んに議論が行われていた。

 

「小瀬川さんの親番……ね」

 

上埜久が興味深そうにスクリーンに映る小瀬川白望を見つめながら呟く。一回戦の時は目の前で見れたし、準決勝でもスクリーン越しではあるがしっかりと見ていた上埜だが、今まで見てきたものと全く違う。それがスクリーン越しからでも分かるのだから恐ろしい。いや、スクリーン越しだからどう変わるとかは関係なさそうなものなのだが、とにかく今までよりも気迫、威圧が段違いであったのだ。

 

(お姉ちゃん……シロさんをここで止められるかが勝負やで……逆にシロさんはここでお姉ちゃん達を振りきれるかが勝負やで……)

 

上埜の隣に座る愛宕洋榎の妹、愛宕絹恵は自身の姉である愛宕洋榎と、想い人である小瀬川白望に心の中で声援を送る。麻雀は姉がやっているとはいえそれなりにしか知らない。だがそんな絹恵でも分かる。ここがターニングポイントであるということだ。この局によって、場の流れは大きく変わる。そんな予感が愛宕絹恵の中を駆け巡っていた。

 

 

「りゅーか。イケメンさんさっきの凄かったな」

 

そしてその更に隣、園城寺怜は清水谷竜華と小瀬川について話していた。園城寺怜の言葉に清水谷は反応する。

 

 

「そうやなぁ……でも」

 

「でも?」

 

 

 

清水谷はゆっくりと口を開き、園城寺怜を諭すかのように話した。

 

 

アレ(小瀬川)は、あんなもんやない」

 

そう。準決勝、100,000点という空前絶後の点差を、たった四局で逆転された清水谷だからこそ分かる。小瀬川は、あの程度にとどまるような雀士ではない。自分を逆転したあの四局の時よりも、小瀬川にはまだ上があるということを身を以て知った。肝心なのは、小瀬川本人に自覚がないということ。

だからこそ、計り知れない。故に、恐ろしいのだ。小瀬川白望という雀士は。

 

 

 

 

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東四局 親:小瀬川白望 ドラ{8}

 

小瀬川 16,300

照 43,800

辻垣内 25,500

洋榎 14,400

 

 

 

そして場は対局室に移り、四人の配牌が出揃う。小瀬川の第一弾によって東四局が幕を開けることとなった。四人の配牌の様子は、愛宕洋榎と小瀬川が良く、その次に辻垣内と宮永照が良いといったところ。

そしてこの局も前局ほどとはいかないものの、二巡目から動きが見られた。

 

 

「チー」

 

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {横213}

 

 

打{⑤}

 

 

二巡目にして愛宕洋榎が切った牌の{2}を小瀬川が鳴く。全員のツモの二周目が何事も無く終わりそうだと思われた直後の出来事である。しかし、悪いことばかりではない。小瀬川の面子に早々に幺九牌の{1}が見え、一気に小瀬川の手の内が絞られることとなる。が、辻垣内はそれを見ても全く有難いとは思わなかった。むしろ逆、小瀬川を危険視していた。

 

(・・・一見、索子の染め手に見るだろうが、そんなわけない……!)

そう。あの小瀬川が手なりに手を進めてハイ終わりのわけがない。必ずどこかで手を打ってくるはずだ。当然、今の鳴きもそのための一打なのだろうと辻垣内は予測する。

 

そして次の辻垣内のツモ番では、{南}をツモってくる。

 

辻垣内:手牌

{一三四六九②⑥⑦⑨13東東}

ツモ{南}

 

 

(オタ風……)

 

 

辻垣内からしてみればこの牌は何よりもいらない不要牌筆頭。だから簡単に切ってしまったのだ。つまり、この時辻垣内は油断していた事になる。小瀬川と闘う時に絶対に抱いてはいけない感情。それは油断。人の心理を操る人間にとって、これほど利用しやすい感情はない。安堵による油断、傲慢からの油断など、いくつも原因はあるが、どれも人間の心にスキができるのには変わらない。

 

 

無論、そんな状態の辻垣内を黙って通すほど小瀬川も甘くはない。

 

 

 

「カンッ……!」

 

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏} {南横南南南} {横213}

 

 

新ドラ{⑨}

 

 

 

(なッ……!)

 

 

辻垣内はここで漸く理解する。自分が完全に油断していたという事に。まだ三巡目で、尚且つ小瀬川の目立った動きが一つで、迷彩を作るにはまだ途中であるという辻垣内なりの仮定があった。故に心のどこかで油断していたのだ。油断しない、と誓うのは簡単であろう。だが、それを実行できる人間など殆どいない。

辻垣内もその例に漏れず、あれだけ油断しないと決めていたのにも関わらず油断してしまった。それも、あっさりと。

そう、人間の生理現象と言っても過言ではないのだ。油断という感情は。

 

 

