宮守の神域   作:銀一色

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南一局。
麻雀描写は殆どないですが、確かに進んでいます。

追記
活動報告にて、アンケートをとっています。
詳しくは活動報告にて。


第82話 決勝戦 ㉚ 重圧と抗う意思

 

 

 

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実況室

南一局 親:宮永照 ドラ{東}

 

小瀬川 25,800

照 38,500

辻垣内 23,400

洋榎 12,300

 

 

「こ……小瀬川選手、和了牌の{赤⑤}をツモりましたが、それを見逃して宮永選手に振り込んでしまいました」

 

東四局二本場で小瀬川が{④}に見えた{赤⑤}を切って宮永照に振り込んだのと同時刻、実況のアナウンサーが半ば驚きながらも実況という職務を全うする。しかし、その声には明らかな動揺が見られた。一方の大沼も、目を見開いて画面越しにいる驚いた表情の小瀬川を見ていた。

 

 

「・・・お、大沼プロ、これは故意に小瀬川選手が振り込んだのでしょうか?」

 

頭の中で今起こっている事の状況が処理しきれていないアナウンサーが大沼に助けを求める。が、大沼も何が起こっているのか分からなかった。無理もない。何せ小瀬川自身も{④}と{赤⑤}を見間違えるなど、全くの予想外であったのだからだ。

 

「・・・多分、故意ではないだろう。小瀬川選手の表情を見る限り、本気で見間違えたのだと思う……」

 

落ち着きを取り戻した大沼が冷静に答えるものの、アナウンサーは未だ驚いており、ソワソワしてどこか落ち着かない様子だ。

 

「・・・しかし、あれほどの集中力を発揮していた小瀬川選手が、見間違えるなんてこと有り得ますかね?」

 

アナウンサーが大沼に質問する。その質問は的を得ている。考えられないのだ。見間違えるということなど。盲牌で間違えるという事はそんなに珍しくはない。だが、あの時小瀬川は目でしっかりと{赤⑤}を見てから切っていた。間違えるわけがない。しっかりと確認していたのだから。

それなのに、宮永照に和了られ、それを見逃したと知ると明らかに驚いていた。意味が分からない。

 

「・・・分からない。だから分からないんだ。決勝戦まで残るほどの実力のある選手が、あんな場面で牌を見間違えるなんて話……」

 

もしかして小瀬川の体は何か異常を抱えているのではないか、と言おうとしたが大沼は言わなかった。ここまでくると流石に憶測だけでは語れない領域に入ってくる。大沼は咳払いをして、画面に映る小瀬川を見つめた。

 

 

(・・・小瀬川。お前には一体何が起こっている……?)

 

 

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対局室

 

 

 

(・・・おかしい。おかしいねん、シロちゃん)

 

前局、聴牌はしていたものの、宮永照に和了らててしまった愛宕洋榎は、宮永照に振り込んだ小瀬川白望を真剣に見つめていた。明らかに不自然過ぎたのだ。あの小瀬川は振り込んだ後驚愕するという、多分一生拝めないであろう光景が、まさかこの場で展開してしまうとは。偶然なんかじゃない、何かがある。小瀬川の身に何かが起こっている。そう見抜いた愛宕洋榎は、小瀬川にわざと聞こえるようにこう言った。

 

()()()()()()()()()()

 

それを聞いた小瀬川は、何かを言い躊躇って

 

「・・・大丈夫」

 

と答えた。彼女なりに心配をかけまいと言ったのだろうが、生憎ながらバレバレだ。愛宕洋榎だけではなく、他の二人もそれが痩せ我慢だという事は一瞬で見抜いていた。だからこそ、愛宕洋榎は困っていた。このまま対局を続行させれば、いつ小瀬川の身に何が起こってもおかしくはない。かといってここで中断させるように促せば、それは小瀬川という一雀士に対しての侮辱となる。これが愛宕洋榎にとって赤の他人であれば困りはしなかっただろう。しかし、小瀬川白望は愛宕洋榎にとって他人なんかではない。友、親友、好敵手……かけがえのない存在であったからこそ、愛宕洋榎は悩んでいた。彼女の安全を優先させるべきか、彼女の意志を優先させるべきか……

 

 

(・・・チッ)

 

二つに一つ。しかしどちらを選んでも小瀬川が良くなる事はない。何もしてやれない、どちらかしか選ぶ事の出来ない自分の無力さに思わず心の中で舌を打つ。

しばし考えていた愛宕洋榎だったが、遂に決心したようで、息を思いっきり吐く。

 

 

(仕方ない。ええよ、シロちゃん。その意志、尊重してやる)

 

 

愛宕洋榎という雀士として、小瀬川白望という雀士を尊重する。この決断が正しかったどうかは分からない。いつ彼女の身に何か異常が起こってしまうかなど予想すらできない。だが、愛宕洋榎には、小瀬川白望の気持ちを無下にする事はできなかった。小瀬川白望の闘志を、中断などという行為で絶やしたくなかったのだ。