小瀬川がゆっくりと嶺上ツモ牌を引き寄せていく。それをやられたといった目で見つめる辻垣内。

だが、辻垣内が予想していた未来は具現化することはなかった。

小瀬川はツモってきた牌を手中に入れ、暫し考えるとパッと打牌した。そう、ツモ和了りではなかったのだ。その事に安堵しかける辻垣内だが、すぐに自分の感情を改め直す。

 

(いかんな……これじゃあ小瀬川には届かない。一喜一憂、喜怒哀楽……こういう人間の当たり前の感情を操作するのが小瀬川白望だ)

 

辻垣内は己の考えを改めて再度小瀬川へと立ち向かう。今度こそ油断など絶対しない、と。その改めが効いたのか、次巡、辻垣内は危機を回避することとなる。

 

 

四巡目:辻垣内

{一三四六九②⑥⑦⑨13東東}

ツモ{九}

 

 

{九}をツモり、若干浮き気味だった{九}が対子へ変化する。これで手牌から浮くのは{②}になるが、ここで辻垣内の目が光る。

 

 

(・・・この{②}、切れないな。小瀬川の意思を僅かだが感じた)

 

小瀬川の手はどこからどう見ても索子の混一色。つまりこの{②}は通るはずなのだが、辻垣内にこの{②}はひどく心に引っかかったのだ。ここまで来るとオカルトの類の話なのだが、とにかく辻垣内の第六感が告げたのだ。ここで{②}を切ってはいけないと。

 

辻垣内

打{一}

 

そういうことから辻垣内は{一}切り。通常、第六感が告げたといってとる判断は裏目になるのが殆どなのだが、辻垣内の悪運はどうやら強かったらしく、危機を回避することとなった。

 

 

小瀬川:手牌

{②4赤56789} {南横南南南} {横213}

 

混一色と見せかけての一気通貫ドラ1赤1の{②}待ち。辻垣内は文字通り危機を回避した。小瀬川もよく回避したと感心する。

しかし、小瀬川はそれでも尚笑みを浮かべていた。そう、決してこの判断だけで辻垣内はこの攻防を制したという事にはならない。

 

(・・・感覚とはいえ、これを回避したのは大きい……だけど、回避できたのは()()だけ。……まだ分からない)

 

そう、辻垣内は回避できたが他の二人、愛宕洋榎と宮永照はどうだろうか。・・・結論から言えば、辻垣内と同じようにはいかなかった。逆に、いくら小瀬川を警戒視していたとしても、あそこから混一色じゃないと決めつけれる方が異常なのだ。それはそうだ。小瀬川のどこをどう見ても索子の混一色にしか見えないのだから。だが、何度も言うように、この場では異常こそ正常。異常であるはずの辻垣内が回避でき、正常のはずの愛宕洋榎と宮永照が回避できない。この局は、それを再確認させられる局と言える。

 

 

宮永照

打{②}

 

 

六巡目、宮永照が手牌から{②}を吐き出す。それを見た小瀬川は手牌を倒す。その手牌を見て愛宕洋榎と宮永照は少なからず驚く。

 

 

「ロン……ッ!」

 

 

小瀬川:手牌

{②4赤56789} {南横南南南} {横213}

 

 

「一通ドラ2。7,700……」

 

 

 

(ぐっ……)

 

 

辻垣内が危険視していたことが現実となってしまった。流石に宮永照と愛宕洋榎に気付かせることは不可能だ。仕方ないと言えよう。だが、この場は仕方ないで済む話ではない。連荘。嘗て辻垣内にこれほどまでの連荘という二文字の重圧を受けたことがあっただろうか。

 

「一本場……」

 

 

100点棒を添える。地獄はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

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特別観戦室

 

 

「よしっ!」

 

「いいよ!シロ!」

 

 

東四局が終わった直後、特別観戦室では臼沢塞と鹿倉胡桃が大いに喜んでいた。7,700とはいえ、重要な場面できっちり和了れたのは大きい。小瀬川以上に喜んでいた二人であった。

 

【7,700……か】

 

それを尻目に赤木はスクリーンを見ながら呟く。それを聞いた臼沢塞と鹿倉胡桃は赤木に詰め寄る。

 

「どういうことですか?」

 

対する赤木は【・・・何でもねえよ】とあっさりと返す。だが、直後赤木は思考を巡らせていた。

 

(【・・・ドラが絡み7,700にまで上昇し、まずまずな点数になったように思えるが、本来アレは一通のみの手……】)

 

そう、ドラによって隠れがちだが、ドラが無ければ2,000ぽっちの手。いくら調子が良いと言っても、2,000ぽっちの手など調子が良いとは言えない。今はまだドラがある分、まだ良い方なのだろう。おそらく親番が終わるまでは大丈夫であろう、と赤木は考える。だが、そのあと、南場での小瀬川の衰運。これも同時に予知していた。

 

(【・・・この対局、真にあいつの力が問われるな……】)

 

 

 

決勝終了まで、残り五局

 

 




次回は一本場。
そろそろ残りのリクエストも消化して二回目を開催したいという願望。そんなことよりはよ本編書けという話ですがね。

え?1日にリクエストも本編も書けばいい?
・・・聞かなかった事にします。

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