 

彼女を心配する気持ちをぐっと抑え込み、一人の雀士として、小瀬川を見つめる。

 

 

i

 

 

 

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特別観戦室

 

 

「・・・シロッ!?」

 

 

ガタッ!っという音と共に、臼沢塞が立ち上がる。小瀬川のあの不用意な振り込みに、思わず手に汗を握る。その隣にいる鹿倉胡桃も、画面に映る小瀬川を心配そうに見つめる。そして赤木は、まるで赤木が闘っている時のような真剣な表情でスクリーンを睨みつける。赤木は実体がない故表情などは実際は分からないのだが。

 

(【・・・まさか、あの闇があいつに牙を向けるとはな……】)

 

迂闊だった。赤木は素直にそう感じる。まさか小瀬川の体にまで干渉してくるとは、思いにも寄らなかった。かつて死闘を演じた鷲巣巌の光は鷲巣巌を救うだけの存在であったため、小瀬川の害になるとは考えてすらいなかった。いくら赤木はオカルトには精通していないとはいえ、赤木の考えを上回るあの闇は、途轍もないものなのだろう。そして、それに侵食されている小瀬川の身体の負担も、想像を絶するものなのだろう。

 

 

「・・・ッ!」

 

そこまで赤木が考えていると、歯軋りする音が聞こえた。その音源は臼沢塞から。よく見ると臼沢塞の足は既に観戦室の扉の方を向いていて、いつでも外に出れるような位置取りだ。鹿倉胡桃に至っては、足どころか、さっきからチラチラと扉の方を見ている。だが、両者ともそれを必死に抑えようとしているのがわかった。

 

(【あいつに何もしてやれない……それに対する歯がゆさ。・・・分からなくもない……かつて俺が死ぬ時に、皆んなが俺に向けてくれたのも、そんな表情だった……】)

 

そんな塞を見て、赤木は昔の事を思い出す。自分の我儘を押し通し、自分を見殺しにしてしまうという形になりながらも、自分の意志を優先してくれた、友の事を。

 

(【お前らも……見届けてやれ。あいつの……小瀬川白望の意志を優先してやれ……】)

 

それは、小学生にはあまりにも辛い決断。しかもそれが、意中の人とあれば尚更だ。だが、それでも尚、臼沢塞と鹿倉胡桃は必至となって小瀬川の意志を優先しようと闘っている。

 

 

 

 

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「ツモ」

 

五巡目

宮永照:手牌

{一二三四五六七八九②②44}

ツモ{②}

 

「・・・2,000オール……」

 

 

だが、そんな応援も虚しく宮永照が五巡目にして和了ってしまう。30符三飜、2,000オールの和了。ここにきて宮永照がどんどん加速し始めた。前局と合わせればこれで六飜目。役満発動まで残り七飜となり、これ以上連荘が続けば、役満発動も笑えない状況になってくる。

 

 

そして対する小瀬川だが、前局よりも配牌は酷くなっており、手を進めようとすればするほど小瀬川の頭痛が増した。この局、2回ほど手を進めることができる牌をツモってきたが、向聴数を上げるため不要牌を捨てた途端前局よりも大きい痛みが頭を駆け巡った。そして相手の捨て牌をしっかりと判別できていないのか、宮永照が四巡目に聴牌した直後の小瀬川の打牌は超危険牌の{赤5}を切ったりなど、前局より容態は悪化していた。

 

 

(・・・なに……これ……)

 

思わず息を切らしかけるほどの体にかかる重圧。そして意識が朦朧するなど、前局は少しの不具合程度だと思っていた自身の容態が、明らかな異常だと悟った。わずか一局。それも、たった五巡でここまで悪化するという異常事態に小瀬川の思考はぐちゃぐちゃになる。目はたまに霞み、少し気を抜くと倒れてしまいそうな身体の異常にも小瀬川は懸命に抗う。その意志に一切の逃げようという迷いはない。最後まで、それこそぶっ倒れるまでやるという闘志は捨てない。これが『赤木の麻雀』。だが、そう意思を固くした直後に来る頭痛。しかしそれでも負けない。

 

 

(例え……私の身体……それこそ、私の中心部を司るものが止めようとしても……曲げられない……曲げられないんだ……)

 

どうなっても構わない。ただ、逃げることだけはごめんだ。

 

 

(・・・逃げの中断など行う気なし……続行……続行だ……)

 

 

半ば痩せ我慢の笑みを浮かべながらも、小瀬川は抗い続ける。するとその意思が自身の闇を上回ったのか、少し体が楽になった気がした。だが、それでも体にかかる負担は通常では計り知れないほどのもの。圧倒的ハンデを抱えながらも、小瀬川は立ち向かう。目の前にいる三人は勿論、己自身に。

 

 

 

 




次回は南一局一本場。
シロの容態がやばい……!

追記
活動報告にてアンケート中。
期限があるので、期限内にお願いします。

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